1700 カエデ、愕然とする
オセアンの反応がオーバーすぎるのか。
それとも鑑定が西方では俺が思う以上に一般的でないのか。
どっちなんだろうな。
ミズホの常識は西方の非常識がここでも当てはまってしまいそうな気はする。
ただ、オセアンは神殿暮らしが長かったというから世間の常識にうとい気もするんだよ。
あの様子だと神殿では儀式魔法でも使ってレベル測定をしていたのかもしれん。
何にせよ、今のままでは上の空で聞いてしまいかねない。
まあ、スリープメモライズの効果で目覚めた時には覚えているはずだけど。
できればリアルタイムで聞かせてあげたいとは思う。
時間切れになった時はその限りではないがね。
そんな訳で先にカエデのレベルを伝えることにした。
「それでカエデのレベルなんだが」
「はい」
特に気負った様子もなく耳を傾けるカエデである。
ビルとは大違いだな。
まあ、あの反応を見て冷めてしまった部分はあるのかもしれない。
この次のオセアンもこうなってくれるとありがたいんだが。
「71だ」
告げた直後にカエデはキョトンとした表情を見せた。
「すみません、もう一度お願いします」
聞き損なったのだろうか。
カエデにしては珍しいと言わざるを得ない。
そこまで付き合いが長い訳ではないとはいえ、そんな気がしたのは事実である。
武王大祭での試合運びや国民となってからの立ち居振る舞いを見てきているからさ。
注意力、観察力、そして集中力が常人の比ではないのは充分に分かっているつもりだ。
とはいえカエデも人の子であることを忘れてはいけない。
常に完璧でいられる訳ではないのは、むしろ当たり前と言うべきだろう。
そんなことができるのは人ならざる自動人形だけである。
セールマールの世界風に言えば、プログラムされた機械のみってことになるかな。
ともかく聞きそびれたというのなら再度伝えるしかあるまい。
単純に数値を言い直すだけなら、またも聞き漏らす恐れがあるやもしれないからね。
カエデに限ってそんなことはないと思うんだけど。
それでも念のためだ。
「カエデのレベルは71になった」
今度は少し丁寧に言い換えてみた。
俺としては、そのつもりだったのだが……
「え?」
カエデは何故か怪訝な表情を浮かべた。
俺としては想定外のリアクションである。
いや、どうしてこうなったとは言わないけどさ。
71にまで上がった自分のレベルを二度聞きしたカエデが困惑の表情なのは変わらない。
大事なことだから2回聞きましたなんてことではない。
信じられないから聞き直したというのが真相だろう。
「そんなはずは……」
などと動揺を隠さぬままに呟いている。
どうやら、そこまでレベルアップするとは思っていなかったという見立ては当たったか。
ということは急激なレベルの上昇に戸惑いを見せている訳だな。
倍のレベルになったのであれば分からなくもないんだが。
せいぜいが5割増しくらい。
それも元のレベルが2桁前半でのことだ。
驚いたり喜んだりするのであれば、まあ分かる。
ただ、愕然とするほどだろうかと思ってしまうのですがね。
「何かの間違いだとでも?」
「いえ、そういう訳では……」
とか言いながらビルの方をチラ見した。
自分がここまでレベルアップしたならビルはもっと上ではないかと言いたいのか。
それなら一応は頷ける話だ。
とはいえ冷静な判断ができているとは言い難い。
現にそのあたりを察したであろうビルも苦笑いしていた。
「あー、俺はグールしか倒していないからな」
という訳だ。
「ゾンビと比べれば数が格段に少なかったろ」
「あっ……」
言われてみれば、という顔をするカエデ。
そこまで頭が回っていなかった証拠だな。
ただ、それでもカエデの表情は冴えないままだったけどね。
「しかも2人のように浄化もしてないんだし」
「それはそうですが」
