18 討伐が完了しても後始末は残っています
改訂版バージョン2です。
ポップしたゴブリンの殲滅に新魔法を使ったのは正解だった。
格闘戦を続けるより遥かに効率が良かったし。
倉庫にお片付けな裏技も発見した。
それでも──
『舐めてたなぁ』
ただいま絶賛、凹み中。
さすがに数十万匹という数は多すぎた。
おかげで終わったのは空の白み始めた頃である。
どう考えても完璧を求めすぎた。
魔法を使う前にやらかしたことで気にしすぎたのかもね。
爆散させたりへし折ったりした分を魔法で始末しながら反省。
整地して何もなかったかのようにしておくのも忘れない。
仕上がり具合を見て更に凹む。
元に戻らなかったからじゃない。
逆だからだ。
『多少、雑にやっても魔法でどうにかできたな』
その場合は後始末の時間を含めても半分近く時短になっていただろう。
『エコとか環境保護の感覚が強すぎた』
回収したゴブリンの死骸の量も頭痛の種である。
『どうすっかな、これ』
数十万匹とか市場に流せる訳がない。
百匹単位でも買い取り拒否されるはずだ。
通称、コアと呼ばれる魔物核もゴブリンじゃ最低品質だし。
『当面は亜空間倉庫の肥やしだな』
少なくとも今すぐ解決すべき問題ではない。
宙に浮きっぱなしで考えることでもないだろう。
俺は開けた草地に飛んで行き、ふわりと着地した。
「うへー、疲れたー」
そのまま脱力して草地に寝っ転がる。
肉体的には何の問題もないが精神的にはくたくただ。
MPを確認すると、3割を切っていたはずの残量が凄い勢いで回復中である。
それよりも注目すべきは総MP値だろう。
レベルも上がっていないのに増えている。
【才能の坩堝】が効力を発揮したらしい。
常識にあるまじき勢いでMP消費してたからな。
『トレーニングにはなったか』
ある意味、今回の収穫と言えるだろう。
他には新しい魔法を2種類開発したのとスキル関連か。
氷弾とメタルワイヤーはそれなりに使い勝手がいい。
今後も使う機会があるだろう。
スキルは【気配感知】がカンストして熟練度MAXですよ。
昨日、海の中で獲得したばかりなんだけど。
こうなると【気配遮断】もゲットして忍者でも目指そうかね。
それから【多重思考】の熟練度が30に上昇した。
神級スキルで戦闘前の3倍に増加って驚異的だと思う。
あと、付きにくくなったはずの称号が増えた。
まずは[研究者]。
これは属性の違う魔法を続けて開発したからだろう。
そして[ゴブリンの天敵]と[一騎当軍]。
あれだけやらかせば説明の必要もあるまい。
人に知られると厄介なことになりそうで憂鬱だ。
『ポコポコ増えられても困るんですがね』
他所の神様に注目されるっていうし。
『これ以上、目をつけられちゃ敵わんっつーの』
とっとと後始末して帰るに限るんだが……
『崩壊した迷宮核を回収しないといけないんだよなぁ』
山積みの仕事を片付けたと思ったら面倒な仕事がまだ残っていた。
それとダンジョンの封鎖処理もしないと野良の魔物が住み着く恐れがある。
こんな所で繁殖されたら面倒だ。
おまけに迷宮核を吸収なんてしようものなら面倒が倍加する。
パワーアップしたり繁殖力が上がったりなんてことも考えられるからな。
余計に面倒な仕事が増える未来しか見えない。
「しゃーねえ、行くか……」
が、そこで立ち尽くしてしまう。
やる気が出る出ない以前の問題だ。
『ダンジョンどこだ?』
ゴブリンどもが多すぎたせいで大まかな位置を推定するのも無理っぽい。
迷宮核が崩壊したから魔力を感知するのも無理。
だからといって片っ端から鑑定?
