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195 妙なことに食いつかれる

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


 食後の片付けも終わり緩い空気が機内に漂っていたが。


「ダイアン?」


 王女が首を傾げている護衛隊長に声を掛けた。


「申し訳ありません。特に何かした覚えはないのですが体が軽く感じるのです」


「隊長、自分もです」


 同意したのは副隊長のリンダだ。

 いや、それだけではない。

 他の護衛たちも口々に同意していた。


「んー、そうね。私もかしら」


 王女も首を傾げて考える素振りを見せてから同じような反応をする。


「マリアはどうかしら?」


「そうですね、私も重さが取れた感じがします」


 失敗した。

 ポーションの薄め方が足りなかったのか想定以上に効果が出てしまったみたいだ。


「おそらく食事のお陰でしょう」


 完全にバレてしまったな、これは。

 最初から気付いていた感じのエリスは黙ってくれていたんだけど。

 マリア女史にああ言われてしまっては俺に注目が集まるのは当然のこと。


「梅干しが良かったのでしょうか」


 なんてことを王女が聞いてくるが、さすがにそれはない。


「アレは食べ物だからそんなに早くは効かないね。疲労回復ポーションを薄めて少し混ぜておいた」


 変に誤魔化さず正直に白状しておく。

 お陰でジェダイト組の視線が生暖かい。


「うちの護衛メンバーもダンジョンに潜っていたのでね」


 言い訳がましいが自分たちの食事にも入っていたことをアピールしておく。


「まあ、そうだったんですの?」


 王女のその問いはノエルに向けられていた。


「ん」


 表情ひとつ変えずに短く答えるノエル。

 つれない態度だがクリス王女は目くじらを立てたりはしなかった。


「ダンジョンですか。凄いですねぇ」


 感心と感激が半々で興味津々のようだ。

 ただ、ノエルはどうでもいいと思っているようで反応がない。

 あえなく撃沈である。


「賢者様」


 微妙な空気が漂っているのを見かねたマリアが話しかけてきた。


「本当にありがとうございます」


「何が?」


「我々の疲労具合を見て、事前に食事を用意してくださっていたのですよね」


 マリア女史は深い配慮があったと思っているようだ。


「我が主に代わりお礼を述べさせていただきます」


 単なる思いつきなんですが?


「誠にありがとうございました」


 そんな風に礼を言われるとむず痒い。


「気にしなくていい。向こうに着いたらタフな交渉が始まるだろうし」


 俺がそう言うとマリアはちょっと驚いた表情を見せた。


「そこまで考えておられたとは……」


 ますます誤解されてしまったようで。


「賢者様は常に2手3手先を読んでおられるのですね。私、感服いたしました」


 俺にそんな意図はないのに、まるでどこかの赤い少佐のようなことを言ってくれる。

 まあ、勝手に誤解してくれるなら好都合か。


「ところで……」


 今度は何よ。

 更に声を潜めてきたな。

 顔も近づけてきて、いかにも内緒の話って雰囲気になっているが。


「私もお手洗いをお借りしてもよろしいでしょうか」


「使い方はツバキに聞いてくれ」


 俺も声のトーンを落として応じながらツバキにアイコンタクトを取ると小さく頷きが返された。


「ありがとうございます」


 礼の言葉を残してコソコソした感じで離席するマリア。

 ただ、凜とした女性がそういう行動をすると逆に目立つんだよな。


「あら、マリア」


 王女に目敏く呼び止められてしまった。


「ひぃっ」


 短い悲鳴を上げてビクッと体を震わせたのが可愛く思えた。

 年上に対して可愛いというのも変なんだけどさ。


 冷や汗を流しながら振り向くマリア女史に王女から一言。


「後で感想を聞かせてね」


「はひ……」


 幸薄いというか運が悪いというか。

 興味が上回ったのだとは思うが気を遣ってあげようよ。

 と思っていたら王女が俺の側に来た。


「賢者様、後学のために見せていただきたいのですけど、よろしいかしら」


「後でツバキにまとめて説明させるから落ち着こうな」


「はい」


 とりあえずは見学の約束を取り付けたことで大人しく引き下がってくれたようだ。

 トイレの見学ってどうかと思うんだけど。

 水洗が珍しいのかね?


