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1708 モグラ叩きよりは簡単なお仕事?

「この向こうにいる強欲リッチを倒せば、前後するくらいのレベルになるぞ」


「「「────────────────っ!?」」」


 ギョッとして表情を引きつらせる3人。


 そりゃそうか。

 今回、倒してきたゾンビやグールをまとめたよりも多く経験値が入ってくるのだから。


 それは相応の強敵であることを意味する訳で。

 新人3人組には充分に冷や水となったみたいだ。


 この話はこれくらいにしておいた方が良さそうだな。

 戦闘に集中できなくなる恐れがある。


「国民となった次点でレベル3桁を超えていた面子もいたから似たようなもんだ」


 3人がどう思っているかはスルーして学校の話題に戻しておいた。

 それどころじゃないって顔をしてるけどな。

 お互いに顔を見合わせて本当に大丈夫なのかと視線を交わし合っている。


 大丈夫だから3人に討伐させようとしているんだが。

 もう少し、俺の見立てを信じてほしいところである。


「はいよ、とにかく戦闘だ」


 戸惑うじんじん3人組を強引に現実へと引き戻す。


「おいっ、まさかこのままっ!?」


 ビルがハッとした表情で中途半端な問いをしてくる。

 そんなのはスルーだ、スルー。


「行くぞ」


 俺は影渡りの魔法を使った。

 強欲リッチも闇属性の魔法は得意にしているはずだが察知などできはしない。

 複層結界の1枚すらも突破できないんだからな。


 え? こっちからも入れないだろって?

 そこは抜かりがないのだよ、明智くん。


 この結界は一方通行だ。

 何処かの童謡のように行きは良くて帰りは怖いというか帰れない。

 そういう仕様になっている。


 ヒントは布団圧縮袋だな。

 実際に使ったことはないけど、あれって一時はくどいくらいにテレビで見たからな。

 実演系の通販番組で。


 空気の逆流を防止する弁がついているというのが売りだった。

 あれをヒントに術式を構築した訳だ。


 作るのも制御するのも意外に難しくないものである。

 イメージが定着してるからな。

 通販番組様々である。


 ところで明智くんって誰だ?

