１８４ 夜の間に考えること
改訂版です。
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「戯れ言を」
吐き捨てるように宰相が言った。
が、大国の重鎮が易々と踊らされるような人物でないとわかって俺としては好感触だ。
「コノ状況下デモ、信ジヌナラバ好キニスルガイイ」
「何だと」
「我ハ神ノ代行者ダガ、此度ノ勤メハ何ガナンデモ成サネバナラヌモノデハナイ」
「どういうことだ」
「神ガ汝ラノ大難ヲ憂イ賢者ヲ遣ワスガ自力デ乗リ越エラレルト言ウナラ、ソレモマタ運命トイウコトダ」
「大難とは何だ？」
「ソレヲ知ラセルノハ我ノ役目デハナイ」
「どうして、そのような回りくどい真似をする」
「神ガジカニ民ヲ救エバ堕落スル。神ハソレヲ望マヌ。救済ハ人ノ手ニヨッテ行ワレルベキデアロウ」
「賢者とやらも神の代行者だというのか」
「アノ者ハソレヲ知ラヌ」
「救済は人の手で行われなければならんからか」
「理解ガ早イナ。ソウイウコトダ」
宰相が渋面を浮かべ唸った。
「何も知らされぬのでは信じろという方が無理だろう」
「汝ノ補佐ヲシテイタ者ニ下サレタ罰ヲ目ノ当タリニシタダケデハ不充分カ」
「まさか……、あれはこのための伏線だったのか」
完全に誤解だが都合がいいので利用させてもらおう。
「神ハ見テオラレル」
「むう」
「ヒトマズハ様子見スレバ良カロウ。賢者ニ敵対シナケレバ、ソレデ良イ」
「敵対すればどうなる」
「神ノ怒リヲ買イ大難ヲ回避スル手立テハスベテ失ワレ、ソレハ民ニ知レ渡ルデアロウ」
「っ!?」
脅し文句に等しいが、これくらい言わないと暴走するバカが出ないとも限らんしな。
「箝口令をしいてもか」
「神ノ怒リヲ深メタケレバ好キニスルガイイ」
この言葉に宰相もさすがに青ざめた顔になっていた。
これなら諸手を挙げて歓迎とはならなくても到着するなり一斉に攻撃されることはなさそうか。
単独で暴走するバカは警戒しなきゃならんと思うけど。
何にせよ上手くいってほしいものだ。
下手すりゃ内戦になることも無いとは言えないんだから。
その場合、周辺国が攻め入ってくることも考えられる。
領土的野心を捨てきれずに戦争して疲弊した状態で国家運営？
俺ならお断りだね。
うるさいバカが出てきませんように。
最初から躓くとグダグダになりかねないからなぁ。
またフェンリルを召喚してビビらせることで抑止力にするかね。
けど、不快な環境に度々呼び出すのも考え物だし端から力業に持ち込むのは下策か。
大国の意地があるだろうし態度を硬化させる恐れがある。
シヅカに本来の姿を披露させれば話も違ってくるとは思うけど、そこまでする気はないな。
ちょっとビビらせるくらいならともかく本気で怯えさせるのは本意ではない。
今後の関係性を考えると余計にね。
ただ、そうなると交渉に入ってからも面倒が続きそうで憂鬱だ。
ガンフォールにお任せってことにしておくか。
予言とかは俺が出張らんと話にならないだろうけど他は丸投げしたいところである。
あれこれと先の予定を考えていたら桃髪ツインテ少女ノエルからメールが届いた。
［タイトル：明朝］
［帰る。たぶん８時くらいに到着］
実にシンプルでノエルらしい。
もう少しブリーズの街に滞在するのかと思っていたんだけど飽きたかな。
だったらゲールウェザー王国の王城に乗り込むのに月影の面々を連れて行くのも面白そうだ。
王城内で常勤している者たちの中には格上の相手の気配を察する強者もいることだろう。
シヅカたちに月影の面々が加われば数でどうにかしようと考える者も減ってくれると思いたい。
そういう訳なので返信しておこう。
［タイトル：Re: 明朝］
［了解した。朝８時だね。
それから例の件でゲールウェザー王国の王城に行く時、同行する？
皆にも聞いてからレスくれるかい］
これで良しっと。
ノエルたちが来てくれるなら考えなしの脳筋以外は調子に乗らないだろうし心強いものだ。
考えなしの奴については知らん。
宰相に釘を刺したとはいえ、何処まで有効かは蓋を開けてみなければわからない。
