表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/1785

172 ダンジョンの前で待ったがかかる

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。

 ガンフォールが護衛として連れてきたのは諦めきった表情のハマーとボルトであった。

 つやつやした笑顔を見せているガンフォールとは実に対照的だ。


「ダンジョンに潜るなど何年ぶりじゃろうな」


 なるほどね。久しぶりだからワクワクしているのか。


「そんじゃ出発な」


 車に乗り込んでバイクに跨がるツバキやハリーに合図を出す。

 彼等に前後を護衛させる形で走り出した。


「おーっ、これは面白いのう」


 走り始めた車の助手席に座るシヅカが子供のように瞳をキラキラさせて忙しなく周囲を見渡していた。

 パッと見は大人の女性って感じなのに中身が無邪気な子供そのものである。

 魔力を動力源にして走る乗り物であることは瞬時に見抜いていたんだけどなぁ。


 今のシヅカは召喚した時の残念美女のままだ。

 直線で加速してもドリフトしてもキャアキャアとはしゃいでいるし龍の威厳は何処へやら。


「ギャー!」


 この悲鳴は下りのラリードライブに慣れることができていないハマーだ。

 フリーフォールした時の記憶が蘇るのかもしれん。


 悲鳴と歓声では大いに違うが、俺はどちらもジェットコースターに乗った時の反応だと思った。

 せっかくだから国元に遊園地を作るのも悪くないかもな。


 なんてことを考えている間に山を下りきり街の外にあるダンジョンへじかに向かった。

 到着する頃には既に昼近くになっていたせいか入り口の近くに人影はまばらだ。


 ここのダンジョンは岩場から入っていく洞窟型のようだな。

 門やら扉が設置されていて衛兵が出入りする人間をチェックしている。

 俺たちが馬車モードで偽装した車を乗り付けようとすると衛兵の1人が駆けてきた。


「ここには馬車や馬をつないでおける場所はないぞっ」


 誰が乗っているかなど確認もしてこない。


「街へ行け、街へ」


 ぞんざいな手振りで追い払おうとしてくるが、気にせず車を降りた。


「おい、街へ行けというのが聞こえなかったのか!」


 割と年を食った衛兵のようだがガンフォールやハマーのことは知らないようだ。

 後ろの方にいた若い衛兵の方が知っていたらしく慌てて詰め所の方に走っていった。

 応援を呼びに行ったのなら任せてみるか。


 その間に車を仕舞おうかと考えていたら胸ぐらを掴まれた。

 衛兵にしては教育のなってない奴だ。


「貴様、聞こえなかったのかっ」


 威張り散らすしか能がなさそうな輩がケニーの部下にいるとはね。


「俺様の命令を無視するとはいい度胸じゃねえか」


 威勢のいい振る舞いを周囲に見せようとしているつもりか?

 生憎と向こうの方が背が低いせいで胸ぐらを掴んでいても格好がつかないのだが。


 俺は特に殺気立つこともなく無言無表情で見つめ返すだけだ。


「このガキィ!」


 無反応な俺に対して更にいきり立つ男。

 怒りにまかせて掴んだ胸ぐらを引き寄せようとするがビクともしない。


「ふざけやがって!」


 別に俺たちは何もしていないんだが。

 ドワーフ組は可哀相と言いたげな目をして見ているだけだし。

 ツバキとハリーは静かに怒りをたぎらせているのか能面のように無表情を通して微動だにしない。

 シヅカなどは何処か楽しげな空気を漂わせながら様子見している。


『くぅ、くっくぅ? くっくくー?』


 さあ、どうなる? どうなるぅ? と霊体化したままではしゃぐローズ。

 駆け寄ってくる衛兵たちに任せるだけだ。


「舐めやがって!」


 痺れを切らしたのかオッサンが殴りかかってきた。


「あーあ」


 任せようと思っていたけど殴られるのは御免被る。

 胸ぐらを掴んだ手を巻き込むように軽く捻りながら相手を宙に浮かせた。


「があっ!」


 人を投げた重みはない。

 抵抗すれば腕が折れてしまうので嫌でも巻き込みについていくしかないからだ。


 脳天が真下を向くタイミングで下に引き落としにかかる。

 このまま固い地面に落とせば頭蓋が割れるか首が折れるかするだろう。

 そこまでする必要性を感じなかったので途中で引き起こした。


 ズダン!


