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1742 策が来た?

「それよりも、まずは体力を回復させることを優先させてください」


 オッサン枢機卿も、ただ必死なだけではなかったようだ。

 ここぞというタイミングを見抜く目を持っているみたいだからな。


 冷静さを取り戻して静かに法王を諭していた。


「寝てばかりいるのは良くないんじゃないかしら」


 法王は頑固にも難色を示していた。

 今も体力を消耗しつつあるというのに、よくやるよ。

 信じ難いほどの根性を見せてくれる。


 顔色は先ほどよりも悪くなっているのは言うまでもない。

 にもかかわらず表情だけは平然としているのだ。

 根性選手権を開催したら、ぶっちぎりで優勝しそうである。


「それを良くないと思うことが害悪なのです」


 ズズイと身を乗り出すようにして法王に迫るポーン枢機卿。


「そ、そうなの?」


 焦った様子で返事をする法王。


 なんだか法王とオッサン枢機卿の立場が入れ替わったかのようだ。

 この様子だと俺の用意している手立てよりも良い方向に向かうかもしれない。


 まあ、こちらにも都合があるからキャンセルのしようがないんだけどね。

 既に動き始めているものを止めるのは簡単ではないんだよ。

 物理的にではなく精神的にね。


「とにかく絶対安静です」


 このオッサン枢機卿はここぞという場面で強気になるな。


「わ、分かったわ」


 気迫で完全に法王を圧倒している。

 ただ、些か圧が強すぎるようだ。


「まあまあ、ポーン枢機卿」


 苦笑しながらサリュースが止めていた。


「病み上がりの人をあまり追い詰めるものではないよ」


 確かに今の法王の状態だと強引すぎるのは良くない。

 サリュースもそのあたりに気づいたようだ。


「っ!?」


 オッサンが血相を変えて直立不動の姿勢に戻る。

 反応が極端すぎるだろう。


「失礼しましたっ」


 これにはオッサン以外の皆が苦笑せざるを得なかった。

 そこへ──


「失礼します」


 そう声をかけて部屋の外にいたサリュースの護衛騎士が入室してきた。

 法王の寝室の前で張り番をしていたペアのうちの1人だ。


「おやおや、何かあったのかな?」


 サリュースが真っ先に声をかける。


「はい、ヒガ陛下のお供の方がいらっしゃいました」


「俺のところの?」


「はい、そうです。

 キース殿と仰いました」


「キースが?」


「はい、何か急用だとかで」


「何だろうな?」


 などと不思議そうにしてみせたが、これは【千両役者】スキルを使った芝居である。

 スマホを使ってキースに仕事を頼んでおいたのだ。

 急用ができた振りをして俺を呼びに来てほしいとね。


 さすがにこちらの事情で呼び出されたなら面会している場合じゃないとなるって訳だ。

 いくら病み上がりな法王の要求でもこれを押し退けることはできまい。


 向こうが国を代表して礼が言いたいという理由で呼び出してきたのだ。

 であるならば、こちらも国の事情を出して法王の都合をキャンセルさせるって訳だな。


 そのためには緊急性の高い用件が必要になってくる。

 もちろん、そんなものは存在しない。

 でっち上げの急用だ。


 故に用件の詳細を聞かれるとアウトではある。

 とはいえ勝算はゼロではない。


 国の事情であれば極秘事項であることを盾に取れば深く追求されることはないはずだ。

 ぶっちゃけ、穴だらけの思いつきではあるな。

 ちょっとしたことで崩壊する策とも呼べない手ではある。


 こんなことでは人のことを根性論者とか脳筋とか偉そうなことは言えない。

 たぶん今後も言うとは思うけどね。


「用件はなんと?」


 俺が問いかけると──


「いえ、それが極秘事項なのでヒガ陛下を呼んでほしいとだけしか伺っておりません」


 護衛騎士はやや困ったような表情を浮かべながら答えてきた。


「そうなんだ」


 我ながら白々しいと思いつつ話を進めていく。


「どうやら何か問題が起きたようだ」


「そのようだね」


 そう言ったのはサリュースだ。

 声音も表情も特に含みは感じられない。

 が、逆にそれが何かを気取っているように思えてならなかった。


 【千両役者】スキルは仕事をしているが、それだけでは誤魔化しきれないものがあるか。

 サリュースには色々と見せてしまっているしな。

 タイミングも良すぎるし。


 何より、うちの面子が慌てるような状況というのが不自然に感じるのかもしれない。

 とはいうもののサリュースが何かしようという雰囲気は感じられなかった。

 この状況だと冗談でも邪魔をしてくるなど考えられないだろうしな。


「申し訳ないが、これで失礼させてもらいたい」


 俺がそう言うと法王は残念そうな顔をした。


「残念ですが仕方ありませんね。

 無理を言って引き留める訳にもいきませんし」


 諦観を漂わせるかのような嘆息を漏らす法王。

 その表情からは、ゆっくり茶飲み話でもしたかったと言いたげに見えた。


「色々と外の話を聞かせていただきたかったのですが」


 法王はすごく残念そうだ。

 それを目にしたサリュースが苦笑している。

 その様子から察するに、法王は外の情報に飢えているらしいな。


 どうやら俺の所見は間違っていなかったみたいだ。

 法王ともなれば自由も著しく制限されるのだろうし。


 まあ、それは国の頂点に立つ者として当然のことなのかもしれないが。

 俺みたいにフリーダムな方が世間的にはどうかしているんだとは思うからね。

 隣の芝生は青いと言われるのが実感できた気はするな。


「次がない訳ではないだろう」


 苦笑を堪えながら俺は応じた。


「生きていれば会うことなどいくらでもできるじゃないか」


 俺がそう言うと法王が一瞬面食らった表情になっていた。


「それは確かに」


 おかしそうに喉を鳴らして笑っている。

 ちょっと油断したのか微妙に表情をゆがめていたけどな。

 一瞬で引っ込めたが、これまでの耐えっぷりを見ていると相当我慢しているはずだ。

 いよいよ限界が近いのではないだろうか。


 それでもツラいとか疲れたとは絶対に口にしない。

 ブラック企業で勤めていた日本人が転生したんじゃないかと思ってしまったさ。

 そんな訳はないんだが。


「それまでに体調を万全に整えてくれていれば俺も安心して面会できるというものだ」


 俺の言葉に法王はキョトンとしていた。

 どうやら無理をしているのを気づかれていないと思っていたらしい。


 そんな訳ないって、というツッコミを内心で入れておく。

 いくら表情を取り繕っても顔色がすべてをチャラにしてしまっているからな。


 それでも表情を変えないあたりに凄みを感じて声がかけづらいんだが。


読んでくれてありがとう。

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