戸惑いの表情で返事をするカエデであった。
この様子だと本人の中ではどこか納得しきれないものがあるのだろう。
ある程度は何に対して納得できないかの想像はできるけど様子見だ。
俺の想像が必ずしも正しいとは限らないんだし。
「いいじゃねえか」
ビルがニカッと笑う。
「レベルアップできたんだからよ。
素直に喜んでおけばいいんだって」
「はあ」
困惑から抜け出せずに生返事になってしまうカエデだ。
カエデは納得できない様子を残したままである。
意外に重傷っぽい。
これはフォローが必要だろうか。
とりあえず探りを入れて、その反応しだいで対応するとしよう。
「あの苦しい修行の日々は何だったのかってところか」
まどろっこしいのはなしで直球勝負に出た。
違うなら本人に聞けばいい。
「っ!?」
俺の言葉にカエデがギョッとした顔になった。
どうやら図星だったらしい。
「そんなに驚かなくても普通に考えれば想像がつくことだぞ」
言いながら俺は古参組の方へ首を巡らせた。
同意を求めるためである。
「だよな?」
「そうじゃな」
真っ先に返事をしたのはシヅカだ。
そのままシヅカは語り始めた。
「剣の道を究めんとする者は尋常ならざる修練を積むのであろう?」
疑問形なのは実体験がないからだ。
情報提供はルーリアであるのは言うまでもない。
「その成果を半日とかからずに超越してしまえば、容易に受け入れられぬのも道理よな」
あー、なるほど。
それは確かに応えるものがあるわ。
ゾンビを安全な状態で倒し続けるだけの簡単なお仕事状態だったしな。
長年の修行を思えば楽すぎただろうし。
だからといって結界をなしにしてパワーレベリングなんてことは考えられなかったけど。
その場合は交代で休憩を取りながらとはいえ何処かでミスをしていただろうし。
数で押してくる相手というのは、ワンミスが命取りになるからね。
そこを意識しながら戦い続けるのは凄い勢いで精神をすり減らすもんな。
「別に修行が無駄になった訳ではなかろう」
シヅカの話は続く。
「え?」
どういうことかとカエデが問うような目をした。
修行が無駄になっていないと言われても、まるで想像がつかないようだな。
「修行したからこそゾンビを浄化する斬撃を繰り出せたとは思わぬか?」
「あ……」
シヅカの指摘で気づかされたのだろう。
カエデはハッとした表情を浮かべて固まっている。
シーン流の退魔術を身につけていなければ自力でゾンビとは戦えていなかった。
それを失念していたのは、退魔術が使えて当たり前だったからなんだろう。
「それだけではないぞ」
ニヤリとシヅカが笑った。
「え?」
まだ何かあるのかとカエデは困惑した。
「厳しい修行を乗り越えたからこそゾンビを一撃で倒せるようになったのではないか?」
「それは……」
驚きに目を見張るカエデ。
「確かにそう思います」
そしてグッと歯噛みする。
自分はそんなことも忘れていたのかと言わんばかりだ。
「そうであろう」
うんうんと頷くシヅカ。
「それは浄化についても同様じゃ。
ハンパな修行では浄化の効果も薄かったであろうよ」
「はい」
シヅカの言葉にカエデは神妙な面持ちで頷いている。
さすがに驚くことはなくなったようだ。
気づいていなかったことに対して思うところはあるみたいだけど。
だが、その様子から察するにシヅカの言いたいことを本当の意味では理解していまい。
だからこそ次のシヅカの言葉に再び驚くことになるのだ。
「ゾンビを一撃で倒したばかりか同時に浄化できたからこそのレベル71なのじゃぞ」
「ええっ!?」
カエデはこれ以上ないと言うくらい目と口を開ききっていた。
だが、すぐに我に返る。
「どういうことですか?」
驚きの表情を崩さぬままカエデはシヅカに問いかけた。
具体性に欠ける話をされたんじゃ疑問を抱くのも無理からぬことか。
読んでくれてありがとう。




