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19 地下での邂逅

改訂版バージョン2です。

 迷宮核が鎮座していた広間まで下ってきた。


「はい、到着っと」


 ふうっと一息。

 疲れた訳ではないが、ようやく感がある。


『戦闘も罠もなしでこれか』


 いや、逆かもしれない。

 大掃除の後に別の退屈な仕事が残っていた気分だ。


 浅いダンジョンを最短距離で来たとはいえ最下層は11層目だ。

 歩いてくれば、それなりに時間がかかった。

 何の刺激もないままでは多少は辟易もするというものである。


「あれが迷宮核か」


 ただし崩壊しているので粉々だ。

 大きいもので拳大になるかならないか。

 元々はキャベツ一玉分ほどの大きさだったと思われる。


「まるで琥珀だな」


 濁りのない蜂蜜のようにも見えるそれは、どれひとつとして角がなかった。

 大きさも形もバラバラだが表面はツルツルしているようにしか見えない。

 まるで川で流されてきた石のようだ。


「崩壊時に魔力の奔流にさらされた結果、か」


 【諸法の理】先生が教えてくれた。

 知ったところで役に立つ知識ではないが。


「さっさと回収だ」


 俺は風魔法で小さな旋風をいくつも発生させた。

 即席の掃除機で残骸を手元へ集める。

 瓦礫も一緒だが気にしない。


 集まったら地魔法で瓦礫を地面に同化させ均していく。

 残骸だけが残ったところで倉庫へと格納。


「まずは、ひとつっと」


 厄介ごとの種がひとつ片付いたことで溜め息が漏れた。


「残る問題は、こいつか」


 俺の地下レーダーに反応したブツだ。


「卵か……?」


 見た目はそのものなんだが大きさが判断を惑わせる。

 ダチョウの卵より二回りは大きい。


 色は艶のある薄い桃色だが、見る角度によっては虹のような光沢を発している。


「宝石……な訳ないか」


 これが宝石なら加工して磨いた者がいることになる。

 そんな訳はない。


 じゃあ何なのか?

 卵のようで卵でない。

 宝石のようで宝石でない。


「わからん」


 正体不明のそれを矯めつ眇めつの鑑賞会。


「魔力の波動は感じるなぁ」


 迷宮核のようにダンジョン全体へ波及させる感じじゃない。

 どちらかというと緩やかに吸収する感じか。


「そう考えると卵っぽいか」


 宝石みたいな殻のせいで生き物が入っている実感が湧かないが。


 でもって、この殻が曲者だ。

 外部へ魔力を逃さないようにしている。


「そう考えると本当に卵だったりしてな」


 その場合は普通の中身ではないだろうけど。


「さて、何者かな?」


 観察タイムは終了。

 ここからは鑑定タイムだ。

 【天眼・鑑定】をつかって卵もどきを見る。


「……………」


 数秒ほど固まってしまった。


「なんだよっ、[精霊獣の卵]って!?」


 卵なのは理解した。

 受け入れよう。


「精霊獣ってなんぞや?」


 精霊ってのは肉体を持たない魂のような超自然的な存在じゃなかったっけ。

 炎の精霊とか樹木の精霊とか色々個性があったように思う。

 飛賀春人としての知識ではそのはずだ。

 それが獣?


「訳わからん」


 当然、その辺を【諸法の理】で調べましたよ。

 精霊については概ね日本人だった頃の知識と一致した。

 問題は精霊獣なんだけど……


[卵から生まれることで精霊が受肉した状態となったもの]


 だってさ。

 真っ先に思い浮かんだのが方位を司る四神だった。


『四獣とも言うんだっけ』


 俗に言う青竜、白虎、朱雀、玄武だな。

 生憎とこのあたりは古い知識とは違っていた。


[ルベルスの四獣は方位を司る存在ではありません]


 【諸法の理】で確認したら、こういう回答だったからね。


[なお、四獣は精霊より格上の神獣に分類されます]


 で、精霊獣の説明文の続きなんだけど。


[精霊は波長の合う相手の魔力を感知すると卵に変異。

 卵の形態で環境魔力を吸収し霊体と徐々に融合させ変態していく]


 サナギを連想したが、見当違いでもないだろう。


[卵に変異した直後は亜空間に退避。

 目覚める直前になると顕現する]


