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1698 伸び悩んでいた男

「頼むからリラックスしておいてくれるか」


 そう言うと、オセアンが夢の中でキョドリ始めた。

 態度を決めかねているようだ。


 ビルは最初から休憩モードのままだしカエデは微動だにしない。

 どちらを見習ったものかと両者を見比べている。

 3人の中で最年長なのに逆のように感じてしまう。


「でないと休憩にならんからな」


 それでようやくオセアンも休憩モードになった。

 夢の中だから緊張してようが体の方には影響しないけどさ。

 まあ、起きた時に休んだ気がしないなんてことはありそうだ。


 オセアンが休憩に入ってくれた一方でカエデには変化がなかった。

 頑固なお姉さんである。

 まあ、大体の想像はつくけどさ。


「敵の中にいるから片時たりとて油断はできない、か?」


 そう問うと──


「っ……」


 わずかに反応があった。

 最初から分かってはいたが、今ので確信した。


 カエデはずっとソロでやってきたクセが抜けていないのだ。

 そのこと自体は決して悪いことじゃないんだけどね。


 むしろ、そういう心構えは必要不可欠と言えるだろう。

 問題は気合いが入りすぎていることだ。


「休憩に入った直後から休んでいるように見せかけて警戒していたのは分かっているぞ」


 苦笑しながらカエデに指摘すると──


「っ!」


 大きく目を見開いて俺の方を見てきた。

 バレていないと思っていたらしい。


 気を張っていた割には自分の状態を把握できていなかった訳だ。

 ソロだと指摘してくれる仲間はいないからな。

 苦笑を禁じ得ないところだけど我慢しましたよ。


「手に取るように分かったぞ」


 かわりにそう言っておいた。


 まるで飼われるようになった直後の野良あがりの猫のようだと思ったくらいだからな。

 リラックスしているようでいて決して隙を見せまいと気を張る感じがそっくりなのだ。

 カエデには失礼な話だとは思うがね。


 なんにせよ信用できるのは自分だけという状況が長く続いた結果だろう。


「もう少し周りを信用してくれないか」


「はい、申し訳ありません」


 小さくなりながらカエデが返事をした。


「謝らなくていい。

 悪いことだと言ってる訳じゃないんだ。

 それに、ずっと1人で修行の旅をしてきた時のクセが簡単に抜けるものでもないだろう」


 ハッとしてうつむき加減だった顔を上げるカエデ。


「そこまで……」


 本人に自覚があるのかないのか分からぬほど小さな呟きが漏れ出ている。


「徐々に慣れていってくれればいいんだよ」


「分かりました」


 カエデが神妙な面持ちで頷いた。

 染みついたクセがそうそう簡単に引っ込められるものでもないからな。


「で、賢者様」


 タイミングを見計らったようにビルが声をかけてきた。


「話って何だよ?」


 その問いは空気を読んで話題を切り替えようとしてくれたものだろう。

 細かいところに気のつく男だ。

 ありがたいことである。


 こういうところが同じソロ冒険者でもカエデとの差を生むと言えるよな。

 コミュ障気味なカエデとは正反対で世渡り上手なところがある訳だ。


 基本はソロでも必要となれば野良パーティもすぐに組むことができる。

 冒険者としてはオールラウンダーだな。


 人望も人気も集めるが、それだけに妬まれたり変な連中とは敵対もしていたけど。

 抱えていたトラブルもソロ冒険者としてはあり得ないほど大きかった。

 まあ、解決したんだから結果オーライである。


「パワーレベリング後のレベルを知りたくないか?」


『分かるのですかっ!?』


 真っ先に食いついたのは夢の中にいるオセアンだった。

 目も口も開ききったような状態で大いに驚いている。

 カエデも目を丸くさせていた。


「分かるんですね……」


 だけど、すぐに納得したような表情を見せ頷いていた。

 少し慣れてきたようだ。


「おいおい、目の前にいるのは賢者様なんだぜ」


 ビルがさも当然であるという顔をしてカエデに言っていた。


「そのくらいサクッと分かるだろうよ」


