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1732 忘れていた訳じゃないよ

 神の奇跡で大半の者を納得させられるなら儲けもの。

 そして納得しないのは少数派となる。


 少数派の意見は黙殺しても声が大きくなることはない。

 そういう風に算盤をはじいたのだとしたら、それは正解だ。


 少なくとも俺はそう思う。

 面倒事なんて回避するに限るからな。


 という訳で死者が蘇った件については有耶無耶になった。

 めでたしめでたしと言いたいところだけど、これで俺の仕事が終わった訳じゃない。


 肝心なのが残っている。

 これを忘れる訳にはいかないのだ。


「あー、そういや神の奇跡で思い出したんだが」


 そんな風に話を切り出すと、サリュースがギョッとした顔で俺の方を見た。


「おいおい、ハルト殿」


「悪いなぁ」


 片手で拝むように謝りながら──


「ドタバタしたせいで大事なことを言いそびれていたんだよ」


 決して忘れていた訳ではないという体で切り出してみる。

 先に思い出したと言っている時点で微妙ではあるんだけどな。


「これ以上ないくらいの事態になっているのに、まだ何かあるのかい?」


 勘弁してほしいとばかりに苦笑するサリュース。

 ただし、目はあまり笑っていない。

 冗談を言える雰囲気でないのだけは確かだ。

 言うつもりもないけどな。


「法王が生きてると言ったらどうする?」


「「「「「な、なんだってぇ────────────────────っ!?」」」」」


 サリュースが反応を見せる前に周囲にいた面子が過剰反応した。


「おいおい……」


 話を向けられたはずのサリュースがドン引きするような有様である。

 驚くタイミングを失したことだけは間違いない。


「本当にハルト殿は無茶苦茶だね」


 サリュースは呆れたように嘆息を漏らした。


「無茶苦茶ってなんだよ」


 俺は苦笑で応じる。


「だって、そうだろう。

 どう考えたって全滅状態だったのに生き返った国民が大勢いたし」


「神の奇跡です」


 祈りを捧げながらオセアンが言った。


「それはもういいわよ」


 苦笑しながらサリュースが受け流す。

 勘弁してくれと顔に書いているあたり半信半疑と見た方が良さそうだ。


 まあ、この件でサリュースが深く掘り下げてくることはないだろう。

 下手に首を突っ込めば厄介ごとが自分にも降りかかってくることになるからな。


 いまサリュースが言いたいのは、俺たちの無茶苦茶度合いについてだけだ。

 引き合いに出す話題に問題があるんじゃないかとツッコミを入れたくなったがね。

 それについては元から流すつもりではあったらしいけれど。


「その上、エメラ・グリューナス法王が生きているってどういうことかな、かな?」


 何故か語尾を繰り返された。

 それだけ強く言いたいということなんだろうか。


 よく分からないが追求の度合いが強めなのは雰囲気で分かる。

 グイグイ押し迫ってくる感じだし。


 そのせいで、まるで責任追及されているかのように感じてしまうんですがね。


「そんなことを俺に言われてもなぁ」


 困るとしか言い様がない。

 生かさず殺さずの状態にしていたのは俺じゃないんだし。


「ディグレ・モートンとかいう枢機卿がやらかしたことだろうに」


 俺は強欲な枢機卿のお友達じゃないんだぞ。

 それどころか最初から敵だった訳だしな。


「いやいや、それにしたってだね」


 サリュースにしては聞き分けがない。

 あまりにも想像の斜め上過ぎる状況について行けていないからだろうか。


「俺に説明責任があるとでも?」


 こう言えば──


「ないね……」


 さすがに納得せざるを得なかったようではあるけれど。


「あえて個人的見解を述べるとするなら」


 ここで区切ってサリュースを見る。


「ふむふむ」


 頷きながら聞く体制に入っている。

 前のめりな感じが消えたので少しは頭が冷えたのだと思いたい。

 ただ、ここで話を打ち切ると復活してきそうではあるがね。

 面倒なことである。


「支配欲にまみれたオッサンが野望の妨害をされたと被害妄想を抱いた結果じゃないか?」


 俺はそうだと確信しているが、他の者が同意するかは別問題だ。

 サリュースは俺などよりずっとノーム法王国の事情に詳しい訳だし。

 何か俺が気づいていない裏事情から別の見解を引っ張り出してくる可能性だってある。


 そんな風に考えていたのだが──


「あー……」


 さして考える間もなく納得したようだった。


 その際に見せた辟易感満載の顔はサリュースにしては珍しいと言わざるを得ない。

 いつも飄々とした感じだからな。


 そのサリュースに一瞬とはいえこんな表情をさせるとは恐るべし、強欲な枢機卿。


 まあ、もう存在すら消え失せてしまっているけどな。

 いなくなっても影響を残すという意味では存在感を残してはいるのか。

 迷惑な意味でだけど。

 こんなものは早々に忘れるに限るというものだ。


「なるほどなるほど、それはつまり生かさず殺さずだったと」


「簡単に殺したんじゃ恨みは晴れないってことなんだろうな」


「恨み?」


 サリュースが怪訝な表情を浮かべた。


「何を恨んでいたと言うんだい?」


 俺がやったことじゃないのに追求口調で問われてしまったさ。

 冤罪を被った気分だよ。


「法王はそこまでされるような仕打ちを彼奴にする訳がなかろう」


 そんなことを言われても困るんですがね。


「ノーム法王国の者とも思えぬ鬼畜の所業をするほどの恨みとは相当なのだよ」


 珍しく険のある表情を見せるサリュースだ。


「我こそが法王にふさわしいと思っていたのに、なれなかったことだろ」


「……そのことか」


 呆れたという言葉の代わりだろうか、サリュースは盛大に溜め息を漏らした。


「そこまで根に持っていたとは……」


 さすがのサリュースにも想像が及ばなかったらしい。


「完全な逆恨みではないか」


 鼻息も荒く憤慨している。


「そういう奴だったんだろう?」


 野心にまみれて自分こそが世界の中心だと妄想を抱くような輩なんだし。


「うんうん、そうだね」


 サリュースの返事も気が抜けている。

 奴のことなど考えたくもないというのが見え見えだ。


 まあ、お陰でこの話もこのあたりで脱線状態から正規のものに戻ってくれるだろう。

 強欲な枢機卿には感謝などしないがね。


「それで法王はいま何処に?」


「城内のとある場所だ。

 うちの面子を何名か付けているから心配はいらない」


「そうか」


 ホッと胸をなで下ろすサリュース。

 他の面子も同様ではあるが、今にも押し迫ってきそうな気配を感じる。


 法王が何処にいるのかと問い詰められているような気分になったさ。

 勘弁してほしいよ、まったく。


読んでくれてありがとう。

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