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1739 待ちましたよ

「あの呪いに耐えきったんだ。

 間違っても根性なしだとは思わんよ」


「なるほどなるほど、それは納得なのだよ」


 苦笑するサリュース。


「それはともかくとしてだ」


「ん?」


「法王が眠っているなら出直すべきだろう」


「それもそうだね。

 言付けを残しておく必要はあるだろうけど」


「目覚めた時に何を言われるか分からんか?」


「そうそう、それがあるんだよねえ」


 サリュースがそう言いながら苦笑いしている。


「もう少し病み上がりという自覚を持ってもらいたいものなのだよ」


「まあ、無理をするタイプなのは分かるがね」


「体に良くないと言って聞かせてはいるんだけどね」


「こちらの心臓にも良くないしな」


 そう言うと、サリュースがプッと吹き出した。


「それは言えているのだよ」


 クスクスと笑い出すサリュース。

 これは危険な兆候だ。


「という訳で外に出よう」


「どういう訳でだい?」


「ここで騒ぐと法王が目を覚ましかねない」


「おっと、そうだったね」


 サリュースも失念していたことに気づいたようだ。

 変にツボって爆笑される前で良かったよ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 結局、法王との面会は先延ばしされることになった。

 念のために体力がそれなりに回復するまでは魔法で眠らせることにしたさ。

 周囲にもその旨を通知してね。


 それを聞いたポーン枢機卿などは俺たちが驚くくらい安堵していたな。

 完全に気が抜けたのか、へたり込む寸前まで脱力してたし。

 それだけ目を覚ました後の法王に振り回されていたのだろう。


「あじがどぉごだぃまずぅ~~~~~っ」


 涙と鼻水でグシャグシャになった顔で礼まで言われてしまった。

 オッサンに泣かれても誰得って感じだけどな。


 鼻水くらい拭けよと思ったのは言うまでもあるまい。

 サリュースも同じように感じたのか周りの者に目で合図していた。


 拭くものが用意されるのかと思いきや両脇を抱えられ連れ去られてしまったけれど。

 過剰な対応のような気はしたけど、オッサンも休ませないといけない状態だったらしい。


「ホントに無茶してたんだなぁ」


 誰も彼も体力ないのによくやるよ。

 遊園地などに連れてきてもらった子供かとツッコミを入れたくなったさ。

 遊びに夢中でテンション上げ上げな幼子と義務感で働く大人じゃ大違いだとは思うがね。


 共通点は体力が尽きるまで動き続けるということのみだ。

 電池が切れたようにパタッと止まってしまう。

 法王も新枢機卿もワーカホリックなのがよく分かった一件である。


「人が足りないからね」


 しみじみした様子で頷くサリュース。


「少しは先延ばしにすることを覚えてほしいものだ」


「目の前に処理案件が残っていると我慢できないようだよ」


 困ったものだとばかりにサリュースは肩をすくめてみせる。

 疲労回復ポーションを配ろうかと考えていたが、それを聞いてやめた。

 一時的にしのぐだけどころか、更に無茶をしかねないからな。


 この判断は間違っていなかったと思う。

 徐々に仕事のペースが落ち着いていったそうだからね。

 後日、面会することになった法王からも反省の弁を聞くことができたくらいだ。


 ちなみに国元には帰らず待たせていただきましたよ。

 帰らなきゃならないような用事はなかったし。

 ノーム法王国の面々にはバレないように密かにアシストしたりもしていたし。


 要請があったので目に見えるアシストもしたけどね。

 一番のアシストは人材輸送だろう。

 5国連合から少しずつ人を集めてもらって移動させたのだ。

 これでブラックな環境が少しは改善したと思う。


 他はこれといった要請はなかったので新人3人組の訓練を行ったりして時間を潰した。

 修行はその気になれば何処でだってできるからね。


「いやはや、遅くなって申し訳ないことです」


 ベッドの上で体を起こした法王が軽く頭を下げた。

 完全には回復し切れていないものの顔色は悪くない。

 無理をしなければ順調に回復していくだろう。

 そのあたりが微妙だから魔法で眠ってもらったんだがね。


「働き過ぎは体に毒だと痛感させられました」


「まったくですっ」


 ポーン枢機卿が鼻息を荒くしていた。

 同意はしたが自身を省みてのことではないようだ。


「陛下は1週間も眠り続けていたのですからな」


 回復にそれだけかかるというのは枢機卿のオッサンにはショックが大きかったらしい。

 しかも完全回復ではない訳だし。


 ただ、法王はそんなオッサンの様子を見て小さく嘆息していた。


「落ち着きなさい」


 静かな声でたしなめていることからも呆れているようではある。

 痛感したとは言っているものの、その言葉を額面通りに受け取らない方が良さそうだ。

 当人にしてみれば少しは反省すべきことぐらいの認識なのかもしれない。


「死んだ訳ではないのだから、そこまで興奮することでもないでしょう」


 なんて言っているくらいだし。

 そんな暖気なことを言っていると、いつか手遅れになる日が来ると思うのだが。


 今回は寸前まで行った訳だしな。

 自力で解決できる状況でもなかったのだし。


 いくら何でも危機感が足りなさすぎる。

 運が良かっただけだという自覚を持ってほしいのだが。


 気合いと根性ではどうにもならないことがあると気づく日は来るのだろうか。

 オッサン枢機卿もそのあたりをもどかしく感じているみたいだな。


「陛下、死んでからでは遅いのですぞ」


 声音は抑え気味にしてはいたものの険しい表情を隠すこともなく訴えていた。


「死ななかったじゃない」


 法王は何処吹く風といった有様だったが。


「陛下の御身に何かあってからでは遅いと言っているのです」


 オッサンは絞り出すように声を震わせながら言った。

 法王が病み上がりでなければ、きっと声を荒げていたことだろう。


 良くない傾向だ。


「だから大丈夫だったじゃない」


 法王が柳に風といった風に受け流すからね。

 煽っているんじゃないのかすらと思ったさ。

 どうやら無自覚みたいだけど。


 いずれにせよ、この調子ではオッサンがヒートアップしていくのが目に見えている。

 興奮しているのはオッサンだけなんだけど押し問答も同然の状態になりそうだ。


「──────────っ!」


 既に歯噛みするような状態になっているし。


 オッサンの怒りは爆発寸前、か?


 昔の変身ヒーローが必殺技を使う時の決め台詞じゃあるまいし。

 炸裂させるのは御法度であるのは言うまでもない。

 これはオッサンが臨界点に達する前にどうにかしないといけないだろう。


読んでくれてありがとう。

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