ずさんではあるが後は出たとこ勝負である。
これ以上チマチマ考えるのは面倒だしバカが出ないことを祈ろう。
なんて考えていたらメールの着信音がした。
ノエルからのレスだ。
［全員、同行する］
本文はこれだけなんだけど、それにしたって早くね？
ちょうど皆で集まっていたのかもな。
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普段なら就寝時間という頃合いになったものの簡単に眠れるものではない。
すべきこと考えるべきことはあるからな。
まずは飛び地改めヤクモの開発を兼ねて深層水脈に到達する井戸を人力だけで掘れるかを検証する。
バカ正直に生身や自動人形で掘る訳ではない。
出力を絞った理力魔法で手彫りの道具を使い超高速で穴を掘るのだ。
シミュレート用のデータが取れればいいからね。
時間は有限なので並行して別の井戸もサクッと掘っておく。
こちらは深層水脈用の手動ポンプを仕上げるためだ。
大気圧の関係で普通の井戸で使うポンプは深井戸には使えないからな。
術式を組み込めるなら細かいことを気にしなくてもいいんだが、同じものをゲールウェザー王国で運用するのでそうはいかない。
保守も管理も魔法が使えない者がする以上は簡単な仕組みのものにする必要がある。
「面倒くさい」
縛りがあれこれ入るせいだ。
耐用年数と予算のバランスを考える必要が出てくると途端に物作りが楽しくなくなる。
壊れてから慌ててポンプの予算を捻り出すようなことがないようにしないといけないのが悩ましいポイントだ。
簡単に壊れては困るが高コストな代物では、いざという時に井戸が使えないことにもなりかねない。
減価償却の概念を教えるくらいはしておくか。
こっちの世界の住人は使えば価値が減るという発想がないに等しいからな。
形あるものは価値が減り続けるという考えが根付けば予算を積み立てるはずだ。
とりあえず最初に設置する分のポンプは設置予定箇所すべての分を用意しておこう。
ただにはならんが原価相当分で売却するなら文句もあまり言われまい。
値切ってきたら売らないだけだ。
その辺の交渉は面倒だからガンフォールに丸投げにする。
ただ働きさせるのはどうかと思うのでミズホ刀を何本か進呈しよう。
それともミズホ刀の技術で作った槍とか斧の方がいいのかね。
で、深層用ポンプはキット化に成功。
人力の掘削についても固い岩盤に当たらなければ可能と判明した。
掘れない場所は地魔法を使わせて何とかするしかないか。
ただ、地魔法が得意な魔法士か魔導師級の魔法使いでもなければ無理だと思う。
国の危機に関わることだし、宮廷魔導師の連中を引っ張り出してもらうしかないだろう。
あとは輸出用の農作物の品質アップだな。
自動人形のバージョンアップを施して魔法の能力を高めた。
植生魔法での管理が強化されれば生産力も上がるし生育不良も減る。
ヤクモの方は国元と違って俺や国民の管理が行き届く状態じゃないからな。
これにばかり掛かり切りにならないようにしないとね。
でないと俺の行動が大幅に制限されてしまうことになりかねないんだよ。
俺は自由に生きたいんだ。
「とはいうもののヤクモで作業させてる自動人形を把握するのが面倒になってきたな」
まだ大変というレベルではないが、このまま増やし続けると俺の自由な時間が削られかねない。
という訳で彼女らを管理する存在を用意することに決定。
まずは１０機単位を分隊とし、これを管理する分隊長は量産型を少し改造する感じにしておく。
見た目でも区別できるようにするか。
でもって分隊から同じ数で小隊、中隊と用意していけば大丈夫かな。
上位存在になるほど処理能力を向上させる、と。
全機体にケータイ機能を内蔵させて分隊長以上に中継機としての役割も持たせよう。
最上位の存在には情報処理に専念させて管理させるか。
なんか執事って感じだな。
完成したらセバスチャンと呼ぼう。
在り来たりすぎる？
テンプレと言ってくれ。
読んでくれてありがとう。
