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1740 ようやく本題なんだけど

 ポーン枢機卿がヒートアップしていた。

 前後不覚になる前に止めないと法王に負担をかけかねない。

 そう思ったところで──


「あーあー、ゴホンゴホン」


 わざとらしい小芝居風な感じでサリュースが割って入ってくれた。

 ナイスタイミングであると同時に上手いとも思った。


 下手に仲裁しようとすればオッサンを更にヒートアップさせていた恐れがあるからな。

 落ち着かせるつもりが逆効果になるなんてシャレにもならない。


 そうでなくても法王はギリギリの状態なのだ。

 体調を悪化させるような真似は御法度である。


 だからこそ興奮しつつあるオッサンを刺激しないように止めるのは必須条件だった。

 そのための手段が、あの咳払いだった訳だ。


 これは言葉で説得して止めるよりも効果があるはずだと俺は確信していた。

 オッサン枢機卿が反応する前にね。


 言葉で止められると反発してしまいかねない。

 が、何も言わずに注意を引くだけだと反発しづらい面がある。

 絶対とは言えないけどな。


 注意を引くことに成功すればヒートアップしていた勢いが弱まる。

 視野狭窄に陥っていた状況から一時的に抜け出すことになるからね。


 ここで周囲の目があることに気づけるかどうかが先の状況を変える最初の鍵となる。

 オッサンが気づかなければ元の木阿弥。

 気づけば己の興奮した状態を客観的に見ることができる切っ掛けになる。


 つまりは第2の鍵だ。

 オッサンに客観視できるよう意識させられれば、おそらくは興奮状態も収まるだろう。

 それでダメならお手上げだと思う。


 もちろん最初の鍵で気づけなければ意味がない。

 そのためなんだろう。

 サリュースは下手な芝居だけでは終わらせていなかった。

 オッサンが視線を向けてきた瞬間に合わせて俺の方を見てきたのだ。


 ここでパスが来るとはね。

 俺も仕事をしなければならなくなった訳だ。


 が、元からオッサンを止めようと思っていたので否やはない。

 サリュースの視線移動に釣られて俺を見てきたオッサンに対して俺はジト目を向けた。


「…………………………………………………………………」


 ここで有効になるのは無言の圧力である。

 悪さをした訳じゃないから、さすがに殺気は必要ない。

 オッサン枢機卿は単に熱くなって視野狭窄に陥っているだけだからな。


 果たしてサリュースが下手な芝居で割って入った結果はというと──


「っ!」


 オッサンもそれで我に返っていた。

 一瞬だけどビクッとすくまれましたよ。

 凄んだ覚えはないというのにビビられるのは微妙に傷つくんですけど?


 とにかく膨らみかけていたオッサンの怒気が一気に霧散したのは確かだ。


「失礼しました」


 そう言って深々と頭を下げてきた。


「客人の前で醜態をさらしてしまいましたな」


 相当に応えたらしくオッサンの表情はかなり渋いものだ。

 あまり落ち込まれても仕事の効率とかに影響しかねないんですがね。

 真面目すぎるのも考え物である。


「いやいや、醜態と言うほどのことでもないだろう」


 苦笑するサリュースが俺の方を見た。

 再びパスが来たわけだが、このパスも必然だと言える。

 俺が同意しないと説得力のある言葉にならないだろうからな。


「そうだな」


 しっかりと頷いて同意していることを強調した。


「苦言を呈するのは側近の務めだと思うぞ」


 俺がそう言ったことでオッサンの眉間のシワが和らいでいた。

 多少は気が楽になったようだな。


 俺は内心で安堵の溜め息を漏らしていた。

 サリュースが上手くフォローしてくれなかったら、どうなっていたことか。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ポーン枢機卿が落ち着いたところで止まっていた話が前に進むことになった。

 本来の用件は法王を諫めることではないからな。

 その法王の願いで面会することになった訳で。


「ヒガ殿、本当にありがとうございました」


 神妙な面持ちで法王が頭を下げた。


「今回の件では御尽力いただいた旨はインサ女王から聞かせていただきました」


 一瞬、インサ女王って誰だっけと思いかけたさ。


 サリュースの名字なんだけどね。

 王国の名でもあるのに失念していたというのは些か失礼ではあるか。

 声には出さなかったのでセーフだと思うことにしよう。


「いや、気にすることはないさ」


 御尽力と言われるほどのことはしていないからな。

 ゴミ掃除はしたけど、いつもの島流し的山送りの刑は実行していないし。


「しかも多大なる御迷惑をおかけしてしまったようで誠に申し訳なく」


「いや、謝罪も礼も不要だよ。

 こちらには利もあったのでね」


「はあ、そうなのですか?」


「少なくとも持ち出しにはなってないから安心していい」


 それを聞いた法王が、フフフと笑った。

 冗談だと思ったのだろう。


 まあ、パワーレベリングのことは伏せているからな。


「友好国が増えるというのは明確な利なのでね」


「あら、それは私どもも同じですよ」


「双方にとって利があるなら、互いに引け目を感じなくて済むだろう?」


 要するにWIN・WINの関係ってことだな。


「まあ」


 俺の発言が意外に感じたらしく法王は軽い驚きを見せた。

 どうやら西方では一般的ではない考え方のようだ。

 言葉自体も類義語などが存在しないので、それは明らかである。


 これは受け入れにくい考え方かと思ったのだが。


「そうですわね」


 法王はあっさりと楽しげに笑みを浮かべた。

 自分で考えた上で有益だと判断したのだろう。


 まあ、友好国にと考える国のトップだからね。

 誰かを蹴落とすことだけしか考えない連中には爪の垢を煎じて飲ませたいものだ。

 この場にそういう輩はいないがね。


 とにかく法王が俺の考えを受け入れてくれるなら、こちらに否やはあろうはずがない。

 それは良かったのだが、同時に問題が生じていた。

 法王の気配に揺らぎを感じたのだ。


 どうやら体力的にそろそろ限界が来ているらしい。

 まだまだ回復途上なのだから仕方のないことだ。


 ただ、それを表面的な部分では一切見せないあたりが凄い。

 【千両役者】スキルのアシストがなくては気づけなかった恐れもある。


 気配の揺らぎも、ごくわずかだったのでね。

 驚嘆に値するというものだ。

 故に気づける者は少ないだろう。


 現に同席しているポーン枢機卿は分からないようだ。

 サリュースは何かしらの違和感を感じたようではある。

 明確に何かを感じ取った訳ではなさそうだが。


 こういう時は話を切ろうとしても簡単にはいかないんだよな。


読んでくれてありがとう。

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