1728 戦いが終わっても後始末があります
赤リッチはやはり迷惑な存在だ。
いや、不死王の錫杖がと言うべきなのか。
赤リッチを制御する手法に問題を抱えているからな。
とはいえ御する相手が赤リッチだからこそ、こうなっているとも言える訳で。
この組み合わせだからこそ迷惑さが際だった粗大ゴミになっていると言えそうだ。
だが、そこにつけ込む隙がある。
そういう意味では新人3人組にとって歓迎すべきことだろう。
赤リッチが感情を高ぶらせるほど不死王の錫杖は奴を制御しきれなくなるからな。
その結果、攻撃された相手へタゲを変えながら怒りのままに腕を振るうのみとなる。
動きも攻撃も読みやすいことこの上なくなる訳だ。
大振りの攻撃ばかりで隙が多くなるというのもある。
当たれば大木ですら真っ二つになる威力があるのは脅威だがね。
その分モーションが大きいから今のカエデたちなら回避することも不可能ではない。
長く攻撃を回避し続ければ緊張感を維持しきれずにミスすることもあるかもしれないが。
この問題も赤リッチの暴走状態が解決してくれる。
背後から攻撃するだけでタゲを変更してくれるからだ。
タゲられた方は自分に引きつけるだけでいい。
回避すれば勝手にヘイトを溜めてくれるからな。
そうすればするほど頭に血が上った状態になるから警戒がおろそかになる。
まあ、奴に血が通っている訳ではないのだけど。
とにかく牽制するようなそぶりも見せないから大ダメージを受けてしまう。
どう考えても奴にとっては悪循環だ。
自滅を望んでいるのかとさえ思ってしまうほどである。
そう見せかけて次の罠を用意しているんじゃないかとも考えたけど。
今のところは、そういう気配が見られない。
それでもカエデたちは油断せずに動いていた。
背後から攻撃するにしても工夫がうかがえる。
真後ろからではなく斜めから踏み込んだり。
あえて低い姿勢で下から攻撃してみたり。
見られていることを想定してか、フェイントを入れた動きをしてみせたり。
このあたりはベテラン冒険者だけあって油断はしないって訳だ。
そうしてタゲでキャッチボールをするように赤リッチを翻弄していく。
赤リッチにできることは振り向いてタゲを変えることくらいか。
そこから先の反撃にまで手が回らない状態だ。
それと切り刻まれるたびに体を再生させていた。
意味のある行動はそれくらいだろう。
他は苛立つかダメージを受けるかして耳障りな声で吠えることしかできていない。
負のスパイラルに陥っているのは間違いなかった。
冷静な状態であれば強引に離脱してでも仕切り直しを図れたとは思う。
だが、奴はヘイトを溜めまくった状態で完全にキレてしまっている。
この状態から抜け出すことはできないだろう。
振り返るたびにHPが削られていくばかりだ。
どうにか再生しているが故に体の形を保っていられるほど切り刻まれていた。
だが、再生にも限度がある。
ついには追いつかなくなっていき、そこからは更にHPの削れ方が激しくなっていった。
再生で補っていた分が無くなったのだから当然だ。
ハメ技に等しいと言える見事なまでの格上狩りであった。
そして最後の瞬間が訪れる。
「ハアッ!」
裂帛の気合いとともにカエデの斬撃が繰り出され。
ズバッ!
これがトドメとなった。
「────────────────────ッ!!」
断末魔の悲鳴は声になっていなかった。
HPゲージがゼロになった時点でボロボロと赤リッチの体が崩れ去っていったからだ。
カシャーン
無駄に豪奢な錫杖が床に落ちた。
こうして特に誰かがミスをすることもなく決着がついた。
手足を切り落とされた赤リッチが攻撃手段を失ってからはタコ殴りにされていたほどだ。
再生など許さぬとカエデとビルが一気呵成に切り込んでいたからな。
ここぞというタイミングを見逃さない眼力はポイントが高い。
満点の出来と言えるだろう。
「はい、御苦労様~」
そう声をかけると緊張が一気にほぐれたのか、オセアンがその場にへたり込んだ。
カエデやビルまでオセアンのような状態になるなら問題があるが、そうはならなかった。
どちらも残心したまま不死王の錫杖から視線をそらさない。
このあたりは戦闘経験の差と言える。
オセアンが戦闘終了と知ってへたり込むのは無理からぬところだ。
元々戦闘要員じゃなかった訳だし。
終わっても油断するなというのは酷というもの。
そういうのは学校で追々学んでいってくれればいい。
入学前からハードなことをさせてしまったのは些か申し訳ないと思うくらいである。
無駄な経験にはならないはずなので良しとしてもらいたいところだ。
「あとは俺がやるからカエデもビルも下がれ」
俺がそう言いながら前に出ると……
「へーいよ」
「はい」
2人も素直に引き下がってくれた。
「さて」
ここからはしばらく俺の出番が続くことになる。
まずは理力魔法を使って錫杖をガッチリ固定だ。
同時に浄化魔法を付与させた結界で覆ってしまう。
これで不死王の錫杖も妙な真似はできないはず。
「そこからのぉ……」
ラーヴァフロウ光式を使った。
聖炎の効果を付与させたラーヴァフロウである。
悪しき思念に塗れた汚物は聖なる炎で消毒だ! ってね。
分解魔法でもチリも残さず処理できたんだけど念のためだ。
悪しきものではあるけどアンデッドではなく器物だからベリアルは使えないしな。
溶岩弾に錫杖が包まれるが、それだけで即破壊とはいかない。
さすがは古代の粗大ゴミである。
最初は不死王の錫杖も抵抗しようとしていた。
理力魔法にブルブルと伝わってくる手応えがあったからな。
まあ、微動だにさせなかったけどね。
あとはひたすら耐えようとしていたけど無駄の極みというものである。
じきにビキバキとヒビが入って表面が崩れ始めたし。
崩壊が始まれば後はあっという間だ。
ヒビから漏れ出す瘴気は瞬時に浄化されていく。
それを見ていたオセアンが唖然としていた。
「なんという禍々しさか」
不死王の錫杖に内包されていた瘴気の濃密さに圧倒されたようだ。
そして取り憑かれたように見入ってしまう。
「なんという圧倒的な浄化力」
とか呟いているので闇落ちした訳ではない。
そんな風に言われると背中がむず痒いんだがスルーだ。
本人だって聞かれたとは思っていないだろうしな。
その間も不死王の錫杖の崩壊は止まらない。
最初にできたヒビは更に大きくなり新たに追加されていく。
先端あたりでは形を維持できなくなっていた。
読んでくれてありがとう。




