1712 赤いあれは何をする?
なんにせよ新人3人組に混合ポーションが渡された。
それぞれが口に放り込んで咀嚼していく。
これで3人の準備は完了したも同然だ。
やっと一息、一安心、と言いたいところだが……
ズバババババババババッ!
強欲リッチの連続突きが続いている。
簡単に終わる気配を見せない。
ズバババババババババババババババッ!
それどころか、これに賭けているかのようにさえ思えるほど続けてきていた。
何度も繰り返すとパターン化してきて飽きるんだけどね。
フェイントを織り交ぜもしないし。
思ったよりも強欲リッチはバカだったようだ。
ズババババババババババババババババババババババババババババババッ!
性懲りもなく螺旋突きを繰り出してくる。
「ファ~ッ、いい加減に諦めたらどうだ?」
アクビまじりに言ってみたが返事はない。
強欲リッチは奇声も上げなくなっていた。
「───────────────────────────────ッ!」
声にならない気合いを発しているのは大口を開けていることから想像がついたけどな。
ズババババババババババババババババババババババババババババババッ!
反応がないというのは、それだけ攻撃に集中しているということだ。
カエデやビルの攻撃も意に介してはいない。
オセアンの浄化も気にする様子がない。
既にHPが1割を切ろうとしているのだが。
攻撃の矛先を変えるどころか、ますます向きになっているようにしか思えない。
それならそれで構わないんだが。
「ふうっ、よっこいしょ~のどっこいしょっと」
既に軌道がパターン化しているために回避するのも作業に近いものになっている。
そのことに気づけない強欲リッチは螺旋突きにこだわり続けていた。
手札の中で最強の攻撃なのだろう。
続けていれば俺がスタミナ切れを起こすとでも思っているのだろうか。
向こうはアンデッドだから、その心配はないしな。
そう思い込んでしまうのも無理からぬところか。
だが、それは浅はかと言わざるを得ない。
奴は自分が最強だとでも思っているのだろうが、生憎と格上なのは俺の方である。
強欲リッチにとって新人3人組が歯牙にもかけない存在であるようにな。
むしろ、そちらよりも差は大きい。
現に奴は新人3人組からの攻撃でダメージを受けているたし。
俺が強欲リッチの攻撃をまともに受けたとしてもHPは1ポイントも減らないだろう。
回避しているのは奴のヘイトを集めるためだ。
それとアレに殴られるのはダメージ0でも腹が立つというのもある。
ずっと回避し続ける簡単なお仕事の方がよほどマシというものだ。
問題があるとすればスタミナなんだろうが、この程度で消耗するはずもない。
ずっと動き続けたとしてもな。
一晩中かけてダンジョンの暴走であふれ出した魔物の相手をしたこともあるんだし。
あの時も作業的になって飽き飽きする方が先だった。
何とかしたくて新しい魔法を開発したりしたしな。
「いくらやっても無駄だぞぉ、格下くん」
諦めろと言ってみるが無駄だろう。
もはや殺意は俺にだけ向けられているような状態だ。
ロックオンされているとかどころの話ではない。
復讐の権化とかしたかのような殺気をみなぎらせて俺だけを見ている始末だからな。
「───────────────────────────────ッ!!」
気合いのノリも、ますます激しさを増していた。
ズババババババババババババババババババババババババババババババッ!
