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1744 話の流れがおかしくないか

「そんなことは……」


 法王は、無いと否定しかけたものの断言できずに言い淀んだ。

 思い当たる節がないわけでもないようだ。


 おそらく難しい案件はすべて自分でやってしまっているのだろう。

 周囲に振り分ける仕事は手本を見せる必要のない簡単なものだけなんじゃなかろうか。

 それでは本当の意味で人は動かないだろう。

 やりがいを見出すのが難しいからな。


 法王のカリスマによって引っ張るにも限度がある。

 簡単な仕事しか任せてもらえないなら信頼されていないのではないかと思いかねないし。


 その上、難しい案件を法王が抱え込んでしまうからな。

 その思いをますます強く加速させてしまいかねない。

 体調が万全でない現状でも頑なに任せようとしないのでは尚のことであろう。


 難しい仕事を人任せにできないのは法王の悪癖と言えそうだ。

 これでよく人心が離れていかないものだと驚かされてしまう。


 決して大袈裟ではない。

 エメラ・グリューナスでなければ、とっくにこの国はバラバラになっているはずだ。


 まあ、別人であるなら方針もやり方も異なってくる。

 必ずしもそうなる訳ではないか。


「今の言葉には続きがあってな」


「ほうほう、それは興味深いことだね」


 何故かサリュースが口を挟んできた。

 思いのほか興味津々といった様子だ。

 何が当人の琴線に触れてしまったのか謎である。


「さすが賢者と呼ばれるだけはあるね」


 そんな風に「賢者」の部分を強調して言ってくる始末だし。


 何気に思いつきの自称で始めた二つ名が一人歩きしてしまっているな。

 こうなってしまうと俺には止めようがない。

 レベルが4桁あっても人の口に戸は立てられぬってね。


 しかもサリュースにまで浸透するくらいだから多勢に無勢でもあるんじゃなかろうか。

 何年もかけて浸透したというなら分からなくはないのだが。

 SNSとかで拡散したならともかく、西方でこの広がり様は理解が追いつかない。


 どうしてなんだろうな?

 自称しておいて言うのも何だとは思うがサッパリ分からん。

 分かるのは、どうあがいても押し止めることはかなわないってことだけだ。


「そうなのですか?」


 法王が食いついてきているし。

 このまま広がる勢いが止まらない気がする。


「そうともそうとも、我々の知らないことを色々と知っているのだよ」


 ドヤ顔でサリュースが返事をする始末だ。


「食文化に関する知識などは圧巻の一言に尽きるね」


 言うことが大袈裟すぎる。

 単に日本のメニューを披露しただけだろうに。


「まあ」


 詳細を聞いた訳でもないのに法王は何故か感嘆の声を上げているし。

 少しは疑問を持つなり根拠を求めるなりしようぜ?


「見たことも聞いたこともない魔法を簡単に使うばかりか弟子に伝授するのも上手いし」


 魔法は発想力なんだけどな。

 考案するのも伝えるのも賢者とは関係ないと思うのだが。


「まあっ」


 法王の食いつきが増しているし。


「魔道具についての知識も豊富で素晴らしいものなのだよ」


 バスとか輸送機のことを言っていると思うのだが、それは俺のオリジナルじゃない。

 元ネタが存在する以上は俺が凄いということにはならないだろう。

 実に居心地の悪い感じである。


「まあまあっ」


 サリュースは法王が瞳を輝かせているのを見てフンスと鼻息も粗くしている。

 まるで自分の手柄であるかのように得意満面であるのは言うまでもない。

 このまま放置すると話に尾ひれを付けられかねないな。


「はい、そこまでー」


 俺はパンと柏手を打ち、あえてテンションを下げた声で割って入った。

 妙な方向へ話を誘導されて盛り上がられても困るのだ。


 サリュースには、邪魔ではなく援護してくれと言いたい。

 もし、今のが援護のつもりなら小一時間は問い詰めたいところだ。


 とにかく話を無理にでも戻すことにした。


「それはどうでもいいんだよ」


 強引だろうが何だろうがグダグダにされるよりはマシである。

 誤魔化しとかスルーしたとか言われそうだが気にしない。

 幸いにしてツッコミを入れられることはなかったが。


「そんなことより話の続き」


 ここは声を抑えつつもビシッと言って切り替えを促す。


「っ!」


 ハッと気づいたサリュースがばつの悪そうな表情をのぞかせた。

 どうやら暴走したことに気づいてくれたようだ。


 目線で詫びを入れてきたので同じようにして了承の意を返す。

 根に持ったところで仕方がないからな。


 あとは法王の意識を引き戻すだけだ。

 が、こちらは気づきを促すまでもなく既に切り替えが終わっていた。


「続きがあるのですよね」


 既に聞く体勢に戻っている。


「元は、やってみせ言って聞かせてさせてみせ褒めてやらねば人は動かじでしたか」


 どう続くのかと目で問いかけてくる。

 意欲は充分だ。


 問題は続きを聞いた時の反応がどうなるか。

 正直なところ読めないが、引き返すことはできない。


 サリュースに俺のことを喋らせても意味はないからな。

 まあ、邪魔をしたと思っているだろうから逆戻りすることは考えられないが。


「話し合い耳を傾け承認し任せてやらねば人は育たず、と続くんだ」


 噛んで含めることを意識してゆっくりと語った。

 この言葉は単語のひとつひとつに重みがあるからな。

 サラッと言ってしまうと聞き逃したり、理解が追いつかなかったりしかねない。


 まあ、法王であれば大丈夫だとは思うが。

 そんな風に考えながら言ってみたのだけれど。


「っ!」


 人は育たずの部分で法王がビクッと反応していた。

 そういう発想が欠けていることに気づいたか。


 1回で理解してしまったようだな。

 さすがと言うべきだろう。


 だが、これで終わりではない。

 俺は話を続ける。


「最後は、やっている姿を感謝で見守って信頼せねば人は実らず、で締めくくられる」


「っ!」


 法王がこれでもかと言わんばかりに両目を開ききっている。

 今のはつい先ほど以上のショックだったようだ。


 ああ、また失敗してしまった。

 法王がよく倒れないなと冷や汗ものなんですがね。


 回復魔法を使っていなかったら確実にアウトだったな。

 ギリギリの綱渡り状態だ。


 だというのに話を切り上げられないのが情けない。

 法王が完全に夢中になっていたからね。

 今のまま部屋を出ても法王はベッドから這いずりだしてきかねない。


 俺は何をやっているんだか。

 気分としては盛大に嘆息を漏らしたいところであった。

 人前だと誤解されかねないから、それは内心だけにとどめておいたけどね。


読んでくれてありがとう。

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