188 子供がリーダー
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
王女たち一行とエリスが自転車を堪能している最中、ケータイが鳴った。
普通なら音を聞かれてしまうところだが、鳴っているのは倉庫の中でだ。
自分の亜空間倉庫の中の出来事を他人に知られる心配はないので、そのままで着信する。
「ハル兄、着いた」
相変わらず、素っ気ない言い方をするノエルさんだが声の調子からは上機嫌なのがわかる。
『「わかった。迎えに行く」』
「? 声が変」
ノエルの言うように俺の声は微妙にくぐもった感じになっていた。
このケータイは音質で言えば電話という感じがまったくしないのだけどな。
『「念話を音声変換してるからな」』
「新しい実験?」
そう来たか。
『「人前にいるんでケータイは倉庫の中なんだよ」』
「納得」
『「じゃあ門のとこまで行くからな」』
「必要ない」
『「は?」』
「もう城の中」
言われてみれば城内に月影の面々の気配がする。
ボルトが先導しているようだ。
「じゃあ切る。後で」
返事する前に切られてしまった。
別に俺の側に部外者がいることを配慮した訳ではなく、いつものようにマイペースなだけだ。
それから数分ほどでボルトがノエルたちを連れてきた。
「ご苦労さん」
「恐れ入ります」
ぺこりとボルトが頭を下げ後ろに下がった。
「おかえり~」
自分の家じゃないけど俺の元に戻ってきたんだから間違いじゃないよな。
「ハル兄、ただいま」
ノエルが満面の笑みだ。
他人には「どこがやねん」とツッコミ入れられそうだが、うちの国民ならわかる。
シヅカはまだ無理みたいだけど。
「ハルト殿、戻りました」
帰ってきたという実感があるのか、ルーリアも気の抜けた表情をしているな。
「ただいま戻りました」
リーシャは真面目な表情を崩していないが雰囲気は柔らかい。
「もどったでぇ」
アニスなどは狐尻尾がユラユラと揺れていた。
「ただいまです~」
ダニエラはこういうとき一番わかりやすい。
絵に描いたようなニコニコの笑顔だからな。
「「ただいまです」」
双子のメリーとリリーも旅行から帰ってきた時のようなホッとした感じで笑みを浮かべている。
「……ただいま」
皆それぞれ笑みを浮かべて帰参の挨拶を返してくれる中でレイナだけが少し違う反応をした。
そっぽを向きながら不機嫌そうに見えるんだけど実は頬が赤いんだよな。
ツンデレだ。ここにツンデレがいますよ。
さすが猫系ラミーナ。
同じことを考えているのか月影の面々がレイナに向ける視線が生暖かい。
アニスなどはニヤニヤの笑みさえ浮かべていた。
明らかに「素直やないやんか」と顔に書いている。
ゲールウエザー組がいなければ真っ先にいじっていたんだろうけど空気を読んだか。
「主よ」
ツバキが呼びかけてきた。
自転車に夢中になっていた面々がノエルたちに気付いて俺たちの方へと戻ってきつつあるからだろう。
「ああ」
短く返事をしながらゲールウエザー組の方を見やる。
初めより安定感が増しているな。
魔導師組と神官ちゃんの上達ぶりが凄いと言えよう。
最初が壊滅的だった魔導師組は転倒せず走れるようになっただけで大躍進と言える。
ただ、目立ち具合はウィリーで戻ってきていた神官ちゃんの方が圧倒的に上だったけどな。
「あれは何をしたいのじゃろうな」
シヅカが困惑している。
「曲芸の真似事をして悦に入ってるんじゃないか」
「神官とは変わり者が多いのじゃな」
「たぶん例外中の例外だぞ」
借り物で曲芸じみたことをしようという発想からして完全に我が道を行くタイプだろう。
信仰する神も安易に変えそうな危うささえ感じられるし完全に自由にさせるのが怖くなってくる。
もしかして王女の護衛に任命されたのも仕事をさせておかないと何をしでかすかわからないからとか言わないよな?
そんな風にあれこれ考えている間に全員集合みたいな感じになった。
「あの、こちらの方たちは」
おずおずと尋ねてくる王女。
「俺の護衛部隊その2ってところかな」
「こんな小さな子供さんが!?」
「子供違う」
怒ってる、怒ってる。
無表情に近い膨れっ面になってるぞ、ノエル。
「え、でも……」
「この子はいま来たメンバーの中では最強でね」
「まあ、そうなんですか。ごめんなさいね」
王女は俺の言葉を素直に受け入れてノエルに謝罪した。
「ん」
頷いて謝罪を受け入れたノエルは気にしていないが、他のゲールウエザー組の反応はさすがに懐疑的だ。
まだ11才で背丈は特別高くもないし華奢な見た目なのに戦士系の格好なのがいかんようだな。
「ノエル、少しばかり実力を披露してみようか」
「ん」
召喚魔法を装って倉庫からベリルママからの貰い物である長柄の金属ハンマーを引っ張り出す。
ズンッ!
