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177 王女が来る前に

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。

 幻影の仮面ワイザー・ダークネスは効果てきめんだった。

 ジェダイト王に加え賢者である俺がいたということが衛兵の報告に信憑性を持たせたからだ。

 まあ、ガンフォールや俺が黒い魔法剣士について証言を求められることはなかったけど。

 お陰でブリーズの街で宿泊することなく帰ることができて助かったよ。


 その日の晩にノエルからケータイメールで報告を受けた。

 後日、ジェダイト王には場に居合わせたかだけ問い合わせが行われるそうだ。

 詳細な証言は求められないという。

 その場にいたことが確認できたにもかかわらず根掘り葉掘り聞くのは一国の王を信用していないと受け取られかねないからなぁ。


 シノビについては参考情報にするそうだ。

 まだ先の話なので現状では何もわからんけど無駄にならないなら何だっていいよ。

 俺としては月影の一同にアイテムを譲渡できたことの方が重要だ。


 全員がミズホ刀に満足してくれたので大満足。

 ケータイも渡した直後の反応が芳しくなかったけど、夜になって皆から自撮りした写メ付きメールが送られてきたし。

 漫画式のマニュアルは受けがいいらしい。


[よくできました。夜更かしせずに早く寝ましょう]


 とだけレスしておいたけど、本当は凄く嬉しかったんだよな。


「バックアップを取って、上書き禁止にして……」


 永久保存版にして大満足だったんだけど、別口で少し問題があったんだよな。


「妾の出番がまるでなかったではないか」


 シヅカがお冠になってしまったのだ。

 昨晩の探索では納得いかない結果に終わったから張り切ってたんだよね。


「まあまあ、そのうち出番を用意するから」


「絶対じゃぞ」


「おうとも」


 安請け合いと言われそうだが、そうでもしないとふくれっ面は解消されなかっただろう。

 約束を履行するためには時間を作って東方に狩りに行くしかないな。

 なんにせよ御機嫌取りに時間を取られなくて良かったよ。

 自動人形の改良がしたかったのでね。


 思考パターンを今より高度にするのが上手くいかなくてね。

 【多重思考】スキルを駆使して並列かつ高速で様々なパターンをシミュレーションしていく。

 お陰で【多重思考】の熟練度が少し上がったが、まだ半分未満だ。

 神級スキルを極めるのは無理なんじゃないかとさえ思えてくる。

 こればっかりは適当にやると熟練度が上がらないからな。


「ん? 適当……適当か」


 人間の思考は0と1のデジタルじゃないのを失念していた。

 曖昧な部分を持たせるのはありかもな。


「あー、二足歩行の制御術式を参考にすれば良かったんじゃないか」


 思わず愚痴ってしまったのも仕方がない。

 速歩きと小走りは速度域が被るから歩行と走行の切り替え制御なんて曖昧さが必要だ。

 状況によって使い分けるなど単純ではないが、実地でデータを蓄積させて学習させるようにしよう。

 禁則事項を優先させれば、おかしな事にはならないだろう。

 で、メンテ時に並列化させる。


 学習型の人工知能が暴走するなんて話はよくあるから新型は少数にして俺の監視下に置く。

 数を絞るのは他のことをする時に支障を来す恐れがあるのと飛び地の管理もしないといけないからだ。


「うーん、飛び地なぁ」


 よくよく考えると呼称がいつまでも飛び地のままじゃ問題がある。

 これから相手をするゲールウェザー王国に足下を見られかねないんだよな。


「よしっ、ヤクモにしよう!」


 ふと思い浮かんだ名前なので由来などはない。

 ミズホとヤクモだと並べても違和感がなさそうだと思った程度だ。


「ほう、田園風景の広がる地に風雅な名付けをしたものじゃな」


 多くの者たちが寝静まる時間にミズホ組で城を抜け出して飛び地に来たのだが。


「気に入らないなら名前を考えてくれよ、シヅカ」


「不服はないぞ。風変わりで面白いのじゃ」


 どう感じるかは人によって違うってことだな。


「それよりも仕事だ」


 皆で分担して植生魔法を使うという簡単なお仕事です。


「植生魔法というのは聞いたこともないのじゃ。妾は役に立てそうもないのう」


 シヅカがションボリする。


「そんなに難しくないから見て覚えれば次からは活躍できるだろ」


「おおっ」


 俄然、やる気になるシヅカ。

 現金なものである。

 とにかく植生魔法でガーッと育てていく。


「なんなのじゃ、これは!? 作物が踊るように蠢いておるじゃと?」


 引き気味に驚くシヅカの反応が面白い。


「いや、異様な速さで育っておるのか」


「作物だけじゃないんだな、これが」


 ヤクモでは材木確保と果物類の収穫を目的に植林とかも行っているのだ。

 こちらも植生魔法で成長を加速させておく。


「なんと!?」


 シヅカは目を丸くしてあっちに行ったりこっちに来たりをして見学していた。

 帰りは東方の適当な場所に寄り道。

 シヅカのストレス発散のためであったのは言うまでもない。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 翌日になると早朝からドワーフたちが慌ただしく働いていた。