 俺も知らないんだが。

 なんだか急に言ってみたくなっただけなんだけど。


 妙に語呂がいいように思えたのは気のせいだろうか。

 なーんか聞いたことがある気もするんだよね。

 何処で耳にしたのか記憶にございませんが。


 そういう不確かなものを声に出して言ったりはしない。

 1人の時ならともかく、皆のいる前だとツッコミを入れられるのがオチだ。

 ちなみに1人だと独り言になってしまって恥ずかしいから言わないんだけど。


 とにかく、謁見の間へ御案内ってね。

 スッと影に沈んで……

 サッと影から浮き上がれば、あっという間に謁見の間のド真ん中だ。


「うわっ!」


 オセアンが無防備に仰け反りながら叫ぶが、それは風魔法で遮断しておいた。

 せっかく強欲リッチの背後に回り込めたのだ。

 奇襲をかけるチャンスを、ふいにすることはない。


 奴は間抜けなことに気配の変化にすら気づいていなかった。

 まあ、それも無理からぬところか。

 手にした錫杖で壁と化した元扉の部分をこれでもかとばかりに攻撃していたからな。


 上から叩きつけるだけではなく滅多矢鱈という感じで乱暴に殴っている。

 ガッとかゴッという音が不規則なリズムで連続して聞こえてくるのは不快なものだ。


 なんにせよ強欲リッチの意識は我々の方にはカケラほども向けられてはいない。

 自分が出られないのだから誰も入ってくるはずはないという思い込みがあるのだろう。


 お陰で気配を察知されることもないって訳だ。

 もう少し気配に気を配っていれば違ったんだろうけど。

 古参組はともかく、新人3人組のうちオセアンは碌に訓練も受けていない素人だからな。


 僧兵上がりにしては間抜けと言わざるを得まい。

 こちらとしては幸いと言うべきなんだろうが。


 そのあたりを瞬時に理解したのかビルもカエデもオセアンではなく俺の方を見てきた。

 今の叫び声に強欲リッチが無反応だったのが俺の仕業だと直感したからだろう。


「分かっているなら速攻をかけて奇襲を成功させようぜ」


 俺の言葉にビルとカエデは目を丸くさせた。


「もう3人には結界を施してある。

 さっきより効力は上げておいたぞ」


 同程度で充分なんだが、あれだけ心配されるとな。

 こういう風に言うだけでも不安は払拭できないまでも薄らいだりはするだろう。


「分かったかな?」


 You understand? という言葉が脳内に浮かんできたがアウトプットはしなかった。

 自分が言われたらウザくてイラッとすると思ったからだ。

 こういうのは、おちゃらけ亜神の担当である。


「「……………」」


 ビルとカエデは無言で頷いた。


「ならば行け」


 強欲リッチを指さして指示した。

 その時になってオセアンが慌て出す。

 動揺から立ち直りきれていない状態なのはすぐに分かった。


「オセアンの浄化は2人がオープニングヒットを決めてからだぞ」


 釘を刺すとビクッと固まった。

 恐る恐るといった感じで振り返ってくる。


「当たり前だろう。

 さすがに隠蔽もできてない魔法を使おうとすれば気づかれるっての」


 オセアンが使っているのは未だに放出型の魔法だからな。

 スリープメモライズで内包型の魔法も仕込んでおいた方が良かったか。

 まあ、知識があっても使いこなせるかは別問題だけどさ。


 この状況でオセアンの素質に期待するのはスパルタがすぎるだろう。

 何にせよ、本人が止まったなら問題ない。

 奇襲は成功する。


「2人が攻撃を当ててから浄化を始めても間に合うぞ」


「……………」


 コクコクコクと必死な様子でオセアンが頷いた。

 タイミングを間違えないことだけに意識が向いているようだ。

 まだまだテンパっている証拠である。


 今の一言から気づかなかったからな。

 ビルとカエデが背後から奇襲で一撃を決めても強欲リッチが倒せないという事実に。


 2人がレベル70を超えていることを失念しているのは確実だ。

 ベテラン冒険者からしても普通ではないダメージを叩き出せる2人による同時攻撃。

 それも敵が無防備な状態で行われるのだ。


 強欲リッチも壁叩きに必死で激しく止めどなく動いちゃいるがね。

 それでも移動している訳ではない。


 穴蔵に引っ込むモグラ叩きよりは簡単なお仕事である。

 叩いているのは叩かれる側の強欲リッチだがな。

 叩かれるというか斬られる、なんだけど。


 そう、奴は斬りつけられていた。

 ビルは右から野球の打者のように横一線で腰を狙ってミズホ刀を振るい。

 カエデ左から太ももを狙って双剣をハサミのように交差させて突き出す。


 どちらも動きの少ない部分が狙われていた。

 強欲リッチは僧兵として杖術の心得があるだけに軸がぶれないからな。

 上手い場所を狙ったものである。


 ただし、一刀両断とはいかない。

 スパッと赤い僧衣に切れ込みが入ったものの、その先は──


 ガガッ!


 斬撃に似つかわしくない引っかかりのある音がした。

 まあ、中身は肉ではなく骨だしな。


 切れずに止められたなら、そんなものだろう。


「ちっ!」


 ビルが舌打ちした。


「くっ!」


 カエデも歯噛みして短く唸っている。

 無理もない。

 突進の勢いを加味して攻撃力を大幅に増しても切り飛ばすことができなかったからな。


 とはいえ腐っても上位アンデッドだ。

 無防備だったとはいえ格下の一撃だけで沈んだりはしない。


 それでもダメージは入っていた。

 両者ともに刀に光属性の魔力をまとわせていたからな。

 大ダメージとまでは言い難いけれど。


 この調子では持久戦を強いられるのは間違いない。

 何か援護する手を考えておいた方が良さそうだ。


 ただ、俺や古参組が手出しすると経験値の配分が変わってしまう。

 防御系の魔法で支援するくらいなら大丈夫なんだが……


読んでくれてありがとう。

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