174 ちょっとしたプレゼント
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
「ボルト、ちょっと槍を貸してくれ」
「どうぞ」
ダンジョンの深層にまで来ているこの状況で躊躇わず自身の相棒を預けてくれるか。
ならば、その信頼に応えないとな。
短槍の具合を確かめていく。
手入れが行き届いているのはすぐに分かった。
「大事にしているな」
「はい」
話をしながら内部に術式を刻み込んでいく。
まずは持ち主以外が魔力を注ぎ込んでも術式が起動しないように。
使い込まれているから本人の血を垂らしたりなどは不要だ。
続いて構造強化。
とはいっても本人の魔力を必要としない程度で抑えるから扱いが悪いと破損は免れない。
言ってみればオマケのようなものだ。
次は使用者の魔力を必要とする本命だ。
威力強化の術式を刻み込む。
単純に攻撃力を上げるのでは強くなりたいと欲しているボルトを鍛えることにはならないだろう。
魔力を誘導して流し込みやすくすることで魔力操作を覚えやすくする。
反面、流れ込む魔力は微々たるものなので威力アップもそれに応じたものだ。
アンデッドに対抗はできるけれど雑魚でも倒すのにそこそこ手数が必要になるくらい。
入門用といったところだが入り口にすら辿り着いていない今のボルトには丁度いい。
慣れてきたら威力アップを狙って魔力の流入量を増やそうとするだろうけど、そこは負荷がかかって流れが悪くなるようにしておく。
これも修行になるはずだ。
ただ、燃費が悪くなるので多少の疲労軽減と回復効果も付けておこう。
ついでに修復の術式もな。
あとは石突きを重く頑丈にしてから槍のバランスを調整する。
「これで良しっ」
魔槍の完成だ。
「アンデッドに対抗できるよう弄らせてもらった」
「え?」
ボルトが呆気にとられている。
石突き以外の見た目は変わっていないから無理もないか。
「具合を確かめてみてくれ。バランスとか悪いなら調整する」
そう言いながら返却するのだがボルトは困惑するばかりだ。
「バカ者、何をしておるか。早うせい」
「もっ、申し訳ありません」
ガンフォールに叱責されてようやく我に返ったボルトは少し離れた場所で生まれ変わった愛用の槍を振るい始めた。
ヒュン
最初に軽く振った時点でボルトの表情が変わった。
魔力を吸われたからかバランスが変わったからか。
あるいは両方か。
いずれにせよ確かめるような所作で突き、そして払う。
「これは……」
更に型を一通り披露してからボルトが戻ってきた。
「ダメか?」
問いかけると困ったような顔をされてしまった。
「なんだか掌がムズムズするんですが」
「ああ、わずかだが魔力を吸ってるからな」
そう言うと目を丸くされてしまった。
「おいおい、魔槍に仕立て直したってことか」
ハマーが横から割り込んでくる。
「入門用だよ。持ち主の魔力しか吸わんし」
「それにしたってなぁ」
「ここから先は普通の槍だと自衛手段が無いに等しいぞ」
このフロアは月影の面々が掃除をしたせいかアンデッドも多くはないけど。
「そういうことか」
「本気で威力を上げたいなら自分の意志で魔力を流し込まないとダメなようにしてある」
加えて槍の仕様を説明しておく。
「という訳で強くなりたいなら、この魔槍を使いこなせるようになることだ」
そう言われると俄然やる気が出るらしく気合いの入ったいい表情をしていた。
「はい!」
強くなるための道筋が見えただけでも違ってくるようだ。
「あの、調整お願いしてもいいですか」
「やはりバランスが悪くなってるか」
「いえ、そうではなくて」
「ん?」
話を聞いてみると元々のバランスに疑問を持っていたようだ。
そこから数度の調整でボルトの槍を仕上げた。
「ありがとうございました」
ボルトが頭を下げた時、シヅカが動いた。
「主よ、誰か近づいてくるぞ」
注意を促す程度の感覚らしく警戒はしていない。
相手の力量も把握しているからだろう。
「ですね」
ハリーも反応しているが緊張の色はなかった。
「これは身内でしょう」
その言葉に臨戦態勢を取ろうとしていたジェダイト組が脱力した。
ツバキが反応していなかった時点で気付いて欲しかったが、それは贅沢というものかな。
「なんじゃ、そうなのか?」
シヅカは感知力は高いが月影の面々とは面識がないから注意を促すのもしょうがない。
「ああ」
そして8人分の気配がドアの前まで来た。
向こうも俺たちのことに気付いている様子だ。
それでも注意深く観察しつつ罠の有無もちゃんと確認しているな。
そしてドアが開いてスルリと流れるような所作で入り込んできたのは……
「ハル兄」
桃色ツインテなノエルだ。
「よう、頑張ってるな」
「ん」
たたたと駆け寄ってきて抱きついてくる。
こういうところは、まだまだ子供だ。
それを見たメリーとリリーの双子が羨ましそうにしているけど、君らは年齢的に微妙なので我慢なさい。
「ハルトはん、様子見に来てくれたんかいな」
狐の尻尾を犬のようにブンブン振ってアニスが喜んでいる。
こんなキャラだったっけ?