この音だけで重さが知れようというもの。
解体とかで使う掛け矢よりも長くてデカいせいでバランス最悪のポールウェポンだ。
ミズホ組以外は驚いていたけど、特に護衛組はあり得ないものを見たという驚愕の表情をしていた。
ドワーフのボルトでも持ち上げられんだろうからね、これ。
だが、レベル125のステータスを持つノエルなら話は別である。
「ハル兄、どうすればいいの?」
聞かれて演舞とか型とかは教えてなかったことに気が付いた。
「的を出すから適当にこいつを振り回しながら倒せばいい」
少し離れた場所に動かないゴーレムを何体か召喚する。
「わかった」
返事をしたノエルはホウキを手にするかのような気軽さでハンマーの柄を掴んで持ち上げた。
「「「「「ぃ────────っ!」」」」」
ゲールウエザー組は王女と神官ちゃんを除く全員が目玉を飛び出させそうな驚きようだ。
「あらら、凄いですねぇ」
普通に驚く王女は、ある意味スゲえと思う。
神官ちゃんは何も言わないながらも感心したと言いたげな顔で何度も頷いていた。
2人とも大物だな。
エリスでさえ声もなく目を見張っているというのに。
ボルトは言わずもがなである。
そんな面々を気にすることなくノエルはハンマーを提げて的の前まで歩いて行く。
顔色ひとつ変えずスタスタと歩く姿からは重量物を運んでいるようには見えない。
「し、信じられない……」
ぎこちなく頭を振るダイアン。
ようやくといった感じで頷いて同意しているリンダ。
「じゃあ始める」
そう言うとノエルは動画で見せたバトントワリングのバトンよろしくブンブンと回転させ始めた。
ゴウッ!
ただ、風切り音はバトンの比ではなく迫力満点だ。
なのに豪快というよりは優雅な感じに見えるのは手本がバトントワリングだからだろう。
もちろん重心バランスが全然違うので力技も必要になるはずなのに、まったく感じさせない。
「参る」
これは時代劇の動画の影響だろうなぁ。
1体目のクレイゴーレムは跳躍からの叩き潰しで圧壊。
2体目のアイアンゴーレムは下から跳ね上げて原形をとどめぬ変形をさせながらのナイスショット。
俺たちに飛んでこないよう位置取りしているのは言うまでもない。
3体目はサンドゴーレムだったが上半身が薙ぎ払いの一撃で吹っ飛んだ。
4体目は力業だけでないことを見せつけるように石突きの部分で連続突きを繰り出してストーンゴーレムの上半身を瞬く間に穴だらけにした。
以降も変わらぬペースで破壊し続け合計12体の様々なゴーレムを片付けるのに1分とかからなかった。
破壊力満点の特大ハンマーだから当然と言えば当然の結果なんだが誰も声を発せられずにいる。
最初に驚いていた者たちの顔は引きつっていた。
対してノエルは始める前と同じように息ひとつ乱さず平然とした顔で戻ってくる。
「ハル兄、終わった。どう?」
俺にハンマーを返しながら聞いてくるノエル。
ハンマーに振り回されず使いこなしていたというのに少し不安げである。
どういう評価をされるか読めないからだろうな。
「文句なしだ」
だから俺はウィンクしつつサムズアップで合格を出す。
「うん」
いつもの他人にはそうとは見えない満面の笑み。
ああー、もう可愛いなぁ!
桃髪ツインテ天使ちゃんは反則級の可愛さですよ。
「すみません。ちょっとよろしいでしょうか」
声をかけてきたのはダイアンだった。
「私にもその武器を使わせてもらえないでしょうか」
「いいけど、腰に注意しろよ」
「はい」
ハンマーを逆さにして柄を持たせた。
俺が手を離すと……
「うわっ」
ズンッ!
持ちこたえられずにハンマーが床に落ちる。
ダイアンが手を滑らせたとかではなく単純に重さを支えきれなかった結果だ。
「くっ!」
歯を食いしばって持ち上げようとするが、わずかに浮いた程度が限界だった。
「納得してもらえたかな」
「はい……」
またしてもやり過ぎだったらしくダイアンの呆然っぷりがゲールウエザー組に伝染していた。
ボルトは苦笑するにとどまっていたけど慣れの差なんだろうか。
加減がよく分からん。
後で愚痴ったら皆に苦笑されてしまった。
「今回のは控えめやったんちゃうかな。うちらの感覚も麻痺してきてるみたいやけど」
アニスに慰めになってない慰めまで言われたさ。
自重するって難しいのな。
読んでくれてありがとう。




