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196 到着までの時間を潰す方法は

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


「うちでは普通なんだがな。昼に食べた卵焼きにも砂糖は入っていたし」


「「「「「ぃ─────っ!」」」」」


 ゲールウエザー組はおろかジェダイト組までもが、ほぼ声もないままに驚いている。

 そうか、王族が驚くほど貴重なのか。


「ああ、虫歯にならないよう後で歯磨きはやっといた方がいいぞ」


  砂糖が普及していないせいか、虫歯治療の魔法は西方じゃ幻レベルで知られていないようだし予防は大事だ。

 うちの子たちは魔法で口腔内洗浄できるからいいんだけど西方の面子にはそれも難しそうだし。


「砂糖が簡単に入手できるのですか?」


 驚きを交えてマリアが聞いてくる。

 虫歯に対する注意喚起はスルーされてしまった。


「北方の国とも交流があるのですか?」


 俺が返事をする前に質問を重ねてくる王女も虫歯は眼中にないようだ。

 なったことがないから怖さを知らないのかもな。


「ワシらも北方との交易で少量を入手するのが精一杯なんじゃぞ」


 ガンフォールもか。


「うちは自前で作ってるから輸入なんてしてないぞ」


「「「「「なっ!?」」」」」


 またしても激しい反応で驚かれてしまった。

 どうやら西方ではサトウキビのことは知られていないらしく甜菜で生産する砂糖が主流みたいだ。


「サトウキビという南方の暖かい土地で栽培される植物から砂糖が精製できるからな」


 この言葉でジェダイト組もゲールウエザー組もしばらく口を挟めそうにないくらいに盛り上がった。

 砂糖を自前で作れるというのは俺が思っている以上のことらしい。

 なんにせよ砂糖が作られるようになったら虫歯の患者が急増するだろうな。


「そのくらいにしておくんだな。茶が冷めるぞ」


「そうでしたそうでした」


 王女が羊羹に手をつけ一口食べてから緑茶を飲む。

 慌てた様子を見せながらも振る舞いが上品なのは王族として英才教育を受けているからだろうな。


「緑茶は、この羊羹というお菓子によく合いますね」


 王女が瞳をキラキラさせながら感想を述べる。

 毎度のことで感激屋さんとして俺の中でイメージが決まりつつある。


「賢者様、レシピを教えていただくことはできないでしょうか」


 王女の様子を見ていたマリア女史が目を三角にしている。

 必死すぎだろ。


「もちろん相応の報酬をお支払いさせていただきます」


「いや、レシピはタダでいいよ」


「本当ですか!?」


 勢い込んでマリア女史が目の前に迫ってくる。

 些か酷なことをしてしまったかもしれん。


「それよりも材料をどうやって手に入れるつもりだ?」


「あ」


 まずは砂糖がネックになる。

 そこに気付いたのか、鬼気迫る感じだった雰囲気が一瞬にして萎んでしまった。

 それでも諦めきれないと目の光は失われていない。


「他にも寒天という海藻を原材料にしたものを使っているからな」


「カンテン……ですか」


 当然、知らないよな。

 海中の魔物に対応できない西方じゃ海はタブーみたいだし。

 現に海藻について説明すると青い顔をしていた。


「入手は非常に困難なようですね」


「小豆も作られてないだろうし」


 試しに小豆と白小豆を見せてみたが知らなかったようだ。

 白小豆は抹茶味の羊羹で使っている。

 白インゲンを使う場合もあるようだが食べ過ぎると消化不良を起こすこともあるようなので俺は白小豆を採用した。


「芋は干ばつ対策としてこれから栽培する量が増えていくだろう」


「それは朗報ですね」


「だが、豆は対策の対象外だ」


「現状では新たに作るのは難しいですね」


 小豆を使った羊羹が作れないのはショックがよほど大きいのか、マリアから最初の勢いが消えてしまった。


「このような状況では仕方ありません」


 可哀相になるくらいションボリしていたが踏ん切りはつけられるようだ。


「ですが、いつか作ってみせます」


