1714 赤い色は強さの象徴なのか
「しかし、旦那よ」
一旦は納得したはずのツバキが表情を渋くさせながら呼びかけてきた。
「ん、どうした?」
「それでもアレには勝てぬのではないか?」
ツバキが疑問を呈してきた。
「そうか? 赤リッチに突破できる結界ではないぞ」
「いくら防御がしっかりしておっても、それだけではどうにもならんだろう」
「攻撃力ぶそくー」
マリカが補足している。
「確かにの」
皮肉げに唇をゆがめて同意するシヅカ。
「主よ、どうするつもりじゃ?」
「どうするつもりと言われてもなぁ」
新人3人組がやる気を見せている以上は特別なことをするつもりはなかったのだが。
俺が攻撃に参加すると3人に入るはずの経験値を削ってしまうことになるし。
それは俺ではなく古参組であっても同じことだ。
そうならないように手助けするとなると間接的な支援をするくらいしかないだろう。
「武器の貸与とバフをかけるくらいはしますかね」
前者はともかく後者は、やはり経験値が流れ込んできてしまうのだが。
直接の攻撃参加よりはずっとマシではある。
「それが妥当なところじゃろうな」
ドゴッ!
ドガッ!
よそ見をして話を続けている間にビルとカエデが壁方向に飛ばされていた。
体をくの字に折り曲げて飛ばされたところを見ると、腹部に蹴りを入れられたようだ。
そのまま結構な勢いで壁面に激突する。
が、2人は崩れ落ちることなくすぐに立ち上がった。
「痛くねえ……」
「本当ですね……」
ビルもカエデも唖然とした面持ちで驚いている。
無理もない。
派手に飛ばされて壁に激突しておきながらノーダメージなんだからな。
「当然じゃ、主の施した防御結界じゃぞ。
そう簡単に怪我をする訳がなかろう」
ドヤ顔でシヅカは言っているけど、今さっきまで失念していたよね。
「これならっ!」
「自分たちでも戦えます!」
2人が突っ込んでいくが……
ガギン!
「なっ!?」
「堅いっ!」
今までとはまったく異なる手応えにビルもカエデも驚愕する。
「浄化が届きません」
オセアンも手応えのなさに呆然とした面持ちとなっていた。
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「キシャ─────ッ!」
赤リッチが纏わり付くなと言わんばかりに吠えた。
同時にバネのように勢いよく体を仰け反らせる。
その直後に衝撃波が発生していた。
あの咆哮は闇魔法の詠唱でもあったようだ。
「「うわっ!」」
前衛の2人が吹っ飛ばされる。
今度は蹴り飛ばされた時とは違って間合いの外に出される程度ではあったのだが。
「「……………」」
2人とも動けなくなってしまったようだ。
衝撃波によってダメージが入った訳ではない。
赤リッチへの攻撃がまるで効かなかったことがショックだったというところか。
それは2人の表情を見ればよく分かった。
先ほどの意気込みは何処へやら、だな。
逆にオセアンがやる気をみなぎらせている。
「お二方っ」
ビルとカエデに強く呼びかける。
「剣に浄化を乗せます!」
バラバラに攻撃するのではなく掛け合わせればあるいは通じるかもしれない。
そういう意図なのだろう。
それは細々と語らずとも前衛の2人にも伝わったようだ。
オセアンの提案を受けてハッとした表情を浮かべていたからな。
「そうかっ、頼む」
「心得ました」
返事をした2人の表情が引き締まったものに戻っていた。
「行きますっ!」
詠唱を開始するオセアン。
「キシャ───────────────ッ!」
鬱陶しいと言わんばかりになぎ払う動作を見せながら赤リッチは吠えた。
「主よ、来るぞ」
シヅカが注意を促してきた。
「分かっている」
ドッ!
赤リッチがタックルの構えを見せて突進する。
オセアンの表情が険しさを増した。
自分が狙われたことに気づいたか。
見えている証拠だな。
それでも呪文の詠唱は止めない。
ガン!
突如として赤リッチが突進を止められた。
「は?」
「え?」
赤リッチを追おうとしていたビルとカエデがフリーズする。
何もない所で赤リッチがタックルの構えのまま固まってしまったからだ。
「何を驚いておるか、馬鹿者!」
シヅカがビルとカエデを叱咤する。
2人はその声に我に返ったものの困惑の表情を見せていた。
何が起きたのか理解できないといった風である。
まあ、無理からぬところか。
見えない壁に赤リッチのタックルが阻まれたように見えたのだろうからな。
「それは主の結界じゃ。
前衛のお主らと同じ訳がなかろう」
「「あ」」
説明を受けてようやく理解したようだ。
一方でそんな会話が耳に届かないのが赤リッチである。
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスッ!」
殺意をみなぎらせて前に進もうとしていた。
ここまで来ると執念を感じずにはいられない。
それだけ深く濃い憎悪が奴を支配しているのだろう。
まあ、どんなに執念を燃やして攻撃しようと結界はビクともしないんだけどね。
「後衛を無防備にするほどアホじゃないつもりなんだがな」
俺の言葉も耳には届かないようで、赤リッチはひたすら前進しようとしていた。
ガン! ガン! ガンッ!
何であろうと押し通ると言わんばかりに、その場で反動を付けつつタックルをかます。
その程度のことでオセアンの所まで行き着けるはずもないのだが。
ガン! ガン! ガン! ガンッ!
まあ、向こうは自身をこの上なく強くなったと思い込んでいるみたいだからな。
突破するのも時間の問題だとでも考えていたとしても不思議ではない。
雨垂れ石を穿つということわざを奴が知っているとは思えないけどね。
ガン! ガン! ガン! ガン! ガンッ!
何度も何度も何度も何度も何度もタックルするが何の変化も生じなかった。
懲りずによくやるものだと思う一方で何か変だという違和感が拭えない。
ここまで来ると頭の出来の方は悪化したとしか思えないんですがね。
もしかすると自我は失われているのかもしれない。
錫杖も一緒に取り込んだように見えたが、取り込まれたのは赤リッチの方だったか。
いずれにせよ、その間にオセアンの浄化の呪文が完了した。
「っ!」
真っ先に気づいたのはカエデである。
このあたりは専門家だから当然と言えるか。
「はあぁっ!」
裂帛の気合いを込め双剣を前に突き出して突っ込んでいく。
「むっ」
ビルもそれを見てミズホ刀に浄化が乗ったことを悟った。
示現流のような構えをとると赤リッチに向かって駆けていく。
教えた訳ではないのだが、経験的にそれが最もダメージが乗ると知っているのかもな。
読んでくれてありがとう。




