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1731 細々したことは知りません

「どうしてこうなった」


 それを言ったのはサリュースだった。


 まあ、地上に降り立つなり信じられない光景を見ることになったからね。

 全滅したと思われていたノーム法王国の人々が大勢出迎えたのだから。


 蘇生した面々には何も説明していない。

 自分が蘇ったという自覚はあるだろうけど、俺たちはそれを発見しただけだ。

 そういうことにしてある。


「我々にも分かりません」


 神官服を纏った初老と見られるオッサンが答えていた。

 直に問われた訳ではないのだが。

 サリュースの問いたげな様子を見て忖度したのだろう。


「いやいや、分からないってことはないんじゃないの?」


 苦笑交じりに今度こそ問いかけるサリュース。


「いえ、本当に分からないのです」


 困惑の表情を浮かべながら返事をする神官。

 服装から判断するに神官長の立場にある人物のようだ。


 ちなみに、このオッサン神官長以外で地位の高い人物は見受けられない。

 今回の事件の首謀者である強欲な枢機卿がアンデッドに仕立て上げたからだ。

 自分を王として推挙しなかった連中という認識があったのであろう。


 認識というよりは恨みつらみの類いだな。

 奴にとってはこれ以上ない復讐対象って訳だ。


 八つ裂きにしても飽き足らないほどに憎んでいたのだろう。

 真っ先に使い潰すつもりでアンデッドにしたのは想像に難くない。


 ねちっこい性格をしていたからなぁ。

 2段変身までしたくらいだし。

 完全消滅させなきゃ何度でも復活してきそうで寒気を覚えるよ。


「ええ~っ」


 サリュースにしては珍しく困り顔になっている。

 普段の余裕は何処に行った。

 それだけ動揺しているということなのだとは思うけど、立て直す余裕もないとはね。


 今回は、そんなにやらかしたつもりはなかったんだけどな。

 現場の中継映像を見せた訳じゃないし。

 危険は排除したから後を任せるつもりで呼び寄せただけなのだ。


 蘇生魔法だって見せなかったし。

 蘇生魔法のことは大っぴらにする訳にもいかないからな。


 仮に公表しても誰も信じないとは思うが。

 与太話扱いされるのがオチである。


 それならば最初から何も言わずに不思議なことが起こったで終わらせた方がマシだ。

 現場にいた者でさえ訳が分からないということにしておけば逃げ道はできるからな。


 下手に知っていますよとアピールすれば追求されるだけである。

 素知らぬふりが最適解と言えるだろう。


 とにかく、全滅しているという認識が覆されたらこうなるというのは理解した。

 死んでいるはずが死んでいなかったというのは俺が考える以上に衝撃的なのかもな。


「悪夢のような地獄の光景を見せつけられて死んでいったと思ったのですが……」


 神官長もサリュースに負けず劣らずの困り顔で語っている。


「気がつけば、ひとつ所に集められて寝かされていました」


 そう言って困り顔のまま首をかしげる神官長。


「ひょっとして本当に悪い夢を見ていたのかとすら思った程です」


 最終的には考えることを放棄したらしく無表情になっていた。


「いやいや、そんなことを言われてもねえ」


 何とか詳細を知りたいとばかりに話を続けようとするサリュースであったが。


「無理ですね」


 神官長はにべも無く返事をするだけで、それ以上の言葉は聞けなかった。

 2回目の「ええ~っ」を吐き出したサリュースが俺の方を見てくる。

 何とかしてほしい感にあふれた空気をバリバリに纏った困り顔を見せられてもな。


「俺たちは粗大ゴミを始末しただけだぞ」


 こちらとしては「知らんがな」の態度を貫くのみである。

 何がどうなったかは当事者なんだから知ってて当然だけど言う訳にはいかないからね。


「ええ~っ」


 その台詞、これで3回目だ。

 しかも続けざまだし……


「後始末は俺たちの領分じゃないだろう」


 とにかく、しらを切る。


「それはそうなんだけどね」


 4回目はさすがに出てこなかったが、サリュースの顔を見る限りは言っているも同然だ。


「まあ、結果オーライだと思って気にしないのが正解だと思うぞ」


「おいおい、気軽に言ってくれるじゃないか」


「そうだな」


 だって他人事だものという言葉は飲み込んでおいた。


「そこさえスルーしておけば何も困ることはないと俺は思うんだが?」


「いやいや、そうはいかないだろう。

 それで納得しない者も少なくないはずなんだ」


 あー、面倒くさい。

 救いはサリュースは俺の提案に乗るつもりがあるように見受けられるところか。


「そう言われてもな。

 ここで押し問答して解決する問題じゃないと思うぞ」


 細かな話をする段階じゃないだろうにと思うのだが。

 仮にそんな段階になっても俺たちは知らぬ存ぜぬで通すまでだ。


「うっ、それは確かに……」


 サリュースも納得せざるを得なかった。

 その表情はどう見ても納得しているようには見えなかったけどな。


 それを見かねたというのはあるのだろう。

 オセアンが何か目論んだらしく、一計を案じたと言わんばかりの表情を見せた。

 できれば事前に報告してもらいたいところなんだけど……


 とはいえ、メールとかも満足に使えない今のオセアンでは口頭でしか報告手段がない。

 つまり事前の打ち合わせやすり合わせは不可能って訳だ。


 一瞬、余計な真似をしないようアイコンタクトで制するかと思ったがやめておいた。

 サリュースに見とがめられると、そこから追求が始まりそうだしな。

 そんな真似をするくらいなら様子見にとどめておく方がマシというものだ。


「神の奇跡が起きたのです」


 天に祈りを捧げるようにオセアンが言った。

 【千両役者】スキル持ちの俺にはギリギリ許容できるか程度の芝居くささが漂っている。

 言い換えるなら大根役者から脱せるかどうかの微妙なライン。


 思わず「は?」とか「え?」とかの声が漏れ出そうになったさ。

 胡散臭さが、そこはかとなく漂っていたからな。


 それでも元神殿所属の神官というネームバリューは絶大だったようだ。

 多くの者たちが感嘆の溜め息を漏らしていた。


 俺としては、それに対しても「えーっ」と言いたくなってしまった光景である。

 サリュースはツッコミを入れたそうな懐疑的な目を向けていたけどな。


 さすがに鋭い。

 それでも何も言わないのはツッコミを入れても何の得にもならないと気付いたからか。

 むしろ損になると判断したのだろう。


 この状況を利用できなくなるリスクは大きいもんな。

 周囲から詳細な説明を求められることもなくなるチャンスをふいにするのだから。


読んでくれてありがとう。

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