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1716 次はカエデの番です

 ミズホ刀に浄化の輝きが灯った。


 が、ビルは打ち込まない。

 野生を体現したような赤リッチの構えに何かを感じ取ったのだろう。

 険しい表情で赤リッチと対峙するのみである。


 いや、わずかに動いた。

 じりじりとすり足で開脚していく。


 明らかに前に出るつもりがない状態をすぎても、まだ脚を開く。

 そうしてビルはどっしりとした構えを見せた。

 待ちの体勢に入ろうというのだろう。


 が、守りに入ったのとは少し違う。

 今にも飛びかからんばかりにピリピリとした空気を纏っているからな。


 これはカウンターに持ち込むつもりだろう。

 自分から赤リッチに斬りかかっても躱されるだけだと直感したか。


 それは決して間違いではない。

 赤リッチの基本スペックはビルたちからすれば格段に上昇しているからね。

 故にビルはギリギリまで引きつけようというのだろう。


「……………………………………………………………………………………………」


 ビルが赤リッチと睨み合いを続けていた。

 これはもう直感だけではない。

 闇雲に攻撃してもスピードが違いすぎて当てるのは困難と判断した結果だろうな。


 相打ち上等のカウンターを狙っているっぽい。

 悲壮感はないところを見ると、ここに来て俺の結界を信頼してくれるようになったか。


 ちょっと嬉しくなった。

 とはいえ、ここでニヤついた顔を見せる訳にはいかない。


 デレたとか言われたくないからな。

 躊躇うことなく【千両役者】スキルのお世話になりましたよ。


 とにかく、睨み合いが続くなら好都合である。

 その間にカエデに武器を渡してしまうとしよう。


 俺は二振りの剣の柄を引っ張り出した。

 手違いで作りかけのものを出した訳ではない。

 これがカエデに貸与する武器だ。


「ほら、これを使え」


 カエデに向けてそれを突き出す。


「これは?」


 怪訝な表情で剣の柄と俺を交互に見てくるカエデ。

 そりゃそうだろうなぁ。

 剣の柄だけを渡されても、ふざけているようにしか見えないだろうし。


「ライトブレードという魔法の武器だ」


「えっ、これが武器!?」


「手にして魔力を流せば光剣が形成される」


「光剣ですか?」


 耳慣れない言葉に小首をかしげるカエデ。


「光属性の魔法で剣の形を作り上げるんだよ」


「なんとっ!?」


「驚いてないで使ってみろ」


「はっ、はいっ」


 双剣を鞘に収めてカエデはライトブレードを受け取った。

 新たな武器へ念を込めるように見つめたカエデは直後にシーン流の構えをとった。

 そして魔力を流し込み始める。


 ジャカッ


「っ!」


 柄の先から棒状の突起が飛び出したことにカエデは一瞬だがビクリと身を固くさせた。

 そのことで流し込んでいた魔力供給が止まる。


 だが、ライトブレードの動きは止まらなかった。

 燃費効率が良くなるように作ってあるからな。

 少し魔力を流すだけで完全に起動するようにできているのだ。


 カエデが最初に流し込んだ分の魔力だけで飛び出した突起は動き続けた。

 まずは縦に割れる。

 その開かれた状態から形状を微妙に変えつつ柄の部分を軸にして展開していく。

 そうして十文字状になって剣のツバを形成した。


「これはっ」


 カエデが呻くように驚きの声を上げるが、そこで終わっては武器にはならない。

 再び柄の先に変化があった。

 今度は光剣が展開していく。


 ブォン


 空気を震わせる音とともに小太刀サイズの光剣が形成された。

 小太刀サイズになったのは事前に調整しておいたからだ。

 カエデが使いやすいようにな。


「これが光剣……」


 カエデがまじまじと見つめている。

 見惚れるところまでは行っていないが、結果だけで言えば似たようなものだ。


「感心するより先にすることがあるだろう」


 俺は親指で赤リッチを指し示した。


「あっ!」


 指摘されて初めて思い出すというのは重症だ。

 それだけライトブレードを気に入ったというのはあるかもしれないがね。


 まあ、軽く調整しただけはあるようだ。

 渡す直前にチョチョイとイジっただけなので形状と重心の変更だけなんだけど。

 小太刀サイズにしたのは先に説明したとおりである。


 他にもカエデの手に合わせた調整をしておいた。

 握った時と振るう時の違和感を少しでもなくすためにね。


 光剣を展開する前と後では重心配分が変化するのだが、それには気づいただろうか。

 そこまでは俺にも分からないことだし確認しようとも思わない。

 注意したはずの者が直後に引き留めてはダブスタもいいところだし。


 何にせよ俺の指摘を受けたカエデはすぐに表情を引き締めた。

 そのまま躊躇う様子も見せずに赤リッチの背後へ回り込む。

 格上が相手であるということを失念していなかったようだな。


 慌ててバカ正直に突っ込んでいれば、赤リッチに気づかれていた恐れがある。

 少しでもその目を潰すべく絶対的な死角へ回り込んだのは、さすがと言えよう。

 修行の旅を続けていたのは伊達ではないということだ。


 間を置くことなくカエデは小太刀の間合いへ踏み込んでいく。

 そして赤リッチへ向けて双剣を振るい斬りかかった。


 ザグッザッ


「っ!」


 赤リッチの背中を切り裂いたカエデは目を見張った。

 思った以上に光剣が食い込んだからだろう。

 ライトブレードに持ち替える前の攻撃はまるで通じなかったのだし。


 が、すぐに我に返っていた。

 カエデはその場には留まらずにバックステップで離脱する。


「ギシャ───────────────ッ!」


 赤リッチが怒気をにじませた咆哮を上げた。

 痛みを感じたようにも聞こえたが、これは錯覚だろう。

 相手は痛覚など喪失しているはずのアンデッドだ。


 何にせよダメージを受けた赤リッチが怒っているのだけは確かである。

 タゲは確実に変わった。

 奴の軸足を見れば、それは明らかだ。


 来るぞ!


 ブォッ


 赤リッチがすさまじい勢いで振り返ってきた。

 と同時に水平に手刀を繰り出している。


 その指先は鋭く尖っているため単なるチョップとは訳が違う。

 普通であれば、かすめただけでも致命的な斬撃のダメージを負うことになるだろう。


 生憎とカエデは間合いから飛び退った後であったが。

 まあ、それ以前に防御結界があるから当たっても切られることはなかっただろうけどな。


 カエデも分かっていたはずだが、半ば本能的に体が動いてしまったようだ。

 体に染みつかせた技術は伊達ではないね。


 結論から言うとカエデの行動は正解だったと言える。

 というのも、この後にビルへ武器の貸与をするからだ。

 距離を取ってくれた方が慌ただしくならなくていい。


読んでくれてありがとう。

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