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1733 案内したらすることがなくなった

 法王が生きていたという情報は伝えたが、ここから先が問題だ。


「言っておくが、絶対安静だからな」


 念のために釘を刺しておいた。

 サリュースは大丈夫でも他の連中はどうにも危なっかしく感じたのでね。


 喜ぶのが悪いとは言わないんだけどさ。

 誰も彼もが興奮しすぎの状態なのだ。

 法王のいる場所に同行させれば着くなり動揺して騒ぎかねない。


 寝かせている場所が場所だからなぁ。

 リネン室は劣悪な環境ではないとは思うんだけど、とやかく言う者も出てくるだろうし。


 あの様子では法王に負担がかかることを考慮してくれるかも怪しいところだ。

 神経質でヒステリックな面子がいないことを願うばかりである。


「グリューナス法王の状態はそんなに悪いのかい?」


 サリュースが目を丸くさせていた。


「病気ではないが消耗している」


「病気じゃないのに消耗しているだって?」


 訳が分からないとばかりに困惑の表情を浮かべるサリュースだ。


「長期にわたって呪いに対抗していたみたいだからな」


「呪い……」


 そう呟いてからサリュースは苦々しい表情をのぞかせた。

 それだけでは飽き足らず──


「あの愚か者は本当に碌なことをしないな」


 憤慨しているのがよく分かる口ぶりで愚痴っていた。

 強欲な枢機卿に対する憤懣やるかたない心情は察してあまりある。

 奴がこの場にいれば、きっと殴りかかっていただろうと思わせるくらいだもんな。


 何にせよ法王が無事と分かれば案内することになるのは道理というもの。

 俺が案内するのは言わずもがなだろう。


 できれば誰かに交代してもらいたかったけどな。

 サリュースだけでなくノーム法王国の関係者も連れて行くことになったからだ。


 法王の前で騒がれる恐れがあると考えるだけで気分は憂鬱だった。


 先に言い含めておいても、どうなるかは分からない。

 やつれた法王の姿を見れば冷静さを失うことだってあり得る訳だし。

 法王の受けていた酷い仕打ちに憤慨する者たちが大勢いたことからも懸念される事態だ。


 そんな訳で法王が衰弱していることを理由に同行者を絞ることにした。

 結局、案内した先で騒ぐ者はいなかったので杞憂に終わったけれども。


 それよりも安堵して胸をなで下ろす面々ばかりで安堵した。

 法王の人柄がうかがえるというものである。


「グリューナス法王を移動させたいところだが」


 そう言いながら俺に視線を向けてくるサリュース。


「何処がいい?」


 普通に聞いたつもりだったのだが、サリュースが目を丸くさせた。


「動かしても大丈夫なのかい?」


 絶対安静と口を酸っぱくして言ってあったからその懸念はもっともだ。


「揺らさなきゃいいだけのことだ」


「そんなことが……」


 途中まで言いかけたサリュースが何かに気づいたようにハッとする。


「魔法だね」


「そゆこと」


「便利なものだ」


 苦笑いしながらも安堵の表情を見せるサリュースである。

 その後の話し合いの結果、法王の寝室に運ぶことになった。


 誰彼かまわず押しかけるような場所は問題あるからな。

 仕事は山積しているだろうが、そんなものは目覚めても当面はこなせる訳がない。


 そんな訳で必然的に実務を任せる代行者が必要になった。

 それで呼び出されたのが初老の神官長である。


「私が枢機卿ですか!?」


 切り出された話に驚きをあらわにするオッサン神官長。


「法王の代行者として任命するためだ」


 サリュースが説明するも──


「いや、しかしですな……」


 困惑の色を濃くしていた。


 そりゃそうだろう。

 本来の手続きや何かを完全に無視しているんだから。


 おまけに国をまたがった越権行為でもある。

 そのあたりは5国連合との有事における協定などがあるそうだけど。


 現状はどう考えても有事だろう。

 ノーム法王国に枢機卿が1人も残っていない状況なんだから。


 この後、説得にそれなりの時間を要したのは仕方のないことか。

 こういう奥ゆかしさがあるなら安心して任せられると思うんだけどね。


 何処かの強欲な枢機卿とは大違いである。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 初老の神官長ポーンを枢機卿に任命した後は俺たちがタッチすることは何もなかった。

 人手が足りないとサリュースたちが愚痴をこぼしながらも後始末を進めている。


 ここで手出しはもちろん口出しをするのは良くないだろう。

 何かしらの要請を受ける格好でなら話は別だとは思うが。


 今のところは、そういうことにはなっていない。

 俺たちは完全に手持ち無沙汰だった。

 そういう訳で城の中庭に着陸させた輸送機の中で待機している。


「急に暇になったなぁ」


 何処かのんびりした雰囲気を漂わせながらビルが苦笑している。


「ずっと戦い続けていましたからね」


 カエデが同意して頷いた。


「今までのどの修行よりも濃密な時間でした」


 しみじみした様子で目を閉じるカエデ。

 時間的な余裕ができたことで戦いを振り返っているのだろう。


「あそこまでの数の相手と連戦したことはありませんでしたし」


 ゾンビやグールとのバトルから思い出しているのか。

 雑魚は以下略でいいと思うんだけど。

 律儀なカエデらしいとは言えるな。


「あんなの序の口だぞ」


 ビルが言った。


「そうなのですか?」


「雑魚とはいえ桁違いの数で押し寄せられたことがあるからな」


 黄昏れた空気を醸し出しながらビルが返事をした。

 前にパワーレベリングした時のことだな。


「よく無事でしたね」


 唖然としながらカエデは絞り出すように感想を漏らした。


「当然だろう」


 呆れたように嘆息するビル。


「賢者様がお膳立てしたパワーレベリングだったんだぜ。

 安全の確保はちゃんとされてたってのは分かるだろう?」


「「あー……」」


 カエデだけではなくオセアンまでもが苦笑している。


「冷や冷やものでしたが最後まで何ともなかったですからね」


「私は後ろにいたのに生きた心地がしませんでしたよ」


 カエデやオセアンの言葉にビルが苦笑する。


「そいつはしょうがねえよ。

 あの時も今回よりマシってだけだったしな。

 心臓に悪いという意味では似たようなもんだったんだぜ」


 今度はカエデとオセアンがビルの言葉に苦笑した。

 疲れ切ったというか黄昏れた雰囲気を感じるのは気のせいではなさそうである。


「「「ハアーッ……」」」


 3人そろって諦観まじりの溜め息をついていたからな。


 そんなに肝を冷やしていたのか。

 そこは俺も反省しなければならないな。


 ただ、バフとか使うと経験値の効率が悪くなるのがネックなのだ。

 簡単には解決できそうにないのが悩みどころである。


読んでくれてありがとう。

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