 それまで我慢できればいいんだけど。

 羊羹の話題は早々に切り上げるとしよう。

 このまま引っ張ると俺の国が何処だかも知らないまま亡命するとか言い出しかねないしな。

 羊羹のためだけにとか前代未聞だろう。

 お菓子が食べられないなら亡命すればいいじゃないなんて迷言が生まれそうで怖い。


 そうなると時間を潰すネタが欲しくなる。

 このタイミングで到着してくれると有り難いが、そう都合良くはいかない。

 何日も掛けて行き来するところを1時間ほどで到着しましたじゃあ何を言われるか分からないから時間調整して飛んでいるのだ。


 シノビマスターに予告させた日が傾くまでには到着させるから結果は変わらんかもだけど。

 それに勘のいいエリスには、そのあたりのことを気付かれているかもしれない。

 伊達に年を食って……


 迂闊なことを考えるのはよそう。

 こっちの世界だと27才ってのは行き遅れ扱いされるみたいだし。

 成人年齢が15才じゃ無理もないんだけどね。


 何にせよ到着まで時間はまだある。

 地上の景色もそれなりの高度を飛んでいるとそう代わり映えするものではない。

 この調子じゃ、客人が暇を持て余すだろう。


 そう考えているとガンフォールが自分の荷物を漁りに行って戻ってきた。

 手にした6面体パズルでカチャカチャ遊び始める。


「持ってきていたのか」


「うむ。暇つぶしに使えるかと思ってな」


 俺とガンフォールの話を耳にしたハマーがショックを受けていた。

 将棋盤を持ってくるんだったとでも悔やんでいるのだろう。

 根が真面目だから将棋盤とか持ち歩くのに抵抗があったんだろうけど。


 悔やむ者がいる一方で興味深げに見守る面子もいる。


「それは何でしょうか?」


 王女を初めとしたゲールウエザー組だな。


「これはハルトに貰ったものでキューブパズルという知的遊具の一種じゃな」


 王女の問いに手を止め顔を上げたガンフォールが答えた。


「知的遊具ですか」


「立方体をこのように動かしてすべての面の色をそろえるものじゃ」


 説明しながら1面をそろえたガンフォールはキューブをテーブルの上に置いた。


「ワシのような初心者では、これが精々じゃがな」


 とは言うが1面と1列をそろえているので反対側の面をそろえられれば中級者の入り口に立てると思う。

 上級者はいきなり仕上げるけどな。


「やってみるか」


 ガンフォールは興味深そうに顔を近づけて眺めている王女に勧めている。


「よろしいのですか」


「構わぬよ」


「いや、これを進呈しよう」


 俺はそう言いながら召喚魔法を装って倉庫からキューブパズルを引っ張り出していく。

 王女だけでなく全員に行き渡るよう倉庫内で複製しながらね。

 初めて見る面子は興味津々だもんな。


「賢者様、ありがとうございます」


 王女を初めとして手渡した全員から礼を言われた。


「礼には及ばないさ。構造は単純だから高価なものでもないしな」


「いえ、助けていただいてお礼も満足にできていませんのに」


 ゲールウエザー組は全員が神妙な面持ちだ。


「礼なんてのは感謝の気持ちひとつで足りるんだよ」


「ですが」


 王女がそんな風だと他の面子が楽しめなくなるっての。

 それを指摘すると今度は王女が凹むことになるのが目に見えているので面倒なんだよな。


「そんなことより、やってみな。おもちゃは遊んでこそ価値があるもんだ」


「はい」


 合う合わないがあるから面白いかどうかは保証できないけれど。

 まあ、現状で敬遠しているように見える者はいないのでしばらくは大丈夫だろう。


 王女がカチャカチャとキューブパズルを回し始めると、他の面々も黙々と手を動かし始めた。

 そこに会話はない。

 没頭するというか完全に視野狭窄状態だ。


「あんまり根を詰めないようにな」


 気になって忠告してみたが、返事がない。

 ほぼ全員が俺の言葉が耳に入らないような状態で集中している。


「マジか……」


 時すでに遅しという感じだ。


読んでくれてありがとう。

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