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1750 つくってみた『ノンアルコールビール』

「あるぇ? ハルさん、1人かい?」


 城の庭に出たところでトモさんに声を掛けられた。

 振り返ると新人3人組が一緒だ。


「まあね。そっちこそ珍しい組み合わせじゃないか」


 いつも一緒のフェルトがいない。


「女子会ならぬ奥様会をするんだってさ」


「あー、そんなことを言ってたな」


「あぶれたから新人に声を掛けてパワーレベリングでもと思ってさ」


「要するに暇なんだな」


「そうとも言うが、それはハルさんもだろう」


「俺はやることがあるけど」


「ガーン」


 いつものノリで効果音を声で表現するトモさんである。


「国王陛下は何をするんだい?」


 ビルが興味深げに聞いてきた。


「国王陛下はやめてくれ」


 そう言うとビルではなくオセアンが目を丸くした。

 王様らしからぬ発言ではあるから分からなくもない。

 ビルが驚かないのは付き合いの長さがあるからだろう。

 そもそも質問の仕方自体が気安くて一国の王に対するものじゃなかったしな。


「それがクセになると西方で苦労するぞ」


「おっと、普段は世を忍ぶ仮の姿だもんな」


 俺は時代劇に出てくる暴れん坊な将軍様じゃないんだが。

 似たようなことをしてないとは言い切れないけれど。


「じゃあ、賢者様で」


「で、やることって何なのさ?」


 トモさんが聞いてきた。


「酒造だね」


「松王周造?」


「それは元テニスプレイヤーのタレント」


「えーと、えーと……」


「無理にボケなくていいから」


「ギャフン」


「新しい酒を造ろうと思ってね」


「密造だ-」


「ここは日本じゃないよ」


「そうだった」


 よほど暇なんだろう。

 いつもよりボケ成分が多めである。

 この調子だと新人3人組が振り回されそうだな。


「良かったら手伝ってくれるかな」


「やるやるぅ」


「えっ、俺らもやるのか?」


 ビルだけでなくカエデやオセアンも驚いている。

 何の経験もなく酒造りと言われりゃ無理もない。


「もちろんだとも!」


 ビシッと指差して声高に宣言するトモさん。


「魔法の制御力を鍛える訓練になる」


「マジかよぉ」


 疑わしげな目をしているビルだ。


「だろう?」


 トモさんが俺の方に振り向いて聞いてきた。


「だね。うちでの酒造りは魔法が基本だから」


「マジか~」


 ドドドドドドドドドドド──────────ッ!