 だろ? と目で問うてくる。


「ああ、そんなに難しいことじゃない」


「……………」


 俺の言葉を夢の中で知らされたオセアンが固まってしまった。

 そんなに驚かれても困るんだがな。

 ちなみに、この反応は幻影魔法で皆にも見せている。


「しばらく帰ってきそうにないな、これ」


 だからなのか、ビルが困り顔になってお手上げだとばかりに肩をすくめた。


「そのうち我に返るだろうよ。

 どのみち夢の中なんだから問題にはならんさ」


「それもそうか」


 苦笑いで応じるビル。


「じゃあ、まずは俺からレベルを聞かせてくれるか?」


「おうよ」


「ずっと73のままで伸び悩んでたんだよな」


 俺が返事をするとビルがぼやいた。

 多くの冒険者たちからすれば贅沢な悩みである。

 現にカエデがギョッとした顔になったからな。


「ソロだと無茶はできねえし」


 ビルはそんなことは知らぬとばかりにぼやき始める。


「命は大事に使わんとな」


「まったくだ」


 苦笑いで応じるビル。


「かといってパーティを組んでも俺だけレベルが上がんねえし」


「お守りをしているようなものだから仕方あるまい」


 どうしても組んだ相手に合わせた依頼を受けることになるからな。

 必然的に入ってくる経験値も微妙なものになってしまう。


 おまけにソロの時とは違って経験値が分散されるのも頭の痛い話だろう。

 言うまでもなくレベルアップがより遠のいてしまう。


 あと、ビルの場合は経験値をロスしているのもあったはずだ。

 レベルが上がれば上がるほどそういう傾向がある。


 ミズホ国民だとそういうことはないんだけどね。

 ベリルママの加護があるからさ。


 今までのビルは俺が一緒の時でなければ西方の一般的な冒険者たちと同じ状態だった。

 魔物を倒しても経験値をロスする方が多かったはずだ。


 それではレベルを上げようにも上げられない。

 レベルアップに必要な経験値が増えている上に大半をロスしていたんじゃね。


 まあ、それについては言わないけど。

 ビルが落ち込むだけで終わりそうだもんな。


 それにミズホ国民となった今はロスしなくなるんだし。

 さすがにロスした経験値は返ってこないけど。


「お守りかぁ」


 言いながらビルが苦笑した。


「確かにそんな感じだったな」


 ハッハッハと笑うビル。

 あまり愚痴るのも良くないと分かっているのだろう。


「そんな訳だから今回みたいな機会はありがたいったら」


「そりゃどうも」


「で、俺のレベルはいくつになった?

 74以上は確定なんだよな?

 もしかして75になったとか?」


 矢継ぎ早に聞いてくるビル。

 内心で膨らみ続けていた期待が抑えきれずに飛び出してきたようだ。


「だったら最高なんだけどなぁ」


 言いながら満面の笑みを見せるビル。

 しかも、ここで止まる気配を見せない。

 まだまだ期待が膨らみ続けているようだ。


「まさか76にまで達したとか?」


 なんてことを聞いてくる。

 だというのに──


「ハハハ、さすがに欲張りすぎかー」


 答えは聞くつもりがないかのように自分で結論を出してくる。

 口を挟む余地なんてないですよ?

 完全に独演会状態で喋っているからね。


「レベル76ってことは無いよな? なっ?」


 呆れるほど早口でまくし立てるように聞いてくるビルだ。


 古参組が呆れをにじませたような苦笑をしている。

 微笑ましくも残念な感じの相手を見るような目でね。


 カエデはちょっと驚いていた。

 それまで余裕のある態度だったビルが食い気味な反応を見せたせいだと思う。

 豹変したと言ってもいいくらいだもんな。

 もしかするとビルに対する印象が大きく変わったかもしれん。


 オセアンは未だに復帰できていない。

 いくらスリープメモライズでも、この状態ではリアルタイム中継は無理だ。

 目が覚めた時には記憶として定着しているけどね。


 この場面を後で知ったらどんな反応を見せてくれることだろう。

 ちょっと想像がつかない。



読んでくれてありがとう。

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