 男は腰から地面に叩きつけられた。


「がはっ」


 受け身が取れない投げで腰骨がズレたな。

 もちろん内臓にも相応のダメージが入っている。

 地面に転がった状態で満足に動くことができない状態だ。


 丁度そこに衛兵たちが駆け込んできた。

 が、俺を取り囲んでどうこうしようという素振りは見せない。


「コイツが理由もなく殴りかかってきたから投げたが、問題あるか?」


「いえ、賢者様に狼藉を働こうとしたこの者が処分されるだけになります」


 小隊長と思しき青年が俺の質問に答えた。

 青年はルーリアが巻き込まれた騒動を検証した時にいた衛兵だったようだ。

 彼の言葉に若い衛兵だけでなく他の衛兵までもが驚いている。


「賢者って聞いてたから爺さんかと思ってた」


「俺もだ」


「オッサン終わったな」


「今回ばかりは得意の言い逃れも通用しないぜ」


「それより見たことない体術だったぞ」


「気が付いたら終わってたよな」


 ヒソヒソ話をしているつもりのようだが丸聞こえである。


「何があったかは見てないだろ」


「いえ、賢者様に無礼を働いたのはこの者が見ておりますので」


 若い隊員の方を少し振り返って頷く小隊長。


「はっ! 自分が証人であります」


 緊張した表情を見せつつ直立姿勢で報告してくる姿は鬼軍曹を前にした一兵卒って感じだ。

 俺は誰にでも平等だとかうそぶく軍曹はここにはいないんだけど。

 AKぶっ放すニヒルな軍曹もいない。


「そう? 悪いね」


「いえっ、自分の職務を全うしただけであります」


「この者の処分に関して希望されることはありますでしょうか」


 小隊長が聞いてくるけど簡単に思いつくものじゃないから困るんだよな。


「規則に則った処分でいいさ」


「本当によろしいのですか?」


 小隊長どころか後ろの衛兵全員が驚いている。


「嘘だろ」


「スゲえ寛大だな」


「謹慎1週間だっけ?」


「ありえん」


 このオッサンの嫌われぶりがよく分かる反応だ。


「俺も禁止されているであろう馬車で乗り付けたしな」


「いえ、そのような決まりはありません」


「街へ行けと命令、されたんだが?」


 命令を強調して言うと小隊長はビクッと身を震わせた。


「必要とあればワシも証言しよう」


 ガンフォールが口添えしてくれたお陰で小隊長は顔面蒼白だ。

 ちょっと可哀想なことをしたかもしれない。


「隊長に報告し厳正に処分いたしますっ」


「仕事が丁寧なのは良いことだね」


「いえっ」


「それと先程の希望は撤回しよう」


「では、どのようにいたしましょうか」


「過去の処分案件で有耶無耶になったものはすべて厳正に処理してもらおう」


 何かしらの手段を用いて保留やもみ消しなどが行われていそうだと思ったからだ。

 でなきゃ、コイツが衛兵を続けていられるはずがない。


「「「「「もちろんであります!」」」」」


「証拠のあるなしに関係なく、遡れるだけ遡って全部ね」


「「「「「はっ!」」」」」


 衛兵全員が良い笑顔とともにビシッと敬礼を決めた。

 オッサンのクビは確実っぽいな。

 同情の余地はないが、せめてもの慈悲として腰は治るようにしておくか。

 働けなきゃ死あるのみの世界だからなぁ。


 ただし、完治させたりはせず常に爆弾を抱えているのだと自覚させる状態にした。

 態度しだいで容態が変化するようにもしておく。

 このオッサンは改心するような玉じゃないだろうから死ぬまで爆弾を抱えたままになると思うがね。


「立て!」


 オッサンは捕縛され引っ立てられようとしていた。


「馬車の見張りはこちらで行いましょうか?」


 小隊長がお伺いを立ててくるが俺は頭を振った。


「見張りは不要だ。送還する」


「はあ……」


 理解しかねるのか生返事をされたが気にしない。

 見れば分かることだ。

 俺は召喚魔法を使っているように見せかけて車とバイクを収納した。


「「「「「おお──────っ」」」」」


 衛兵たちも呆気にとられている。

 連行されるオッサンも目を白黒させていた。

 こちらサイドは誰も驚かんがね。


「では、向こうで手続きをお願いします」


 小隊長に促されダンジョンへ入るための手続きをすることになった。

 冒険者ギルドで登録していればパーティ名を告げるだけだが、臨時のパーティなので人数と個人名を記録しなければならない。

 未帰還者などの確認用だな。


「ところで月影というパーティは潜ってるかい」


 手続きが終わるかという頃に気になったことを聞いてみた。


「ええ、凄いですよ彼女らは!」


 小隊長が興奮気味に早口でまくし立て始めた。


「夕方頃までには必ず帰ってくるのですが戦果が並みのパーティとは桁違いなんですよ」


 無理はしていないようで何より。


「しかも11才の女の子がリーダーだなんて未だに信じられません」


 ノエルが特に絶賛されるのか。

 鼻高々ではあるが、それを表に出すのは恥ずかしいので我慢する。


「で、どのあたりまで潜ってるんだ?」


 俺が聞きたいのはそこなのだ。


「そうですね、拡張される前の最終階層付近までは聞いているのですが……」


 個人情報の概念が行き届いた世界じゃないのに、どうにも歯切れが悪い。


「提供されたマップの確認作業がなかなか進まないのです」


 把握できていないということはトップを独走しているってことか。

 ついでにマップを見せてもらったが50層以上あった。

 日帰りで往復とか絶賛されるのも頷けるというもの。


「ありがとう」


「いえ、これも業務のうちですので」


 礼を言ってマップを返却した俺は皆の方を見やる。


「さて、行こうか」


 軽い調子で声をかけ、ダンジョンの入り口に向かって歩き出した。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