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1701 経験値の概念は学校で教えることだけど

 シヅカがカエデのレベルアップした理由を告げた。

 が、短い言葉では納得しきれないカエデが詳細を問う格好となった。


 食ってかかるような感じなっていなかっただけ冷静さは残しているようだけど。

 長引きそうな予感がする。


「それは主に聞くが良い」


 そこで話を俺に振ってくるのか。

 まあ、いいけどさ。


 知りたがっている国民を無視する訳にもいくまい。

 学校で教えることだけど、先に教えちゃダメって決まりはないんだし。


「え?」


 カエデがキョトンとした顔になる。

 そりゃあ目の前でハシゴをいきなり外されたようなものだしな。


 ちょっと違うか。

 授業中に教師が他の教師を呼んできてバトンタッチする感じ?


 訳が分からんな。

 現実にそんなことは起こりえないんだし。


 でもないか。

 学生時代に急病で倒れた教師がいて似たような状況にはなったことがある。

 まあ、今回の件とは状況が似ているとは言い難いけど。


 とにかくカエデにとって想定外の事態であることには違いあるまい。


「レベル上げについては妾よりも主の方が詳しいのでな」


 それでも、こんな風に言われると納得せざるを得ない訳で。


「はあ」


 生返事ではあるものの拒絶はされなかったようだ。


「パワーレベリングを考案したのは主じゃぞ」


 別に考案した訳じゃないんだけど。

 ルベルスの世界で始めたのが俺ってだけだ。


 まあ、細かなツッコミを入れても話を混乱させるだけなのでスルーしておく。


「どうすればレベルが上がるか熟知しておるのは主に決まっておろう」


 シヅカが話を振ってきたことでカエデが俺をチラ見してきた。

 特に拒否する理由もないので普通に視線を受け止める。

 カエデはそれを見て一旦シヅカの方へと向き直った。


「……………」


 そしてシヅカに対してスッと頭を下げた。

 教えを受けたことに対する礼のつもりなんだろう。


 簡単な情報提供という程度なのに律儀なことである。

 生真面目さんだねえ。

 無言だったし深々としたものじゃなかったけど、礼をする時点でそう思う。


 しかもカッチリした空気を漂わせていたし。

 武術を収めた者の礼って感じだ。


 見ている方も背筋が伸びる思いにさせられたさ。


「うむ」


 シヅカが軽く応じると、カエデも頭を上げる。

 そして俺の方へと振り返ってきた。


 説明を求めているのは、その目を見るまでもない。

 体全体でそういう空気を発していたからな。


「レベルを上げるのは経験値をためる必要があるんだよ」


「経験値ですか?」


 耳慣れない言葉のようでカエデが小首をかしげた。

 レベルの概念はあっても経験値は聞いたことがないようだ。


 確かに経験値なんてコンピューターゲームによって広まったと言える概念だしなぁ。

 発祥はテーブルトークRPGだと思うんだけど。


 いずれにしてもセールマールの世界のものだ。

 西方には存在しない訳で、そこから解説を始めないといけないだろう。


 さて、どうやって説明したものやら。

 シヅカも急に話を振ってくれるものだから困ったものである。

 今更だけど何にも考えてないよ、俺。


「……………」


 考え込んでしまったのが良くないようだ。

 カエデが固唾をのんで緊張した面持ちとなってしまったもんな。

 俺が説明を始めた直後に黙りこくってしまったのが良くなかったか。


 適当に何か喋っておけば良かった。

 明らかに失敗だ。


 ビルまでもが真剣な表情になっていたもんな。

 大事な話をするのだと直感したようだ。

 そこまで大袈裟なもんじゃないんだけど。


「とりあえず経験値はレベルアップに必要なものだと思えばいい」


 まず、そこだけはハッキリさせておく。

 でないと話がこんがらがった時に修正が難しくなるからな。


「それがないとレベルが上がらんという理解でいいのかい、賢者様?」


 ビルが聞いてくる。


「ああ、その通りだ。

 ちょっとニュアンスは違うが買い物をするようなものだな」


「買い物? なんで買い物なんだ?」


