197 到着したけど……
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
誰かに迷惑がかかる訳じゃないからキューブパズルに没入するのは構わないが、到着してもこのままだったら困るな。
今は呼びかけても耳に入らないようなので、しばらく様子を見るしかあるまい。
彼女らの手元を見ていると個性の違いがよく分かる。
まず、王女は面をそろえようという気がなく1面だけに注目して模様を作っては崩してを繰り返している。
6面をそろえなければならないという決まりはないのだし、これも楽しみ方のひとつではあるか。
マリアや魔導師組は縦横に動かしてから位置の変化を観察するの繰り返し。
法則性を見つけようとしているのか。
ひたすら面をそろえようと頑張っているものの1面と1列で停滞している護衛騎士たち。
そこに至るまでは割と早かったんだけどね。
そして謎の行動をする神官ちゃん。
パッと見は適当に動かしているんだけど、よく見れば途中までは完成に近づいている。
そこから何故かグシャグシャに崩すんだけど。
完成させて目立ってしまうのを忌避しているのか?
うーん、わからん。
エリスは周りが熱を上げていることを察したのか途中で手を止めて皆の様子を見ていた。
終わりを告げても止められなかった時は頼りにさせてもらおう。
それから俺はガンフォールと打ち合わせを行い、他の面々は仮眠を取ったり雑談したりしていた。
しばしの時が過ぎ目的地が近づいてきた。
「そろそろ切り上げようか」
さすがに集中力も落ちていたのか俺の声はちゃんと届いたようだ。
ゲールウエザー組全員が手を止めて俺の方を見た。
「何かありましたか?」
到着まであとわずかとは夢にも思っていないらしく心配そうに聞いてくるマリア女史。
「着いたから着陸する」
あ、フリーズした。
「おーい、起きろー」
この程度の呼びかけで復活してくれるからマシだとは思うんだけど。
「え? 冗談ですよね」
マリアを初めとしたゲールウエザー組は呆気にとられていた。
上空で飛ぶとスピード感皆無だから無理もないか。
「どういうこと?」
「まさか、こんな短時間で?」
護衛騎士がお互いに顔を見合わせて混乱を隠しきれずにいた。
まあ、ハマーやボルトも目を見開いて驚いていたので無理からぬところだ。
だから瞳をキラキラさせているクリス王女と神官ちゃん、それとニコニコしているエリスは大物と言えるだろう。
「冗談なんて言ってどうする。ほら、下の様子を大きく見せるから確認してみな」
壁面に映し出された映像をズームしていくと上から俯瞰した王城が徐々に大きくなってきた。
「これは確かに王都のようです」
愕然を絵に描いたような面持ちで呟くマリア。
ざわつくゲールウエザー組。
「ハルトよ、下の者たちが騒いでおらんぞ」
ガンフォールがツッコミを入れてきた。
「大きく見せるって言っただろ」
「む? つまり我々は発見されぬほど高い所におるのじゃな」
「ああ。それに結界で見えなくしてる」
「……何と言って良いやら言葉が見つかりません」
マリアがそう言いながら頭を振るくらい自重を置き去りにしている自覚はある。
しかしながら、こうしとかないといけない理由がある。
「まさか一般市民に輸送機の着陸するところを見せる訳にもいかんだろ」
集団パニックで王都が大混乱なんて考えたくもない。
田舎の地方都市であるブリーズでさえ蝗害の時には街を引っ繰り返すような混乱ぶりだったのだ。
街としての規模が違う王都は人口も桁違いに多いことを考えれば少なくない犠牲者が出ることだろう。
「それは……、そうですね」
俺の言いたいことが理解してもらえたようでなにより。
「ですが、このまま王宮に下りても発見されないのではないですか」
「ある程度まで降下したら真下からだけ見えるようにする」
「「そんなことができるのですか!?」」
ビクビクしながら聞いてきたのは魔導師組だ。
瞬間的とはいえ知的好奇心がトラウマを凌駕したのは凄いとは思うけど。
そういや自転車の時に根性と根気を見せてもらったっけ。
「この程度は驚くに値しないぞ」
俺の返事にゲールウエザー組が目を点にさせているがフォローはしない。
「それよりも降下するから外に出る準備よろしく」
これで皆が動き出すだろうと踏んだからだ。
念のため降下はゆっくりにしておいたので着陸するまでに支度は終わらせられるだろう。
まずは格納庫に下りるのだが。
「ここではさすがに外の様子はわかりませんね」
王女がそんなことを言うのは壁面が格納庫然として客室のようにのっぺりしていないからだろう。
「姫様、仕方ありません」
ダイアンも同じように考えているようだ。
「何を訳の分からないことを言ってるんだ?」
返事を聞く前に幻影魔法で下の様子を宙空に映し出す。
「「っ!」」
魔導師組が瞬時に幻影魔法であると理解したのか凄い勢いで振り返った。
「これは賢者様が?」
それを見てマリア女史が尋ねてくる。
「まあね。だけど壁面に映し出すのと差はないぞ」
この返事の何が驚きなのかはわからないのだが魔導師組が固まった。
少しは神官ちゃんを見習って欲しい、もの……だ?