攻撃は相変わらずパターン化したままだったが。
ただ、若干のスピードアップが見られた。
2割増しというところか。
倍速には遠く及ばないものの、土壇場で踏ん張りを見せたとは言えるだろう。
「マジかよっ!?」
ビルが攻撃を続けながらも驚愕の叫び声を上げている。
「ここで加速するとはっ!?」
カエデも同様だ。
この両名の目には脅威と映ったのは仕方のないところか。
オセアンは浄化に集中しているせいか反応はなかったが。
というより、素人目にはどれほど凄いのかが理解できないといったところだと思われる。
レベルアップしたステータスで加速したことは判別できているはずだけどね。
ただ、加速前でも充分に速いと感じているが故に両方凄いとなる訳だ。
学校で戦闘訓練を受ければ感じ方も変わってくるだろう。
そんなことよりも問題が出てきた。
強欲リッチが憎悪を増幅させたことで新たな魔法が発動したのである。
闇属性なんだが、錬成魔法っぽい。
というのも奴が纏っていた赤い僧衣が生き物のように形状を変え始めていた。
グロさを感じさせる動きで強欲リッチから垂れ落ちる。
「うわっ、キモいなぁ」
不定型なスライムのようにグネグネと蠢いていたが召喚魔法ではない。
謁見の間全体にかけられた結界は破られていないからな。
召喚が許されるはずもないのだ。
とすれば、あれは強欲リッチの思念で動かしていることになる。
「ここに来て手数を増やそうってのか」
だが、それは早とちりというものであった。
赤いスライムもどきが強欲リッチに襲いかかったのだ。
自分で使った魔法で攻撃を受けるなど変な話かもしれないが、そう見えたのは事実。
最初は水面に大きな石を投げ込んだ時のように大きな飛沫を上げた。
破裂したのかと思ったが、そうではない。
そのまま波を思わせるように伸び上がって強欲リッチを飲み込んだのだ。
そして全身にまとわりついていく。
「何だぁ?」
ビルが真っ先に驚きの声を上げた。
「っ!?」
カエデは声にならないうめきを漏らすに留まったが、表情は驚愕に彩られている。
そして2人だけでなくオセアンも同じように驚いていた。
「これはっ!?」
浄化の詠唱も中断させてしまう。
そのことでスライムもどきの動きが加速した。
あれが強欲リッチの闇魔法で作られたものであることが、これで証明された。
「主よ、あれは何じゃ?」
シヅカが聞いてきた。
「闇属性の錬成っぽい魔法だな」
「どういうことじゃ?
さっぱり訳が分からぬわ」
「最初は攻撃手段を増やすために召喚しようとしてたみたいなんだがな」
「それが何をどうすればああなるんじゃ?」
「結界で召喚がキャンセルされてたのは分かるだろ?」
「そうじゃな」
「召喚ができないなら、それに近いことをしようとしてるんだと思ったんだよ」
「あの衣服をスライムのようにしたことか?」
「そうそう。
スライムもどきを操り人形のようにするのも魔法制御の一環だと考えれば」
「ほう、思念で操り人形にするつもりだと考えた訳じゃな」
「そゆこと」
「じゃが、些か異なる結果になっておるようじゃぞ」
「確かにそうですね」
カーラが同意した。
「あれでは襲われているようにしか見えぬからな」
ツバキも追随する。
まあ、無理もない。
全身をスライムもどきに覆われて、もがき苦しんでいるようにしか見えないからな。
俺なんかは銀河の騎士レッカマンの変身シーンのようだなと思ったんだが。
「あ……」
思わず声を漏らしていた。
どうしてそれを真っ先に考えなかったのだろうか。
もっと早い段階で気づいていれば違う結果になっていたかもしれないというのに。
「何じゃ? どうした、主よ?」
シヅカが俺の気づきに過敏に反応した。
「変身だ」
「はあっ!? どういうことじゃ?」
「だから強欲リッチは変身することで自分を強化しようとしているんだよ」
「何じゃとぉ?」
今度はシヅカが驚きの声を上げていた。
新人3人組も俺たちの話を聞いていたが、変身という言葉にピンとこなかったようだ。
付き合いの長いビルでさえ仮面ワイザーとか知らんしなぁ。
そういや最近は全然使ってなかったっけ。
強欲リッチの相手をするのに使っておいても良かった気はするな。
まあ、今更感はあるので今回はお預けだ。
読んでくれてありがとう。




