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1703 ビル、今更ながらビビる

 強欲リッチを討伐し終えたかどうかで仕事の手間が変わってしまう。


 討伐後なら一手間で済む話だ。

 少なくとも俺はね。

 残りはサリュースの仕事になるからな。


 問題は討伐前に先に仕事を終わらせようとした場合の話である。

 一手間だけで終わらせようとすると現場で混乱を生じさせることになるだろう。


 妖精組に余計な仕事をさせることになりかねない。

 さすがにリッチの討伐に支障を来すことにはならないとは思うが。


 それでも妖精組の負担を増やさないためには仕事の手間が増えるのは間違いない。

 故に面倒な手間をかけるくらいなら悪党退治を先に終わらせた方がいいと判断した訳だ。

 あんなののために余分に労力を割くのは業腹だしな。


 ツバキとの話の流れから強欲リッチを倒した後のことを考えていると──


「賢者様、まだアンデッドどもの親玉が残っているんだよな?」


 ビルが横入りしてきた。


「ああ、今そいつの所に向かってる」


「大丈夫なのかよ?」


「何が?」


「何がって、あれだけの数のアンデッドを従えていたんだろ」


「そうだな」


「そんなの、ぜってー普通の相手じゃねえって」


「今更だな。

 リッチが相手だって教えただろうに」


「そこまでヤバい奴だとは思ってなかったんだよ」


 ビルが渋い顔をさせて愚痴る。

 リッチを単なるアンデッドの上位種だと思い込んでいたが故に見極め損なったようだ。

 従えていたグールやゾンビの数を実際に見て考えを改めたらしい。


「話に聞くだけなのと間接的とはいえ実感するのでは大違いだったようだな」


 俺がそう言うと──


「ビルよ、良い経験になったじゃろう」


 シヅカも賛同するように話に乗ってきた。


「まだ経験になってないよー?」


 マリカがツッコミを入れた。


「む? 見ると聞くとは大違いと言うではないか。

 これ以上の経験は他にないと妾は思うんじゃがな」


「リッチを倒してなーい」


「ん? おお、そういうことか。

 妾は体験という意味で言ったつもりよ。

 倒して得られる経験値のことではないわ」


「んー?」


 小首をかしげて考え込むことしばし。


「そっかー、早とちりだった」


 マリカはシヅカの言いたいことを理解したようだ。

 一方で2人が会話している途中から顔色を悪くさせている者がいた。


「まさかと思うんだがよ、賢者様」


 ボソッとビルが話しかけてきた。

 言いたいことは聞かなくても分かる。


「せっかくだから3人でリッチの相手をしてもらおうと思ってな」


「げえっ!? やっぱりぃ────────っ!」


 ビルは大袈裟に飛び上がって驚いていた。

 予想通りなら、そんなに驚くことはないと思うのだが。


「無理無理無理無理無理ぃっ!」


 ビルが5回も無理を連呼した。

 最上級で無理と言いたいらしい。

 テンション高すぎだろう。


「何でだよ」


 ビルの必死さに引きつつも問う。


「無理なものは無理っ!」


 答えになってない。

 無理がふたつ追加されただけだ。


 このままだと延々と無理が追加されるだけの会話になりそうだな。

 確かに無理はさせるところはあるけどさ。

 そうは言っても、できないことをさせるつもりはないのだ。


 だが、ビルは無理だと言い切っている。

 そこまで強欲リッチを相手に戦うことを拒絶する理由は一体何だというのか。


 もしかしてレベルが上がったから防御結界なしで戦うとか思ったんじゃあるまいな。

 現に今は結界を解除してるし。

 誤解される恐れは充分にある。


 いくら何でも、そこまで無茶振りをするつもりはないぞ。

 今の新人組には防御結界なしでリッチと戦うのは危険すぎるからな。


 もしかするとカエデならシーン流の技を駆使することで対処可能かもしれないが。

 それにしたって危険はつきまとうのだ。

 防御結界なしなんて縛りを課した上でのリッチ討伐を要求するつもりはない。


 ビルはそのあたりを失念しているんじゃあるまいな。

 とにかく、どうしてそう思ったのかが謎である。


「言っておくが、さっきと同じ条件だぞ」