 不思議そうにビルが聞いてきた。


「物を買うのに金を払うだろう」


「ああ、それが?」


「金が足りなきゃ欲しい物は買えないだろ?」


「そうだな」


「そういう関係性がレベルと経験値の間にあるんだよ」


「なるほど」


 カエデが呟いた。

 ビルが軽く目を見開いてそちらを見る。

 あの様子だと今ひとつ分かっていないように思えるんだが。

 買い物の例えが良くなかったみたいだな。


「経験値というものが一定以上にならないとレベルが上がらない訳ですね?」


「そうだ」


 俺が肯定して初めてビルが「あっ」という顔をした。

 声には出なかったのでカエデがそちらを見ることはなかったが。


「そして、より高いレベルになると高額商品と同じで経験値も多く必要になると」


 そのまま自分の考えを述べる。

 それを聞いたビルが少し慌てたように──


「経験値って言うくらいだから何かしら行動しなきゃならない訳だ」


 と言った。


「行動しなきゃレベルは上がらんから当然だな」


「それもそうか」


 ハッハッハと声に出して取り繕うように笑うビル。


「ということは、つまり魔物を倒せば経験値が得られるということでしょうか?」


 ビルが誤魔化し笑いをしている間にカエデが聞いてきた。


「概ねその解釈で間違ってはいないが、それが経験値のすべてではないな」


「どういうことだよ?」


「どういうことでしょうか?」


 ビルとカエデが、ほぼ同時に問うてきた。


「どういうことも何も魔物を倒すだけが経験値を得る手段ではないぞ」


「むぅ」


 ビルが唸る。


「なるほど、そういうことですか」


 カエデは頷きながらそう言うと話の続きを聞くべく視線を向けてきた。

 俺もここで説明を終わらせるつもりはない。


「それこそ何でもいいんだよ。

 日々の鍛錬で剣を振るうだけでもな」


「ウソだろう?」


 信じられないという顔で聞いてくるビル。


「そりゃあ今のレベルじゃ漠然と剣を振るうだけでは上がらんさ。

 だが、剣を握り始めた頃はどうだった?

 昨日より今日の素振りの方が良くなったと実感できた覚えはないか?

 できなかったはずの技が急にできるようになった経験は一度もないか?」


「あ」


 ビルにも身に覚えがあるようだ。


「では、そういう日々の積み重ねもレベルを上げることにつながると?」


 カエデが食い気味に聞いてくる。


「一応は経験値が入っているからな」


「なんと……」


 カエデが呆然とした面持ちになった。

 それなりにショックではあるのだろう。


「ただし、ロスする分も多いから効率よくレベルを上げることはできんがね」


「そいつはショックのデカい話だよな」


 ビルがぼやくように言った。


「コツコツやってきたことが魔物を倒すよりも効率が悪いなんてシャレになんねえよ」


「そうでもないぞ」


「何でだよ?」


 ビルは聞きながら不服そうに頬を膨らませた。


「厳しい修練を積んだからこそ強さに下地ができるんだよ」


「意味が分からん」


「能力が向上したから強いとは限らないんだ」


「いや、普通に強いだろ」


「じゃあ、ビルはどうしてグールを浄化できなかったんだ?」


「うっ」


 痛いところを突かれたようにビルがたじろいだ。

 傷をえぐってくれるなと言わんばかりの顔をしている。


「技術と経験の不足だよ。

 できないと思い込んでしまっていたってのが大きいけどな」


 それでも自己分析して答えを出すあたりは真面目だよな。


「ちなみにグールをすべて一撃必殺で倒してなかったらレベル78にはなれなかったぞ」


「マジかよっ」


「こんなことでウソをついてどうするって言うんだ」


「そりゃ、そうだけどよぉ」


「ちょっと待ってください」


 ここでカエデが割って入ってきた。


「何かな?」


「一撃で魔物を倒せば経験値も多く入ってくるということでしょうか?」


「よく気づいたな」


「では、やはり」


「カエデは一撃でトドメを刺して浄化も同時に行ったから経験値の効率が良かった訳だ」


読んでくれてありがとう。

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