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176 ダンジョン日帰りツアー終了

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。

 60層のボスを呼び出していたのは広間の奥に鎮座する迷宮核である。

 禍々しい空気を周囲に発散していた。


「濃い瘴気に侵食されているのは上皮だけみたいだな」


 皮の分厚い野菜とでも言えばいいのか。

 芯まで変質していたら上の階層にまでアンデッドが出て大パニックだったろう。

 ゴードンが神経質なまでに危惧していたのが分かった気がする。


「見立て通り浄化でいけるな」


 迷宮核は壊れないのでダンジョンも維持されるだろう。

 冒険者の飯の種を消さずに済ませられるのは本当に助かる。

 別の稼ぎ場を求めて冒険者たちがブリーズの街からいなくなるところだったからな。

 それを目当てに商売している者は少なくないはずだし。

 俺のせいでブリーズの街が衰退するなど考えたくもないね。


 さっさと光属性の魔法で迷宮核を浄化する。

 いや、アンデッドが出現していない階層も含めてだな。

 浄化した後は迷宮核が吸い上げている魔力経路の地脈も忘れずに確認。

 ここが汚染されていたら意味がない。


「よし」


 浄化完了だ。

 が、こういうのはわずかでも残っていると元の木阿弥なんてことになりかねない。

 ガンに似ているかもな。

 治療したと思っていたのに再発しましたなんてことが無いとは言えないのだから。


 ガンの放射線治療などと違うのは浄化にやり過ぎはないってことだ。

 故に丹念に浄化を掛けてまた掛けてを繰り返した。


 数度の浄化を終えて迷宮核を見ればひとまわり小さくなっていた。

 浸食されて異常に膨らんでいた部分が完全に無くなったか。


「大丈夫そうだな」


 これなら、うちの子たちが付きっ切りで潜らなくても大丈夫なはず。

 とはいえ月影のメンバーは報告があるから今日は一緒に帰れないとは思うが。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 皆の元へ戻るとジェダイト組に能面のような表情で迎えられてしまった。


