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1737 大したことはしていませんが?

 病み上がりの人間に面会を求められるというのは微妙なものだ。

 気分としては誰かに丸投げしたいところである。

 御指名だから無理なんだとは分かっていてもね。


「で、結局のところ体力も碌に回復していない法王が俺に何の用なんだ?」


「おいおい、本気で言ってるのかい?」


 サリュースに呆れた視線を向けられてしまった。


「私がグリューナス法王の立場でも同じ要求をしたと思うのだよ」


「そうなのか?」


 そんな風に言われると考えざるを得ない。

 単なる個人のワガママって訳でもなさそうだからね。


 病み上がりの法王がわざわざ俺を呼んでまでしたいことって何だ?


「単なる挨拶ってことはないだろうし」


 だとしたら体力が回復するのを待てと説教したい気分である。

 もちろん絶対安静が求められる相手にそんな真似はしないけどさ。


 本来なら面会するのも辞退したいところなんだが嫌な予感がするんだよな。

 余計に消耗させる結果になりそうな気がしてならないのだ。


 新枢機卿が命を張って抑え込まなきゃ仕事しようとまでしたというくらいだし。

 さすがに寝室を抜け出したりはしないと思うけど。


「何を言ってるんだか」


 サリュースには盛大に嘆息されてしまいましたよ。

 呆れた目線も濃度を増してるし。


 そんなこと言われてもなぁ。


 もう一度、病み上がりの法王に呼ばれる理由って何だろうと考え直してみる。

 こんにちはが言いたい訳じゃないのは否定されたので確定済みだ。


 自己紹介がしたい?

 それじゃあ挨拶と変わらない。


 それに、そういうのは法王の体力がもう少し回復してからの話だと思う。

 ヘロヘロの状態でそんなことを言い出すとしたら恐ろしく自己顕示欲が強い気がする。


 気合いだ根性だと叫んでいるオッサンを思い出してしまったよ。

 相手はオッサンじゃなくてアラフォーのオバさんだけど。


 いずれにせよ、そういうタイプであるなら会いたいとは思えないな。

 それが現実であるなら、このまま回れ右して撤退したいところだ。


 まあ、挨拶関連で呼び出されたのではないことは確かなようだけど。


「あれだけのことをしておいてノホホンとしていられるハルト殿が凄いのだよ」


 ただ、何故か感心されてしまった。

 言葉の上でだけどね。


 受け取る側の俺からすると決してそうは思えないところがミソだ。

 きっと皮肉なんだろう。


「えーっ!?」


 だから思わず抗議の声を上げていた。

 そんなに腹が立った訳じゃない。

 けれども「あれだけのことをしておいて」なんて言われるのは違うと思ったんだよな。


「そんな風に言われるほど大層なことはしてないぞ」


 そのあたりの認識に大きな乖離があるのだと主張したつもりだったのだが。


「……………」


 逆に「マジか?」って目を向けられてしまいましたよ。

 そして盛大に溜め息をつかれてしまう。


「やれやれ、ハルト殿は本当に無自覚なんだねえ」


 え? これ、俺の認識が間違ってるの?


「その様子だと本気で分からないんだね」


「うっ」


 事実なので否定のしようがない。

 たぶん、今しばらく考えても分からないと思う。


 ギブアップしようかと考え始めたところでサリュースが口を開いた。

 どうやら時間切れのようである。


「グリューナス法王は是非ともハルト殿に礼を言いたいそうだよ」


 真顔でサリュースにそう言われた。


「礼だって?」


 病み上がりで碌に体力のない相手にそんな要求をされても困るのだが。

 せめて自力で無理せず上半身を起こせるくらいに回復してからにしてほしいものだ。


「そうとも」


 何を当然のことを聞くのかと言わんばかりに大きく頷かれてしまった。

 どう考えても当然のことではない。


 サリュースは完全に法王に毒されているよな。


「なんでさ?」


 サリュースの依頼が発端とはいえ、法王に頼まれた訳じゃない。

 まあ、どうしようもない状況を解決するための手助けはしたけどさ。


 俺たちがやったのは、ほとんどが荒事だ。

 勝手に介入して人様の家に土足で上がり込んで暴れ回ったんだし。

 逆に文句を言われても不思議ではないと思えるのだけど。


「なんでって、おいおい……」


 呆れた視線を向けられて頭まで振られてしまいましたよ。

 サリュースにしてみれば「マジで言ってる?」という心境なのかもしれないが。


「だって面倒な連中だったとはいえゴミ掃除をしただけじゃないか」


「……………」


 俺の言葉にサリュースが、しばし考え込んでしまった。


「ゴミ掃除という意見には同意するがね」


 そこで言葉を句切ってサリュースは深々と溜め息を漏らした。


「アンデッドの軍勢を面倒な連中という程度で済ませるのはどうかと思うのだよ」


 思いっきり反論されてしまった。


「あ、そうなの?」


 色々と見せてきたつもりだから、そろそろ慣れてきたんじゃないかなとは思ったのだが。


「そうなのって……」


 サリュースが言葉を失っていた。


「今回は全力で対応した訳じゃないしなぁ」


 新人3人組のパワーレベリングに利用させてもらったくらいだし。


「おいおい、それはハルト殿たちだからなのだよ」


 思いっきり呆れを上乗せした状態で頭を振られてしまった。


「普通は国家の滅亡を考えるレベルの大事件だ」


 目力を込めて力説されると、そうなのかなと思ってしまう。

 そう考えると、礼を言いたくなる気持ちになるのは分からなくもない……のかな?

 それでも後始末の大半は向こう任せだから大袈裟だとは思うのだけど。


「それならそうとサリュースに言付けてくれりゃ充分だったのに」


 たかが礼だ。

 病み上がりの人間が無理をしてまで面会を要求するほどのことではないだろう。


 俺としては無理せず安静にしてくれる方がありがたい。

 せっかく死なずに済んだのだから寿命を縮めるような真似はしてほしくないところだ。


 そういう思いを込めて言ったつもりだったのだが。

 サリュースには苦笑いで返された。


「ハハハ、ハルト殿らしいね」


 しかしながら目は少しも笑っていない。

 ひとしきり声だけで笑ったサリュースはズイッと身を乗り出すようにして睨んできた。


「おおっ、何だ何だ?」


 あまりの迫力に仰け反らざるを得ない。


「勘弁してくれないかな」


 ドスの利いた声で言われてしまうと「何を?」と聞く前に頷いてしまうんですが?


「そんなので済まそうとしたらポーン枢機卿の覚悟が水泡に帰してしまうじゃないかっ」


「そ、そうなんだ」


 あまりの剣幕に思わず怯んでしまったさ。

 命をかけた訴えをひっくり返すなんて信じ難いんだが。

 サリュースの豹変ぶりからすると、無いとは言い切れないようだけど……


読んでくれてありがとう。

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