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178 オマケをビビらせてみた

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。

 そろそろ夕方になるかなという日の傾き具合になると、ボルトが部屋にやって来た。


「王がお呼びです」


「わかった」


 王女が到着したばかりなのは自動人形を介して知っていたが向こうの希望で急かされた。


「御無沙汰しております、賢者様!」


 謁見の間に到着するなり駆け寄られ両手で俺の手を握ってブンブンと上下に激しくシェイクされた。

 メイド長のマリア女史が苦笑している。

 その側で目と口を開ききって驚いているのが魔導師と神官のお姉さんたち。

 護衛隊長のダイアンや副隊長のリンダはポーカーフェイスだが肩を振るわせていた。


「はあ、こりゃどうも」


 それよりも気になるのは、この場にいるゲールウエザー組の面子が少ないこと。

 残りの護衛は別室待機のようだ。


 てことは、この場にいる全員がそこそこの身分なんだな。

 面倒なことにならなきゃいいんだけどと思いつつ軽く自己紹介するが、魔導師2名の反応が明らかに悪い。

 俺の名前を聞いたら驚いて敵意むき出しの視線を向けてから不機嫌そうに押し黙った。


 どうやら嫉妬されているらしい。

 ん? この連中の感情を無意識のうちに感知しているのか。


『くぅくー』


 正解ぃーって、オイ。


『まさかローズと契約しているから感知しやすいとか言わないだろうな』


『くっくーくぅっ』


 それは違うのだ、なんて力説されてもな。

 まあ、俺自身の能力ならば有効活用するまでだ。


 1人しかいない神官は王女たちと同じような感じだから好印象を持ってるっぽい。


『くぅくっ』


 敵は2名って、それはわかっているさ。

 要するに黙らせろってことだよな。


『くーくぅ』


 イエース、だそうです。

 となると問題は王女たちの動きだ。


 王女は先程からガンフォールとあれこれ話をしているが世間話の類いだ。

 それが終われば、こちらに話が振られてもおかしくなかろう。

 それを利用して鬱陶しいのを黙らせるとしようと思ったのだが……


 世間話がイラッとするほど長い。

 これは意図的にやってるな。

 俺がここに来るまでに何かあったのかもしれない。

 だから俺の手で処分しろってことか。


「ところでハルト」


 ようやく声がかかった。


「なんだよ、ガンフォール。俺はいま虫の居所が悪いぞ」


 あえて不機嫌さを隠さず言ってみた。

 ドワーフの側近たちがサッと顔色を変えてガクブルし始めた。


『くぅっくぅくーくーくっ』


 殺気がにじみ出てるよ~、と指摘されて周囲に殺気を放っていたことに気付いた。

 いかんな。対象者は2名だけだというのに無差別に殺気立つのは修行が足りていない。

 不幸中の幸いだったのは素人にはわからんレベルの殺気で抑えられていたことだ。

 お陰で神官や魔導師は俺の発言に驚いているだけのようだ。

 まあ、一国の王に対して不遜な態度をとっているんだからそんなものだろう。


 海千山千の世界を渡ってきているであろうマリア女史は一瞬反応を見せたが顔色も表情も変わっていない。

 状況を理解しながらも関知しないと暗に言っている訳だ。

 護衛組も似たようなものだな。

 ただ、魔導師組に思うところがあるのか冷ややかな目でチラ見していた。


『くーくぅく~っ』


 嫌われてるねえって俺もそう思う。

 唯一の例外が王女だ。

 計算ずくか天然か、殺気には気付いていないし俺の不遜な態度も表情ひとつ変えずに流している。


 いずれにせよ責任者としてどうにかする能力はあるはずだ。

 でなきゃガンフォールが悪巧みを強く意識させるような笑みを浮かべたりはしない。

 一瞬だけど明らかに悪役面に見えたぞ。


「その者たちが後学のためにハルトの魔法を見たいそうだ」


 わざわざ話を振ってくれるし。


「できれば全力の魔法が見たいものですねえ」


 と魔導女子A。

 名前は聞いたが改心するまでは覚えてやらない。


「それとも、威力が凄すぎてここでは披露できませんか」


 魔導女子BもAに同じだ。

 共に魔法使いの頂点である魔導師である上に美人でスタイルもいいのだが性格は最悪だ。

 あおった上で馬鹿にしてくるとか2人とも嫌みったらしいからな。

 発言内容はギリギリ非礼には当たらないのだろうが両者ともニヤニヤしてて態度は完全にアウト。

 マリア女史に護衛のダイアンとリンダもこめかみのあたりが引きつっている。


『此奴ら、許せぬ!』


 シヅカが本気で怒り出しそうになってるし。


『くーくぅ』


 まあまあ、と霊体のままのローズがなだめているので何とか抑え込めているような有様だ。

 ツバキとハリーは、この後どうなるか想像がついているらしく平然としてくれている。


「そんなに言うなら軽~く見せてやろうかね」


 自分たちの方が上だと信じて疑わない奴らは鼻っ柱をへし折ってやるのが最適解だろう。


 パチン!


