199 シノビマスター参上
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
王女たち一行が輸送機の外に出たのを格納庫の中で見届ける。
「ああ、そういうことか」
今まで動かなかった禿げ脳筋がダッシュでこちらに向かってくる。
王女たち一行が出てくるのを待っていた訳だ。
「やめよ! 止まらぬかっ」
不意を突かれた宰相は制止が明らかに遅れてしまった格好だ。
禿げ脳筋は無視を決め込んでいる。
「では、収納」
慌てず騒がず毎度お馴染みとなりつつある光の魔方陣を展開させて輸送機を倉庫へ回収。
俺たちは魔方陣の上にゆっくりと降下していく。
「こんな感じだ」
「相変わらず突拍子もないことをしおるわい」
そう言う割にガンフォールは欠片も驚いていない。
逆に王城の面々は完全に茫然自失になっているのが多数。
宰相でさえ青ざめた表情で固まっている。
唯一、動ける状態なのは禿げ脳筋だけというのはどうなんだろう。
さすがに距離のある状態で足を止めはしたけどね。
それでもハルバードの切っ先をこちらに向けて大声で難癖をつけてくる。
「おのれ、怪しげな術で姫様をたぶらかす不届き者共めっ」
なんか勝手にストーリーができているっぽいな。
「貴様らの正体は分かっている!」
とか言っているが、鑑定してそういう見抜く系のスキルはないと判明している。
「その方らは魔族であろう」
「妄想もはなはだしいな」
向こうが勝手な理屈を大声で言いたい放題なのでスルーしてエリスに話し掛ける。
奴は陶酔しきった表情で喋ってるし顔さえ前を向いていれば気付かれまい。
何にせよ人のことを魔族呼ばわりした時点で向こうの言い分を聞く気は失せた。
「王や宰相の頭痛の種です」
どうやら他人事だと思っているらしくエリスの失笑が聞こえてくる。
いい性格してるよ。
とにかく禿げ脳筋は思い込みの激しい奴だということはよく分かった。
そのせいで軍務大臣を辞めさせられたと鑑定結果にも出ているのに懲りてなさそうだ。
代々、軍務大臣を務めてきた名門らしいのに残念なジジイだ。
「病気ってことにして修道院送りにすればいいのに」
ここで言う修道院は無期刑専用の監獄みたいなものだ。
人里離れた場所にあるのが普通であり、脱走は死を意味する。
「さらっと怖いことを言うのう」
まるで怖がっているように聞こえないぞ、ガンフォール。
「先天的な心の病気なんぞは治療しようがないからな」
「せん……なんじゃと?」
「先天だよ。生まれつきという意味。つまり、奴は生まれた時から病気ってこと」
この言葉で周囲に、じゃあしょうがないと言わんばかりの空気が広がった。
こりゃ駄目だって感じなんだけど、コントならともかくリアルでそれは終わってる。
「──なのだっ。よって、このウィリアム・ビットリアが成敗してくれる!」
禿げ脳筋の独演会は奴自身を更に盛り上げたようで完全に頭に血が上っていた。
ガンフォールやエリスは目に入っているはずなのに認識できていないし。
まるでネイルみたいな奴だ。
「ここはワシがなんとかしよう」
ガンフォールが前に出ようとするが……
「ぐべっ」
ガンフォールの服の襟を掴んで止める。
「なにを──」
ギィンッ!