「ウフフ、無詠唱で幻影魔法ですか。凄いですね堪りませんね。ロマンですよ、これは。賢者様はやはり凄い素晴らしい」
前言は撤回しよう。
なんだか危ない雰囲気を醸し出しながらブツブツと独り言を呟いている。
『ローズさんや』
念話で霊体化している相棒に呼びかけた。
『くーう?』
なぁに? と応じてくれた。
『この子、大丈夫だよな』
『くぅくっ! くーぅくくっくーくぅくー』
心配無用! 単に厨二病が入ってるだけって……
不安をかき立てる単語が出てきたがローズのお墨付きが出たのでヤンデレみたいなことにはならないだろう。
『何かの拍子にスカウトするなら?』
『くーぅくくっくう』
問題ナッシングーとは言われたけれど今スカウトする訳じゃない。
候補の1人ってだけだ。
そんなことを考えていると、エリスが近寄ってきた。
「あの、先生」
「ん?」
やや緊張した面持ちで話しかけてくる。
「何か変です」
映し出された下の状況を見て違和感を感じたのだろう。
「厳戒態勢という感じではないが騎士や兵士が動員されているな」
「言われてみれば……」
ハッとした顔で映像を見ている。
街中を巡回する衛兵の数が少し多めで王城の城壁にある櫓には騎士が多めに常駐していた。
エリスが感じ取ったのも、そういうところだろう。
王都の民も勘のいい人間なら気付きそうだが騒ぐほどでもなさそうだ。
宰相も空を飛んでくると聞かされたことで不測の事態に備え人員配置したようだな。
ただ、この調子だと一波乱ありそうな気がする。
「何かあったのでしょうか」
シノビマスターが予告したなんて知らないからなぁ。
「ああ、お節介な奴が宰相に俺たちが来ることを教えたみたい」
「え!?」
思わずといった感じで大きな声を出してしまうエリス。
それまでさり気なく雑談している風を装っていたのに台無しである。
「どうかなさいましたか」
マリア女史と護衛隊長のダイアンが俺たちの所に寄ってきた。
エリスは表情こそ平静を装っているが内心ではしまったと思っていることだろう。
取り繕ったところで今更である。
「いや、王都の様子が普通じゃないって話をしていた」
映像を指差して言ってみる。
こんなの誤魔化せば不信感を抱かれるだけだからな。
「確かに普段とは違う配置です」
さすがは護衛騎士の隊長を務めるだけあって、ダイアンはすぐに見抜いたようだ。
「どういうことでしょうか」
マリアはややピリピリした感じだがダイアンはあまり緊張感もなく首をかしげている。
「戦時のような警戒態勢ではないですね」
なるほど。大事ではないと判断したか。
「警備強化の訓練も予定されてはいなかったはずです」
不思議そうに考え込んでしまっているのはシノビマスターのことを知らないからだな。
今更感があるけど説明しておこうかね。
読んでくれてありがとう。