 フィンガースナップで大きめの魔方陣を展開。


「ほほう、これならば大魔法でも被害は出ぬな」


 シヅカがニヤリと笑いながら魔導女子たちを見やる。


「「なっ!?」」


 絵に描いたような愕然ぶりを見せてくれましたよ。


「馬鹿な! 無詠唱で儀式魔法なんて……」


 呆然とした面持ちで魔導女子Aが呟く。

 おいおい、本番はこれからだよ。

 魔方陣から光を溢れさせて演出を高めつつレッツ召喚。

 光が消えると、そこには超大型犬すら超える体格で灰色の狼がいた。

 齧り付かれたら人の首も軽くもげてしまうであろう大迫力の狼が魔導女子AとBをギロリと睨みつける。


「「ひぃっ!」」


 2人はビクリと体を震わせ震え上がりながら驚愕と恐怖に顔を歪ませた。


「ウゥオォォォ────────ン!」


「「ひいいいぃぃいぃぃぃ───っ!!」」


 遠吠えひとつで腰を抜かして魔導女子ABが抱き合い悲鳴を上げた。


「たびたび呼び出してすまんな」


 そう、この狼は前に呼び出したことのあるフェンリルだ。


「ウォ」


 気にしなくていいらしい。

 フェンリルが俺の前まで来てちょこんとお座りした。

 なかなか上機嫌なようで尻尾をユルユルと振っている。


「ウォン」


 この間のかき氷が美味しかった、か。


「味付けはしてなかったろ」


「ウォォ」


 込められていた魔力が美味だったって?


「そりゃどうも」


 俺の体温を感じさせないよう氷属性の魔法で冷気を纏わせながらモフってみた。

 すると目を細めてされるがままになっている。


「ガンフォール、これでどうだ?」


 目を丸くしていたガンフォールに呼びかけたものの返事がない。


「おーい、本気を出せって言うんなら場所を変えなきゃならんのだが?」


「はっ!」


 本気という単語に反応して我に返ったようだ。


「まさかと思うがフェンリルではあるまいな」


「疑われてるぞ」


「グルルッ」


 俺の言葉を受けてフェンリルが冷気を吐き出してみせた。


「はい、ストップー」


 ブレスの予備動作に入ったので止めた。


「吐息レベルでないと周りが凍り付いてしまうからな」


 白い息がキラキラと輝いて綺麗なんだけど、そのせいで今でも軽く周辺の気温が下がっているくらいだ。

 まあ、存在するだけで室温が何度か下がっていたんだけど。

 あんまり長居させると耐えられない人間も出てきそうだから、そろそろ還ってもらうことにしよう。


「ありがとな。今回もかき氷のお土産つきだぞ」


「ウゥオオオォォォォォン」


 フェンリルは大興奮で還っていったんだけど、その場に残されたのは沈黙だった。


「あー、もしかしてやり過ぎちゃった?」


「どうやらそのようだ」


「ですね」


 ツバキの言葉にハリーが同意した。


「不甲斐ないのう」


 魔導女子AとBを見たシヅカが嘆息する。


「すこし肌寒くなった程度で震えるなど」


「いや、そっちじゃないと思うな」


 念のために温熱の魔法を使って室温を元に戻したが2人は震えたままだ。


「フェンリルは殺気立っておらなんだではないか」


 顔は凶悪だけど懐っこくて可愛げがあるのは俺も知ってるさ。


「あの2人には恐怖体験だったんだよ」


「主よ、2人だけではないようだぞ」


 ツバキの言葉に周囲を見渡してみると大半が驚愕と恐怖が入り交じった顔で固まっていた。

 うちの面々以外でフリーズしていないのはガンフォールと王女くらいのものだ。

 純粋に驚いているだけみたいなので胆力があるんだろう。


 ガンフォールがクワッと目を見開き迫力満点の顔で俺の方を見てきた。


「伝説の魔物を召喚するとか、やり過ぎじゃ!」


 この怒声が切っ掛けになったのか、金縛りが解けたように次々と再起動している。


「間違えるなよ。フェンリルは魔物じゃなくて妖精種だぞ」


「む、スマン」


 謝る相手が違うと言いたいところだがフェンリルがこの場にいないのでツッコミはなしだ。


「ちなみに、あの召喚で本気と思われちゃ困るんだよなぁ」


「むうっ」


 唸り声を出したガンフォールがシヅカをチラ見する。

 それに対しシヅカがニヤリと笑みを浮かべるとガンフォールは蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。

 国元で本来の姿を見ているからなぁ。


「あの、賢者様」


 ガンフォールが固まっている間にお姫様から声がかかった。


「はい、なんでしょう」


「もしかして竜を召喚したりできるのでしょうか」


 瞳をキラキラさせながら聞いてくる。

 もしかしてフェンリルを召喚した時も感動して動けなかっただけとか?


「「「「「─────っ!!」」」」」


 とんでも発言にお姫様とミズホ組以外の面々が血相を変え声も出せないほど驚いていた。


「召喚した後のことが保証できませんがよろしいか?」


 驚いていた一同がお姫様の返事は無視しろとばかりに全力で首を一斉に振ってきた。


「楽しそうじゃないですか」


 この発言に首振り組が卒倒しそうになっている。


「後先考えましょう。ブレス攻撃のない亜竜でさえ一国の軍隊が総出で対応するのですよ」


 今度はブンブンと頷いている。


「それでも竜が見たいですか?」


 この質問に首振り組が残像が出るかというほどの勢いで頭を振りまくる。


「残念ですが皆さんに迷惑がかかるのは私の本意ではありませんし諦めます」


 王女はションボリしてたけど、周囲にホッとした空気が流れたのは言うまでもない。


読んでくれてありがとう。

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