ガンフォールが抗議しながら振り向くと同時に金属同士を弾けさせる音が周囲に響き渡った。
「な、なんじゃ?」
慌てて音の方へと向き直るガンフォール。
その視線の先には禿げ脳筋と対峙する黒装束に身を包んだ性別不詳の何者かがいた。
手にした刀でハルバードを押し返し鍔迫り合いの格好になっている。
「あれを易々と受け止めるじゃと!?」
ガンフォールが驚愕しているほどだから周囲の反応などはそれ以上だ。
どよめきが一気に広がる。
「何者だ!?」
己の武器を弾き飛ばされそうになったことで些かの動揺を見せた禿げ脳筋が誰何する。
「我ハ、シノビマスター。神ノ意向ニ背ク者ハ排除スル」
「ここで出てきおるか」
ガンフォールが唸っている。
エリスも息をのむ感じで驚いていた。
「黙れ下郎! この世に神などおらぬわっ」
神殿関係者もいるだろうに神様まで否定するのか。
「ワシは許さん、許さんぞぉっ!!」
禿げ脳筋が鍔迫り合いの状態から離れてハルバードを振り回す。
「うぉおりゃぁっ!」
裂帛の気合いと共に繰り出される振り下ろしの一撃。
少し離れているはずだが、ここにまで空気を裂く音が聞こえてきた。
「鋭い」
それまで沈黙していたハマーが唸るように呟く。
「そう?」
レイナがアニスに問いかけた。
「大したことないで」
バッサリな評価を月影の面々がうんうんと頷いて同意したことでハマーは驚愕を隠せぬまま撃沈された。
「お前ら、少しは気を遣え」
「えー、ハルトはんに言われたないわ」
「だよねー」
「ぐっ」
そんなやり取りをする間も禿げ脳筋は止まらない。
デカい図体に筋肉ダルマなだけあって太くてゴツいハルバードを軽々と扱っていた。
バランスの悪いポールウェポンで綺麗に振り突き薙ぎを繰り出しているのは技術もある証拠だ。
「うぉりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃっ!」
もう少し静かに攻撃できんのかね。
ハルバードで連続突きとかドヤ顔でアピールされてもな。
「どちらも本気ではないようじゃな」
ガンフォールも気付いたようだ。
シノビマスターは禿げ脳筋の攻撃を紙一重ですべて躱している。
見る者によっては余裕がないようにも見えるだろうか。
「せやけど、あのシノビマスターとかいうオッサンの方が上手やで」
オッサンって……
確かに俺と疑われないために日本の有名声優から声を拝借しましたよ。
専業主婦の名前がタイトルになっているアニメの登場人物で説明すると旦那の同僚だ。
ウナギみたいな名前と言えば多分ピンとくるんじゃないかな。
確かにオッサンか。
俺が操っていることがバレていないようで何よりである。
『くっくっくくーくうくぅくっくくーくぅーくぅ』
そこまで見切れるほどの域には達してないのだ、と霊体モードのローズさん。
「確かに、あの黒ずくめの人物の方が何枚も上手のようだ」
ルーリアもアニスの意見に賛成している。
「あのハルバードの人もまだ本気ではないようですが?」
ボルトが指摘してきた。
それを見抜けるということは成長の余地があるな。
「せいぁっ!」
右斜め上からの振り下ろしを半身になって躱す。
「ぬうぅんっ!」
返しは大きな隙を見せずに繰り出されているが、これも余裕を持って躱す。
「うぉりゃあぁ─────っ!」
更に近寄らせまいと縦横斜めにハルバードを振り回して間合いを確保していた。
『くぅーくっ』
うるさーい、だそうですよ。
まったく同感ですな。
ハッキリ言ってしまうと躱すのさえ億劫なくらいである。
そういう面倒くさそうな部分が見て取れたのかノエルがボソリと呟いた。
「遊ばれている」
周囲で見守る形になっている騎士や兵士が相手なら効果的だろう攻撃もシノビマスターにはかすりもしない。
すべてギリギリで躱されていた。
「くっ、おのれ! 逃がさんぞぉっ!」
禿げ脳筋の言葉が雑魚っぽいせいか、うちの子たちの視線は冷ややかである。
「逃がさんて、どう足掻いても無理やろ」
「だよな。あのジジイと違ってシノビマスターは底が全然見えないってのに」
辛辣なアニスの評価に同意するレイナ。
「「万が一もないよねー」」
更にリリーとメリーが身も蓋もない評価をしている。
「動き始めを見極められてますよー」
ダニエラも冷静に分析して率直に語っている。
「どうやっているのかは分からんが、そのようだ」
リーシャもそれに続く。
「そんなことまで分かるのか、お主ら」
ハマーが驚いているが、うちでは普通だぞ。
「この程度は特に驚くことではないが?」
今度はルーリアに撃沈されてしまった。
憐れなり、ハマー。
「一見すると勘のようにも思えるが、そうではなさそうじゃ。何かを見極めておるように見える」
ガンフォールの眼力はなかなかのものだ。
正解まで後一歩のところまでは辿り着いている。
「問題は、あのシノビマスターなる者が初手からそれができているということじゃ」
溜め息と共に漏らした言葉は謎が深いと言わんばかりである。
「相手のクセや力量を見極める時間もない状態で、あのような真似ができるとはの」
『くーくくぅくっくくぅくーくーくうくーくっ』
筋肉の動きと魔力の流れを見れば簡単だよー、と聞こえもしない返事をするローズさん。
やり方さえ教えれば月影の面々にもできるだろう。
大した相手じゃない。
読んでくれてありがとう。