 凄い勢いで駆けてくる足音が聞こえてきた。


 ズザザザザ──────────ッ


 砂埃を巻き上げて目の前で急停止する一団。


「うわっ、何しやがる」


 顔の前で手をブンブンと振りながら抗議するビル。


「ケホッケホッ」


 砂埃を吸い込んだのか咳き込むオセアン。


「………………」


 息を止めてやり過ごそうとしているカエデ。

 3人の中では一番賢い対応をしているな。

 俺とトモさんは風の障壁で砂埃自体をシャットアウトしたので何の被害もない。


 とりあえず砂埃が停滞しては話もできないので送風して吹き散らしておく。


「新しい酒をっ」


「造るとっ」


「聞いてっ」


「いてもっ」


「立ってもっ」


「いられないっ」


 6人のジジイがそこにいた。

 元小国群の王だったドワーフたちだな。


「いや、ノンアルコールだから酔えないぞ」


「「「「「なんじゃとぉっ!?」」」」」


 愕然とした様子で絶望感あふれる空気を全身から放出している6人のドワーフ。

 テンションの落差はフリーフォールのように激しい。


「なんか爺さんたち固まっちまったけど大丈夫なのか?」


 面倒見のいいビルは年上でも気を遣うようだ。


「知らんな。勝手に勘違いした相手までフォローするつもりはない」


「酷え、と言いたいところだが賢者様の言う通りかもな」


「そんな訳で移動するぞ」


 6人のドワーフたちを残して城の庭を進む。


「城の外には出ないんだねえ」


 トモさんがちょっと意外そうにしている。


「半分、趣味で造るものだからね」


「残りの半分は?」


「深い意味はないよ。出来が良ければ販売するつもりってだけだから」


「おおっ、実益を兼ねているってことか」


「そこまで上手くいくかは不透明なんだけど」


「おや、ハルさんらしくもない」


「実験的な造り方をするつもりだから予測しづらいんだよ」


 あえて脳内シミュレートもしていない。

 だから味はもちろんのこと香りや喉越しなども、どうなるかは仕上がってからのお楽しみなのである。

 最初から分かっているのはアルコール0%だけは厳守するってことだけだ。


 そのために色んなアプローチをしてみるつもりである。


「えー、ビールじゃないのぉ?」


「ビールだよ」


「だよねえ。ノンアルって言ってたし」


「その造り方を知ってるかい?」


「なるほど。知らないね」


 その気になれば錬成魔法で地球製ノンアルコールビールの複製は作れる。

 【諸法の理】スキルが仕事してくれるからね。

 けど、それじゃあ面白くない。

 奥さんたちが優雅に楽しんでいる時に仕事モードで労働にいそしむのは寂しいだろう?

 そんな訳だから庭の片隅で遊びながら楽しんで仕事しようって趣旨なのだ。


「この辺でいいかな」


「おや、青空ビール工房かい?」


「そんな訳ないじゃん」


 錬成魔法でドーンと和風の倉を建てる。

 そしたらドサッと尻餅をつく者がいた。

 オセアンである。


「どうしたのさ?」


「し、失礼しました。一瞬でこのような立派な建物ができるとは思わず……」


 腰を抜かしたか。

 まだまだミズホ国に慣れていないねえ。

 レベルは百を超えても本人の感性は一般人のままなんだなぁ。


「そのうち慣れると思うから」


 どうにか立ち上がったオセアンに声を掛ける。


「はひ」


 ちょっと噛んでるから苦戦するかもね。


「カエデは平気そうだな」


「驚いてはいます」


 とてもそんな風には見えないけど。

 何にせよ、こんな場所で長々話し込んでも意味はない。


「じゃあ中に入って酒造りだ!」


「俺には平気か聞かないのかよっ」


 ビルにツッコミを入れられた。


「だって、今まで色々と見せてきただろ」


「うっ」


 あっさり撃沈である。


「はいはい、中に入ろうね-」


 てな訳で中に入って、いよいよ実験開始である。


「それで、どうやってノンアルのビールを造るんだい?」


 トモさんが聞いてきた。


「アプローチ方法はふたつだ」


「ほうほう」


「ひとつは普通にビールを造ってアルコールを抜く」


「ふむ、もうひとつは水にビールの風味と色をぶっ込む訳だ」


「正解」


 簡単なのは前者だろう。

 少なくとも新人3人組にとってはね。


「という訳だから頑張ってビールを造ってもらうよ」


「いきなりだな、おいっ」


 またしてもビルがツッコミを入れてきた。


「新人の訓練も兼ねているからね」


「むっ」


「言ったろ? 魔法の制御力を鍛える訓練になるって」


「そういうことか」


 そういうことなんだよ。

 俺1人の時はどんな造り方をするにせよ片手間で終わってしまっただろう。

 色々とテイストを変えて試作するつもりではあったけどね。

 せっかく生徒ができたのだから教師気分を満喫させてもらうとしよう。


 結局、その日の夕方まで時間を費やしてどうにかノンアルコールビールを完成させた。

 時間がかかった理由は三者三様である。

 ビルは造るたびに風味がバラバラ。

 カエデは味はビールだけど無色透明なサイダー状態のものしか造れず。

 オセアンはアルコールを抜く前のビールがなかなか造れなくて難儀していた。

 

 この調子だと他にも何か魔法で作る訓練をさせた方がいいかもな。


読んでくれてありがとう。

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