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1719 ビルの狙いは

 ビルが後先を考えない一撃を赤リッチに見舞った。


 が、それでトドメを刺せるほど甘い相手ではない。

 そのために鋭い反撃を返され不格好に床を転がることでどうにか逃れたビル。

 通常なら追撃を受けていたことだろう。


 そうならなかったのは、ひとえにカエデが割って入ったからに過ぎない。

 故にカエデがビルのピンチを救ったと言っていいだろう。


「無茶をしないでくださいっ」


 そしてビルに抗議している。


「悪い、悪い」


 片手で拝むようなジェスチャーまじりに謝るビルだ。

 ノリが軽いせいで少しも悪びれたり罪悪感を感じているようには見えないんですがね。

 テヘペロを知っていれば、迷いなくそうしていたかもしれない。


「ここまでダメージが入れられるとは思わなくて踏み込みすぎたんだ」


 ライトブレードを弾かれれば反動が生じる。

 振り下ろしきれなければ、それがブレーキになる。

 そう考えての全力攻撃だったみたいだな。


 しかしながら結果はそのいずれでもなかったのだ。


「まったく……」


 ビルの言い訳にカエデは短く愚痴りながら嘆息を漏らした。

 それだけでは飽き足らず不満そうな顔をしてさえいる。


「へへへ」


 やっちまったなぁとでも言っているかのような顔でヘラヘラされればね。

 カエデでなくともイラッとしただろう。


 あれで平然としていられるのは相当な鈍感である。

 誰だって、ひとこと言わずにはいられまい。


 とはいうものの、カエデからはそれ以上の愚痴や文句を聞くことができなかったが。

 赤リッチがそうさせてはくれなかったのだ。


「シャ────────ッ!」


 ビュッ!


 赤リッチが振り返り様に横一線の手刀を走らせる。

 ビルに変わったタゲが再びカエデに戻っていた。

 その怒りは残したままどころか上積みされた状態でな。


 怒りのままに追撃をしようとしたら邪魔をされた訳だし無理からぬことだろう。


「ふっ!」


 カエデはライトブレードの双剣を交差させるように振るいながら大きく飛び退いた。

 それでどうにか回避に成功する。

 剣の振るったことで牽制になったからだ。


 元よりカエデはそのつもりだったようだがね。

 単なるバックステップでは赤リッチに懐へ入られると危惧したのだろう。


 その読みは正しいと言えるのだが、それで赤リッチの攻撃が終わるものでもない。

 タゲられた状態は変わらぬままなのだ。


 奴にしてみれば、単発の攻撃を確実に外したにすぎない。

 間合いに踏み込んだ瞬間に連撃の中へ誘い込まれぬようタイミングを外しただけである。


「キシャ───ッ!」


 故に一瞬で間合いを詰めてきた。


 シュッ!


 手刀を繰り出したのとは反対の手による斜めからの振り下ろしがカエデに迫る。


「くっ!」


 カエデが短く呻いた。


 回避し損ねた訳ではない。

 回避する前に攻撃を受けた訳でもない。


 そもそも回避する意味はないのだ。

 それでもカエデが回避しようとするのは防御結界のことを失念しているからである。


 赤リッチの攻撃がそれだけ苛烈なものだからというのはあるのだろうが。

 だからこそ、何気ない単発の振り下ろしにカエデは呻いたのだ。

 その次が見えてしまったが故に。


 振り下ろしによって体が捻られることで同時に次の攻撃の引き手になっている。

 まるで、牽制とはこうするのだと言わんばかりであった。


「シャ────────ッ!」


 ズババババババババババババババババババッ!


 激しく吹き荒れる突きの嵐にカエデは身構えるしかなかった。


「シャ─────────────ッ!」


 ズバババババババババババババババババババババババッ!


 足を使うこともままならぬ状態で防御に徹するカエデ。

 赤リッチとのスピードに差がありすぎたせいだ。

 下手にすべてを躱そうとすれば、回避しきれずまともに攻撃を受けただろう。


 故にカエデは激しい連続突きをガードを交えて最小限の動きで回避していく。

 完全に防御結界のことを失念してしまっているが、それはそれで構わない。


「シャ───────────────────────ッ!」


 ズババババババババババババババババババババババババババババババババババッ!


「───────────────────────────────────っ!」


 ガッ、ギンッ、ガッ、ギギギンッ、ガキッ、ギギッ、ギンッ、ギギンッ、ガガッ!


 弾いては躱しを繰り返すカエデ。

 懸命に耐えているといった具合ではあるがね。


 だが、そこに意味がある。

 結界のことを忘れて必死に守っているからこそ得られるものがあるからだ。


 格上と戦うなど滅多に経験できることではない。

 今、カエデは守備ボーナスを得ている最中だと言っていいだろう。


 しかしながら、それも限界が近づきつつあった。

 赤リッチを相手にこの防御を続けるには相応の力が必要とされるからだ。


 受け流すにしても弾くにしても受ける衝撃は並大抵のものではない訳で。

 それは無酸素運動を続けることに他ならない。


 カエデも合間を見て短く息継ぎを繰り返してはいるが、限度というものがあった。


「あんまり悠長にしていると各個撃破されてしまうぞ」


 俺はビルに注意を呼びかけた。

 じりじりとすり足で赤リッチに近づいてはいたものの攻撃する気配はなかったからな。


 ただ、怖じ気づいたのとは雰囲気が違っていたのでスルーしていたのだ。

 どうやらビルもカエデが得がたい経験を積んでいることに気づいていたらしい。


「のようだな」


 短く嘆息したビルがすり足を止めた。


「ふっ!」


 短く鋭く息を吐き出しながら一気に間合いを詰める。

 そして、やたら低い姿勢で踏み込むと──


「しっ!」


 居合い切りのように横一線での切り払いを赤リッチに対して見舞う。


 ザシュッ!


 それは赤リッチの膝裏を綺麗に切り裂く一撃となった。


「ギシャ────────ッ!」


 悲鳴を上げる赤リッチ。

 やはり痛みがあるのかと思わせる声であった。

 闇属性だから光属性の攻撃に弱いとかあるのだろう。


 調べれば分かりそうだが、そこまでアンデッドに詳しくなりたい訳でもない。

 弱点だというなら今は調べるより利用するまでだ。


 と思ったのだが……


 ドスン


「やったぜっ!」


 それ以上にビルが大きなチャンスを作り出していた。

 今の膝裏への攻撃で赤リッチが大きくバランスを崩して尻餅をついたのだ。


 あれは明らかに狙ってのことだろうな。

 先ほどの後先を考えない全力攻撃で仕留めきれなかったことが念頭にあったと思われる。


読んでくれてありがとう。

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