 結界で保護するし、攻撃も通じるように支援する。

 防御面だけで充分だとは思うんだけどね。

 ビルもグール退治で剣に魔力を流すコツをつかんだろうし。


「何処がだよっ!?」


 怒濤の勢いでツッコミを入れられた。


「え? 防御しなくていいんだぞ」


「は?」


 ビルが一転してキョトンとした表情になった。


「え? だって……、え?」


 1人で勝手に混乱している。

 やはり防御結界のことで誤解されていたようだ。


「防御結界を解いたのは、しばらく敵が出てこなくなるのが分かっているからだ」


「いや、だってリッチが残っているんだろう?」


「謁見の間に封じ込めているから出てこられないぞ」


「えっ!? どういうことだよ?」


 そんな話は聞いてないとばかりにビルが慌てている。

 まあ、説明はしてなかったもんな。

 説明については、これからするんだし。


「そもそもが法王に恨みを抱いているような輩なんだぞ」


 しかも正当なものではなく、単なる逆恨みだ。


「制御下に置いていたゾンビやグールが数を減らせば動かないはずがないだろう」


「うっ」


 言葉に詰まるビル。

 そこまで考えていなかったということなんだろう。


「下手すりゃ、法王の所に跳んで行きかねなかったしな」


「飛ぶだって?

 そのリッチはゴーストみたいに宙に浮くことができるのか!?」


 妙なところで誤解してくれるせいで話が進まん。


「そっちの飛ぶじゃないっての」


 ツッコミを入れるもピンとこないようだ。


「瞬間移動の類いだよ。

 闇属性の魔法を使うからな。

 影に紛れて跳ぼうとしてたから封じ込めたんだ」


「マジか……

 シャレになってねえって」


「まあ、そうだな。

 そんなのでホイホイ移動されたら迷惑極まりない」


「迷惑で済む話じゃねえだろが」


 すかさずツッコミが入った。


「だから逃げられないように封じ込めたんだよ。

 法王の所に跳ばれちゃシャレにならんかったしな」


「大丈夫なのかよ、それ」


「何がだよ?」


「俺たちにも結界を使っていたじゃないか」


「別に問題ないが?」


「問題ないって……」


 唖然としてしまうビルだ。

 その反応からすると、同時制御することで結界の効果が弱まるとか思っているっぽいな。


「3人分の結界の制御でも何の問題もなかっただろ?」


「いや、そうだけどさぁ」


「外に出さないようにするだけだから楽だったぞ」


「楽って……」


「3人に使った結界より単純な術式だったからな」


「……………」


 俺の言葉にビルはしばし言葉を失った。

 だが、それで諦めた訳ではない。


「そうは言ってもよぉ」


 どうにか復帰してきたビルが唇を尖らせて反論を試みようとしてくる。


「そうは言っても何だよ?」


「相手はリッチなんだぞっ」


「そうだな」


 教えたのは俺なんだから何かの間違いなんてことはない。


「そうだなって……」


 そう言って歯噛みしながらビルは唸った。


「ゾンビやグールなんかとは格が違うだろうがっ」


 その口ぶりは吐き捨てるかのようであった。

 怒っているのとは少し違うみたいだが興奮していることにかわりはない。


 とにかくリッチの相手なんて御免被るというのがありありと分かる。

 どうしてそこまで拒絶されてしまうのかについては首をかしげたくなったけど。


 ビビっているのは分かる。

 その拒絶ぶりを見れば火を見るより明らかだ。


 が、何を根拠にして恐れをなしているのかが今ひとつ理解に苦しむところがあった。

 感覚的とか本能的というならリッチと聞いた時点で恐れていたはずだ。


 ところがそうではなかった。

 本人もそこまでだとは思っていなかったと言っていたしな。


 だが、ゾンビやグールを従えていた数だけを根拠にするのは微妙な気がするんだよな。

 多いと言ったって一国の軍隊を相手にするほどの数じゃなかったんだし。


 それとも従えていた数を己の身をもって知ったことで感覚的な恐怖と結びついたのか。

 何とも言い難いところだ。


読んでくれてありがとう。

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