「あり得ん。どう考えてもあり得ん」


 ハマーがしきりに頭を振っている。


「そんなこと言われてもなぁ」


「こんな短時間で迷宮のボスを倒すなど」


「でも、事実だ」


「そうじゃな。ワシらも見たし」


 俺の言葉を肯定したのはガンフォールである。


「なんだ、中継してたのか?」


「そうではない」


「少し前までスケルトンどもと戦闘しておったのじゃ」


「うん、それで?」


「いきなり武器とコアだけ残して消えたんじゃよ」


「あー、迷宮核を迷宮ごと浄化した影響かな」


「迷宮ごとだとぉーっ!?」


 目玉が飛び出しそうな勢いで驚くハマーがうるさい。

 ボルトの方が静かで大人しいじゃないかと思ったら……


「だから言ったではないか。主が迷宮を浄化していると」


 冷めた表情のシヅカが語ったことで、すでに驚いた後であることが判明した。


「それは聞いたが、何層あると思ってるんだっ」


 ハマーは引きずっているみたいだけどな。


「人間、諦めが肝心じゃろうて」


 せめて慣れって言おうぜ、ガンフォール。


「ハルトを一般人の基準で考えようとするからダメなんじゃ」


 酷い言われようだがミズホ国で見せるものを見せたから否定できない。

 今回もそれを裏付けるような非常識で規格外なことをしているし。


「そうでしたな」


 あれだけ騒いでいたのに、あっさり肯定するとはね。

 うるさく騒がれ続けるよりはマシか。

 ボルトは空気を読んでか黙して語らずだ。


「この後はどうするんじゃ、ハルトよ」


「帰るさ、明日には姫さんが来るって言ったろ」


「うむ」


「そっちも準備とかある程度は人任せにしたとして最後は自分の目で確かめるんだろ」


「もちろんじゃ」


「ガブローなら大丈夫だろ」


「まだまだじゃ。つまらんミスが多い」


 どれくらいの頻度で多いと言っているのかね。


「それは些細なことをフォローできない周りの連中が問題じゃないか?」


「ふむ、それもそうじゃな」


 えらく素直だな。


「あやつは人を育てるのが下手じゃ」


 結局、自分の孫に手厳しくなるのか。


「どうかな」


「どういうことじゃ?」


「孫とはいえ性格も資質も同じとは限らんよな」


 ガンフォールはワンマン型だけどガブローは違う。

 押しは強くないから弱腰に見えてしまうんだけど調整型だからだろうな。


「むう」


「意外にしたたかだぞ、アイツ」


 ガンフォールの眉根にシワがよる。

 何処がだと目線で問われた。


「揺り椅子の時だけど簡単に情報をゲロったと思わないか」


「む?」


「自国の利益になることを見越して立ち回ったと踏んでるんだがな」


「フン、小癪な」


 不服そうな口ぶりに反して顔はニヤけているガンフォール。


「ガンフォールはしばらく飢饉対策に専念して全部任せてみてはどうだ?」


「大胆なことを言いおるわ」


 とは言ったものの、腕組みをして考え込み始めたところを見ると否定的には思っていないようだ。


「考えるのは帰ってからにしようぜ」


「そうじゃな。時間もあまりなかろう」


 言いながらジト目で見られた。

 抱え込みダッシュを警戒しているのだろう。


「まあ、駆け足で最短距離を行けば大丈夫か」


 普通の魔物との遭遇戦は不可避になるが魔法で先手必勝の瞬殺だ。

 剥ぎ取り? 倉庫に放り込むだけで完了ですよ。

 細かく言えば俺の亜空間倉庫で脳内スマホのアプリ倉庫管理を使ってカード化すれば自動で素材になる。

 時間は一切かからないって訳だ。

 それでもダンジョンの最上層に戻ってくるまで数時間を要した。


「ここまで来れば走らなくてもいいだろう」


 足を止めたのだがジェダイト組は誰も返事ができずにいた。

 このまま外に出ると衛兵に何事かと思われかねないな。


「ほら、疲労回復ポーションだ」


 ジェダイト組に梅干し味の固形ポーションを手渡していく。

 ハマーとボルトは笹の葉に包まれたそれを見ただけで口をすぼめていた。

 それでも効果が高いことは承知しているからか目を瞑って口に放り込み顔をシワシワにさせる。

 それを見たガンフォールはいぶかりながらもポーションを口にした。


「ぃ────────っ!」


 凄い表情で悲鳴を噛み殺している。

 酢のように揮発しないから匂いで酸っぱさは分からんし初見殺しだよなぁ。

 それでも、どうにか飲み込んだようだ。


「これは梅干し味か」


「ああ」


「米なしで食うとたまらなく刺激的な味じゃな」


 米の甘みで相殺できないからワンランク上の酸っぱさに感じたのか。

 それは仕方ないな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ダンジョンの外に出るなり衛兵たちに囲まれてしまった。


「御無事ですか!?」


 小隊長がなにやら必死の形相で聞いてくるけど意味がわからん。


「オークの群れに襲われた冒険者が逃げ帰ってきまして」


「そうなんだ」


 遭遇していないことになっているから、すっとぼける。


「誰か犠牲者でも出たとか?」


「いえ、正体不明の魔法剣士に助けられたそうで」


「助かったんなら問題ないんじゃないか?」


 この場にいないところを見ると、ここでの聴取を終えて冒険者ギルドへ報告に向かったかな。


「それはそうなんですが……」


 なにやら言い淀んでいる小隊長。


「賢者様たちは黒い全身鎧の男を見かけませんでしたか?」


「その魔法剣士が黒い奴だと?」


 我ながら白々しい。


「そうなんですが、あっと言う間にオークを全滅させた凄腕だそうで……」


 にわかには信じがたいと言いたげである。


「しかも重傷者を魔法で癒やしたと思ったら消えるようにいなくなっていたと」


 ここで少し思いついたことがある。


「まるでシノビだな」


 あえて仮面ワイザーとは異なる情報を流すことで情報が錯綜して俺から目がそれてくれるかもってね。


「シノビ……、何ですかそれは」


「伝説に語られる全身黒ずくめの魔法剣士だそうだ」


「なんと!?」


「風のように疾走し標的は瞬殺。不可思議な術を使い霞のように消え去るそうだぞ」


 俺の話を聞いた小隊長の顔が引きつっていた。

 部下の衛兵たちも顔を見合わせるようにして困惑している。


「どうした?」


「冒険者たちの証言に合致しています」


 震える声で答える小隊長。


「おいおい、伝説と言っただろう。こんな所に現れるとは思えないな」


「いえ、ですが……」


「見たと言ってるのはその冒険者だけなんだろ?」


「それが2組のパーティの証言でして」


「なんか凄いのがいたのは確実ってことか」


「そうです」


「けど、ここでは確認できていないんだろ」


「ここからの出入りは確認できていません」


 冒険者たちは見たが衛兵たちは出入りを確認していない。

 それを報告するのは憂鬱だよな。

 ダンジョンへの出入りを監視している衛兵隊の面子に関わることだし。


 ここで幻影魔法の出番である。


「アレは何だ!?」


 ふいに衛兵の中の1人が岩場の上の方を指差した。

 それに釣られて全員がそちらを見上げると、そこにいたのは仮面ワイザー・ダークネス。

 シノビの話をしておいてシノビマスターを使わないのは冒険者の証言との食い違いを防ぐためだ。


「本当にいたのか!?」


 幻影魔法で作り出しただけの虚構の存在だけどね。

 それを5体に分身させて蜃気楼のように姿を消させた。

 呆然としたまま動けずにいる衛兵たち。


 目撃したなら報告はできるだろうし冒険者たちも嘘つき呼ばわりはされないだろう。

 どこまで報告を受ける者が信じるかは俺も知らん。


読んでくれてありがとう。

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