まあ、喜んでくれているみたいだから気にしないことにしようか。
「んー、それもあるかな」
「なんか用事でもあるん?」
「剣と小物を作ったんで渡しておこうと思ってな」
ズザーッと正座の姿勢で滑り込むように飛び込んでくる一同。
「ほう」
理力魔法で滑り具合を調整するとは芸が細かい。
魔法の緻密な制御も上手くなったものだ。
これなら近いうちに高速の空間戦闘もできるようになるかもな。
ていうか、ルーリアまで同じノリだったのは驚きだ。
月影のメンバーとして馴染んできているようで何よりである。
「その前に紹介しておかないとな」
シヅカの方を見ると、今か今かと身を乗り出すようにして待ち構えている。
『ハマーとかボルトには教えてないことあるんだから気を付けろよ』
『心得ておる』
調子に乗って龍の化身であるとか言い出したらシャレにならんから釘を刺しておかないと怖い。
ジェダイト組はガンフォールしか知らんからなぁ。
「新たに国民となったシヅカだ」
「主の求めにより馳せ参じたシヅカじゃ。今後ともよしなに頼むぞ」
そこにノエルが俺から離れシヅカに近づく。
「ノエル・ウィンストン。よろしく」
そう言って右手を差し出す。
「おお、こういうときにも握手するのじゃな」
特に戸惑う様子も見せずにシヅカは満面の笑みでノエルの手を取り握手を交わした。
こっちの世界の常識を一通り召喚時に渡しておいて正解だった。
それにしてもシヅカは見えない犬尻尾がフルスロットルで振られているかのように御機嫌だ。
封印されていた間のストレスの反動かもな。
俺なんかとはぼっちの年季が違うし。
とにかくフレンドリーなシヅカのお陰で互いの自己紹介は無事に終わった。
続いて全員にケータイを渡す。
「ふーん、これで離れた場所にいる相手と会話ができるねぇ」
レイナがケータイを手に矯めつ眇めつしながら首を捻っている。
「そんな発想、どこから出てくるんや」
「ハルトさんですからねー」
何か酷い言われ様をされているように思えてならないんだが、まあいい。
「人前では使うなよ」
皆の了解を確認してマニュアルを配った。
「使い方はここに書いてあるからな」
言うが早いかパラパラと数度めくって倉庫に仕舞っている。
速読したな。
スキルなしでもレベル3桁だと基礎能力が常人の比じゃないから練習すればできてしまうのだ。
「じゃあ次は刀だけど、使いにくかったら無理して使うなよ」
倉庫から引っ張り出して手渡していく。
一応はそれぞれに合わせて調整したからな。
皆が渡された刀の具合を確かめているとガンフォールが興味を持った。
「変わった剣じゃな」
「剣じゃない。ミズホ刀だ」
「む? 片刃なのか」
「そうだよ」
新しいのを倉庫から引っ張り出してガンフォールに手渡した。
「ほう」
しげしげと眺めて彫像のようにピクリとも動かない。
何かスイッチ入ってしまったかと思ってハマーの方を見ると、こちらも固まっている。
ボルトに目線を移すと頭を振られてしまった。
「マニアめ」
これは、しばらく戻って来ないかもしれないな。
読んでくれてありがとう。