 何にせよ、すべてを説明する訳にはいかない。

 うちのは光魔法を付与した水で流すから普通の水洗じゃないんだよな。

 殺菌と洗浄が同時に行われる上にトイレ内全体が清掃と殺菌されるので掃除が不要。

 その上、流したものは処理槽で殺菌分解してから乾燥させて肥料にする。

 これが全自動で行われるんだから部外秘になろうというものだ。


 ちなみに乾燥肥料は自分たちで使う訳ではない。

 植生魔法があるからね。

 これを袋詰めして売り物として輸出する予定である。


 それにしても俺はなんでトイレのことばかり考えているのだろう。

 気合いを入れて作ったのは認めるけどさ。

 お陰で客人の反応は上々だから良しとしよう。


「画期的ですわね」


 ツバキから説明を受けた王女が実際に利用して盛り上がっている。


「これほど清潔に使えるとは」


「夢のようです」


 ダイアンやリンダも同調していた。

 他の騎士たちも同様である。


「むう、そんなに凄いのか」


 王女たちの熱がガンフォールたちにまで伝わったらしく興味深げに語りかけてきた。


「俺たちは当たり前に使っているけどな」


「お主のその言葉は当てにならぬ」


「信用ないなぁ」


「当然じゃ。色々と見せられてきたワシらの身にもなってみよ」


 そんなこと言われても知らんがな。

 完全に同じ立場になることなんてできないんだから。


「まあ、使い方の説明はさせるから見てくればいいんじゃないか」


「何度もすまんの」


 ガンフォールがツバキに詫びた。


「これくらい大したことではあるまい」


 ツバキは笑って応じている。

 見本市のナレーターコンパニオンじゃあるまいし同じ説明を何度もするなんて疲れると思うんだけどな。

 ジェダイト組は男だけなんだし俺でも問題なかったはずだ。

 思考停止していたのは反省せねば。


 しかしまあ、トイレの話題で話が尽きないとはね。

 小一時間は飽きもせず喋ってたもんな。


 少し落ち着いてきた頃を見計らって少し早めのティータイムとした。

 西方では一般的な紅茶ではなく緑茶だが。

 お茶請けは小豆に抹茶に芋の羊羹。

 餡子の黒色は元の世界であるセールマールじゃ外国人に敬遠されると聞いたことがあるので半ばチャレンジ感覚だったりする。


「これは変わったお菓子ですね」


 クリス王女の反応が普通だ。


「質感は同じに見えるのに色とりどりで目を楽しませてくれますし」


 西方に無いのは【諸法の理】スキルで先に確認してある。


「しかも上品な甘さもありますよ?」


 何故か首を捻って疑問系だ。

 王女が口にするのを待って他のゲールウエザー組も食べ始めたが様子がおかしい。

 全員フリーズ状態に陥ってしまった。

 王女の反応と何か関係が?


 一瞬、また何かやらかしたかと思ったもののガンフォールたちは普通に食べている。

 ドワーフは酒好きなだけでなく甘党だったようだ。


「これは砂糖を使っておるな」


「そのようですな。おまけに味が色ごとに違いますぞ」


 ボルトは何も語らず味わうように食べている。

 はて? 王女たちとの違いは何だろう。


「よろしいのですか」


 そこにエリスがこっそり聞いてきた。


「何が?」


「このように貴重なものを出していただけるとは思ってもいなかったのですが」


「貴重って?」


「砂糖が大量に使われていますよね」


 あー、西方じゃ砂糖は高級品だったっけ。

 ジェダイト組にとってはそうでもなかったみたいだけど。


「うちでは特に高価なものではないから心配しなくても大丈夫だ」


 そうは言っても初めて食べるシヅカのことは気になった。

 そちらに視線を向けると、幸せそうな笑みを浮かべながら黙々と噛みしめるように味わってらっしゃいますよ。

 いつものアダルトな雰囲気が完全に薄れてしまっている。


 喋れば簡単に化けの皮が剥がれるけど喋らずにというのは珍しいか。

 無邪気にすら見えるのは、なかなか微笑ましいものだ。


読んでくれてありがとう。

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