「気合い入ってるなぁ」


 俺がゲールウエザー王国のお姫様が来るとガンフォールに知らせたからだろう。

 到着は夕方になるはずなんだが。


 王女一行を監視させている自動人形の方からも日の出とともに出発したという報告があった。

 向こうさんも張り切っている。

 俺がいるかどうかなんて知りもしないだろうに。

 めげないお嬢さんだ。


「城内が騒々しいのう」


「お姫様が来るからって張り切ってるんだろ」


 お陰で俺らもホイホイ動き回るわけにはいかなくなっている。

 一生懸命に働いてる皆を邪魔するのは本意ではないからね。


「主よ、我々はどうする?」


「何もしないよ。いつガンフォールに呼ばれるかも分からんし」


「つまらんのう」


 シヅカが呟く。

 駄々をこねるほどでないのは昨晩の遠征がストレス解消になったからだろう。

 一撃瞬殺という感じでスパスパと手刀でオーガを両断する手際は見事なものだった。

 ついでに首ポキを教えたら地竜相手に1回で軽く決めていたし。

 ドヤ顔で高笑いするのでバトルジャンキーというよりは自分の実力を俺に見せたかっただけみたいだな。


 ストレス解消できたんならなんでもいい。

 逆に寄り道せず帰っていれば、どうなったことやら。


 ちなみに俺は暇ではない。

 自動人形の改良を続けたりケータイの中継機や魔石改良の研究という仕事がある。

 あと、ものづくりの指導もな。


「そこは術式の精度が性能を左右するぞ」


「わかった」


「ほうほう、これは面白いのう」


 ツバキに指導しているとシヅカも見様見真似で参加してくる。

 この辺はローズとは違うよな。

 とにかく俺の役に立ちたいという気持ちが一杯なのだ。


 とりあえず6面体パズルを作ってみたら、あっさり真似してみせた。


「なかなかやるな」


 手に取って確かめてみたが、見た目が整っているだけじゃなく滑らかに動く。


「うむ、そうであろう。フッフッフ」


 不敵に笑っているが架空の犬尻尾はブンブンだ。


「ところで主よ、これは何じゃな」


「知らずに作ってたんかいっ」


「それは自分も興味があります」


「右に同じ」


 ハリーやツバキも興味深げに見ている。

 適当に動かして完成状態を崩した。


「こいつは立体パズルの一種で知的遊具だな」


「なるほど、同じ面で色をそろえるのだな」


 バラバラに並べ替えた6面体を矯めつ眇めつで見ていたツバキが答えた。


「正解だ」


「ほう、並びをわざと崩して並べ直すとな。確かに頭を使わねばならぬようじゃ」


 シヅカがさっそく挑戦している。

 ハリーは色々な角度から眺めているだけだ。

 ツバキは指先に角の部分を乗せてクルクルと回転させてすべての配置を見ている。


「できたのじゃ」


 十数秒ほどでシヅカが真っ先に終わらせた。

 世界記録は1桁秒らしいけど初めての挑戦でこれとは……


「主よ、できたぞ」


「自分もです」


 ツバキとハリーも1分かからなかった。

 全員ステータス高いし本気を出さなくてもこれくらいは朝飯前か。

 タイムアタックで競わないと、すぐに飽きそうだ。

 設置型のストップウォッチを急遽作って、どうにか朝食までは時間が潰せたけど。


「ふむ、これは興味深いものじゃな」


 朝食の席でガンフォールに披露したら全部持って行かれた。

 ガンフォールだけでなくハマーもボルトも夢中になってカチャカチャやってる。

 毎度思うんだが、遊びに飢えてるよな。


「大丈夫とは思うけど仕事を忘れるなよ」


 返事がない。

 返却を気にして、どうにか2面だけでもそろえたいと躍起になっているのだろう。


「それは全部やるから仕事しろ」


「良いのか?」


「太っ腹じゃな」


「ありがとうございます」


 堪能した後なので、こちらはジェダイト組の喜びようとは温度差がある。

 部屋に戻ったら次の娯楽を求められた。

 そんな訳で朝食後は修行もかねて狭い場所でも遊べるコンパクトなラジコンを作る。

 手本として車を作ってみせると……


「これで良いのかえ?」


 シヅカはサクッと完成させた。

 おまけに操作の方も家具の脚の間をドリフトですり抜けさせたりと上手い。

 助手席に座った経験が生きているのか。


 ならばとヘリコプターを作ってみた。

 構造を見せながら丁寧に仕上げていく。


「今度は更に小さいのう」


「主よ、最小の自動人形も乗り込めぬぞ」


「室内で飛ばすことを前提にしているからな」


 車よりは時間がかかったが労せず完成。

 さっそく飛ばしてみせた。


「「「おおー」」」


 シヅカだけでなく動画で見ているはずのツバキやハリーまでもが驚きを隠さない。

 ラジコンとはいえ実物を見たことがなかったからか。


「飛ぶための術式がないのに、どうやって飛んでおるのじゃ?」


 大昔に封印されたんだし、航空力学なんて知らんよな。

 ということで昼飯までの時間は座学となってしまいましたとさ。


読んでくれてありがとう。

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