『顕現してるんですけどぉ』


 頭が痛くなってくる。

 俺に精霊獣とやらをどうにかしろってことだろ。


『ペットを飼ったことのない俺にどうしろと?』


 四獣に次ぐ存在らしい精霊獣をペット扱いするのもどうかと思うけど。

 そもそも俺の言うことを聞いてくれるんだろうか。

 不安しかない。


 説明文は飛ばして他の鑑定結果を見る。

 できれば、そうであってほしくないという願いを込めて。


 だが、しかし……


[所有者:ハルト・ヒガ]


 要するに俺と波長が合った訳だ。


『このまま帰りてー』


 現実とは無情なものである。

 放置して帰るという選択はできなくなってしまった。


 俺のせいで捨て精霊獣になったりしたらシャレにならん。

 それに野良精霊獣になって何か周囲に悪影響があったりしたら……

 どうであれ罪悪感がハンパないことになりそうだ。


「どうか暴れん坊でありませんように」


 鑑定結果の続きを見る。


[属性:夢]


「よりにもよって夢属性かい」


 ナイトメアとかサキュバスとかを連想してしまった。

 悪夢に淫夢……


 どちらも悪魔かそれに類する存在みたいだけどさ。

 そういうのしか思い浮かばないんだよな。


 そんなヤバそうな奴が出てくるのは勘弁してほしい。

 できれば悪夢を食べるとされるバクなんかを希望する。


『種族は何だ?』


 そこが大事。

 確認しましたよ。


「マジか……」


 ちょっと意外なやつだった。

 それもそのはず。

 一定レベル以上の精神感応波を使う精霊獣は夢属性になるらしい。


「お」


 説明文の最後にカウントダウンする数字がある。

 どうやら孵化するまでの時間らしい。


 残り20秒を切った。


 こうなれば腹をくくるしかない。

 数歩下がって大人しく待つ。


『……3・2・1・ゼロ!』


 何もない。

 いや、精霊獣の卵はあるのだ。

 孵化する様子がない。


「いや」


 卵の表面が徐々に輝きを増している。

 それは波紋のように表面で拡がり消えていく虹色の明滅だった。

 煌めきが脈打つようなリズムで徐々に強く速くなっていく。


『ゼロのタイミングで割れる訳じゃないのか』


 驚かせてくれる。

 孵化に失敗したのかと思ったぞ。

 人騒がせな奴だ。


 そして卵は光の強さを増すごとに桃色から金色へと変化していく。

 卵が完全に金色となった直後、虹の発光が止まった。

 どうやら今度こそ孵化するようだ。


 次の瞬間、卵が爆発的な閃光を発した。

 普通なら網膜が焼き付くぐらいの強く激しい光。

 俺には瞬間的な目眩ましにしかならなかったが。


 そして光が収束する。


「おおっ!」


 卵が消えた。

 いや、姿を変えたと言うべきか。

 ウサギをデフォルメしたような二足歩行の生き物がそこにいた。


『ウサギのゆるキャラ?』


 そう思うくらい縫いぐるみ感が満載である。

 精霊獣という割に獣感がない。

 細長の耳に穴がないのが余計にそう思わせた。


 顔は面長でノッペリさんだ。

 が、小さくつぶらな瞳と草食動物っぽい口が何処か愛嬌を感じさせてくれる。


『見る人によっては、とぼけた表情に見えるかもね』


 生まれたてなのに結構大きめだ。

 耳も含めれば俺の腰に達している。

 もしかすると、これ以上成長しないのかもしれないが。


 色は卵のときと同じパステルカラーの桃色。

 縫いぐるみ感あふれる姿にマッチしていると俺は思う。


『本当に生き物なのか?』


 受肉した状態っていうくらいだから、そこは間違いないのだろう。

 だが、それが信じられないくらいリアリティがない。


 尻尾なんかもフサフサの丸としか表現のしようがないしな。

 そんな感じで、どこもかしこもデフォルメ感が凄い。


 特に手の指なんかは物を掴めるのかと言いたくなるくらいだ。

 関節なんて何処にあるのか状態だし。


 まあ、全身がそんな感じなんだけど。

 そのせいか現実世界にアニメキャラが飛びだしてきたような錯覚を起こしそうだ。


 唯一、リアルが感じられるのが額の中心にある赤い宝石っぽい何か。


『ビームが発射されたりしてな』


 目から……

 いや、何でもない。


 そんなことより、これが精霊獣だ。


 卵の殻が残っていないせいか卵から生まれた気がしない。

 殻も残さず変態したみたいだな。


『これが精霊獣カーバンクルか』


読んでくれてありがとう。

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