こんな疲れてるときに冗談でしょって感じだ。
1分とかからずに情報の海に溺れて萎える自信がある。
「魔法でパパッと探せれば苦労は……」
嘆息混じりにぼやきかけて、ふと気付いた。
「魔法があるじゃん!」
地魔法を使って地下構造物を探せばいい。
ダンジョンだって地下構造物だからな。
イメージは昔テレビで見た考古学の発掘調査に使われていた磁気探査装置だ。
名付けて地下レーダー。
さっそく使ってみる。
『半径1キロの範囲にはないか』
だが、これなら鑑定しまくるより遥かに楽だ。
探査にかかる時間も一瞬だから使いながら飛び回れば労せず発見できるだろう。
『という訳でレッツ探索!』
なんて気合い入れて飛び始めた途端に大きな空洞を感知。
『早っ!』
上空から接近してみれば……
『あからさますぎるだろ』
さっき降りる前に気づけなかったのが情けないくらい周囲と違う。
針葉樹に囲まれて、どっしりとした感じのぶっとい木がそこそこの間隔で生えていた。
だいたい二百メートル四方ぐらい。
近づいてみれば異様さがよく分かる。
幹が異様に太くて枝葉とのバランスが微妙なのだ。
『まるで盆栽の唐松だな』
鑑定してみたら[大唐松]って出たし。
ひときわ大きい大唐松の根元を見れば人が余裕で通れるサイズの洞になっていた。
『あれがダンジョンの入り口か』
地下レーダーに頼るまでもなく発見してしまった。
サクサク進んで実にありがたい。
俺は洞の前に降り立った。
『よーし、この調子でガンガンいくぞ』
さっきまで面倒だとか思っていたのが嘘のようである。
本物のダンジョンを前にしてテンションが上がってきたみたい。
もぬけのカラなので過度の期待は禁物なんだが。
それでも暗闇の中をマッピングすることにワクワクしていたりする。
『筆記用具はないんだけどな』
今日のところは脳内メモでマッピングだ。
様式美的に物足りない感じはするがね。
そんな訳で物作りのリストに筆記用具を加えておく。
『次は照明だ』
暗がりも余裕で見える俺には不要なものだが、あるとないとでは大違い。
ダンジョン探検の雰囲気は大事にしないと。
『問題は照明道具を持ってないことなんだよな』
たいまつとかランタンには少し憧れのようなものはあったんだが。
仕方がないので生活魔法のライトを使うことにする。
この世界の魔法使いもダンジョン探索の折には魔法で照明を確保するみたいだし。
ただ、せっかく魔法を使うならランタンなどより使い勝手の良さを求めたい。
片手が塞がるのは道具であるがゆえ。
魔法なら両手が空いている方がいい。
残念ながらライトの魔法は対象への位置が固定されたものだ。
故に空間へ向けて発動すると室内照明状態になる。
移動時の照明とするなら物品に付与する必要がある。
『そんな訳でオレ仕様のライト作成決定!』
デフォルトは術者が指定した位置と相対距離を保持。
これなら移動しても光の球体が置き去りなんてことにはならない。
後は任意で移動と分割や光量調節ができるようにしておく。
『この魔法はマルチライトと呼称しよう』
さっそく発動させて視線や指先などで動かしてみる。
スウッと滑らかに動く。
大きな蛍火を見ているかのようだ。
続けて複数に分裂させてる。
今度は思考だけで誘導してみた。
バラバラに動くが動きにぎこちなさはない。
『これはオールレンジ攻撃の気分が味わえるな』
ちょっと楽しくなってしまったが、何時までも遊んでいる訳にはいかない。
思考制御をやめると所定の位置まで戻ってきてひとつに結合した。
『ここまでは問題ないな』
続いて俺自身が動いてみる。
ちゃんと相対距離を保った状態で光の球体が動く。
動きにずれもない。
すべて仕様通り。
つまりは準備オッケーってことだ。
そのままダンジョンの入り口を潜った。
「あー……」
思ったより天井が低かったせいかマルチライトが天井にめり込んでいる。
『障害物に関しては仕様を設定してなかったな』
発動中の魔法をその場で調整しつつ急な坂を下っていった。
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坂を下りきると、そこは広めの空間だった。
下り通路よりは天井が高い。
「さしずめ玄関ホールってところかな」
その先に続く通路は迷路っぽくなっている。
最下層まで一直線とはいかないようだ。
「うーん、面倒になってきた」
マッピングしながら最下層を目指すという行為自体にはワクワクするんだが。
さっさと帰って休みたいという欲求が膨らんできた。
たぶん途中で飽きるだろう。
『ゴブリン殲滅戦の影響が残ってるみたいだな』
とりあえず雰囲気だけ味わってみるため1フロアを回ってみた。
「あんまりドキドキしないな……」
そりゃそうだ。
魔物がいないことは分かりきっているからな。
あの角を曲がったところで待ち伏せがあるかもとか。
この部屋はモンスターハウスになっているとか。
そういった緊迫感がないとワクワクが萎んでしまうのだ。
「もう、いいや」
これ以上、根気のいる作業はしたくない。
という訳で足を止めて地下レーダーを使ってみた。
「おおーっ」
動かずに脳内で3Dマッピングされていくのはちょっと面白い。
しかも見落としがない。
小さいダンジョンだから、あっと言う間に終わってしまった。
『そして【地図】スキルMAXか』
実に楽ちんである。
ただ、魔力反応があった。
崩壊した迷宮核の側に魔力をまとっている何かがいるのだ。
正体は不明。
分かるのは魔物でも魔道具でもないってところまで。
魔力を地脈の流れに上手く偽装してるから地下レーダーの魔法ではこれが限界だ。
が、お陰で少しだけモチベーションが上がった。
『これは見てのお楽しみにすべきだな』
少しのワクワクを胸に俺は奥へと進むことにした。
もちろん最短コースでな。
読んでくれてありがとう。




