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1697 レベルアップしたかな?

 ビルはオセアンには何も言わず、俺にすがるような目を向けてきている。

 オセアンの頑固さを思い知ったからこそ本人を説得するのを諦めたのだろう。


 でもって俺に丸投げしようって訳か。

 ちゃっかりしてるよな。


 まあ、自分では対処不能だと判断したことを誰かに振るのは間違いじゃないんだけど。

 どこかの神様のように面倒くさいから丸投げするのとは違うからね。


 とにかくオセアンは立っているのもやっとの有様だ。

 ビルが心配して声をかけても返事が覚束ないしな。

 それでも根性だけは一丁前である。


 まだ終わっていないと気力を振り絞って意識を保っている。

 だからこそ、ビルも説得は無理だと判断したのだろう。

 結果として俺に振ってきた訳だが。


 それは間違いではない。

 今のビルには荷が重いだろうからな。

 古参組ならどうにかできるんだけど。


「しょうがないなぁ」


 指名は俺なんだし、俺がどうにかするしかあるまい。

 ビルの視線はやや不安そうに揺れている。

 何とかできるのかと言いたいのだろう。


「やりようは幾つかあるんだよ」


「マジか……」


 俺の返答が信じられなかったのか呆気にとられた顔で返事をするビルだ。

 そういう反応をするのも無理からぬところか。


 ビルは己には対処できないと諦めていたからな。

 そこで考えることを放棄して丸投げしてきた訳だし。


 複数の手立てがあると聞かされれば驚きもするだろう。

 そんなに難しい話でもないんだけどね。


 オセアンが聞く耳を持たないなら、そこはスルーすればいい。

 無理に言い聞かせたって納得するものではあるまい。


 そもそも無理をするなと言ったところで通じるはずもないのだ。

 それを判断できるだけの経験が足りていないのだから。


 仮に本人が素直に了承したとしても、その後にはつながらない。

 精神的な疲労から眠気まで感じるほどに疲労しているのだ。

 意思の力でどうにか踏ん張っているのに無理をしなくなれば寝落ちするだけである。


 だったら取れる手段は2通りだ。

 眠気をどうにかするのがひとつ。

 もうひとつは眠らせてしまう。


 前者はジェットラグキャンセラーの魔法だ。

 時差ボケ解消の魔法はこういう時にも使える。

 蓄積した疲労までは解消できないがな。


 そういう点においては後者の方が後々に影響しないだろう。

 眠れば疲労が回復するのは子供でも分かる道理だ。


 それを言って聞かせても、今のオセアンは拒否するとは思うけどな。

 状況が把握できないことを嫌がるだろうから。


 ならば魔法を使って強制的に眠らせるまで。

 眠った後の状況を把握することについても解決する手段はある。


 スリープメモライズだ。

 リアルタイムの情報を送っておけば後で説明する手間も省けるというもの。


 問題があるとすればオセアンが自分の意思で動けなくなることだが、それも問題ない。

 理力魔法の操りモードへと移行するまでだ。

 そんな訳で魔法で俺はスリープメモライズを使ってオセアンを眠らせた。


「じゃあ、ちょっと小休憩といこうか」


 休憩するとなれば、パワーレベリングの成果を確認しておくべきだろう。

 もはや残されたアンデッドは強欲リッチだけだからな。


 実はノーム法王国で死んだ者たちはまだまだ残されていたりするんだが。

 ただ、アンデッド化はしていない。


 強欲リッチが闇魔法で状態保存させている。

 アンデッドにしないのは支配下に置いて制御する限界を超えていたからだろう。

 何らかの理由で数が減れば補充するつもりだったのは容易に想像がつく。


 現状は、その何らかの理由に該当するがアンデッド化する者はいない。

 奴の影響が及ばないよう謁見の間の結界で遮断しているからな。


 状況把握すらできていないだろう。

 未だに最も内側の結界が破られていないのが何よりの証である。


 ……些か脱線がすぎたな。

 レベルの確認をするとしよう。


[ビル  ・ベルヴィント/人間種・ヒューマン/剣士 /男/26才/レベル78]

[カエデ ・シーン   /人間種・ヒューマン/退魔師/女/21才/レベル71]

[オセアン・リヴィエール/人間種・ヒューマン/神官 /男/38才/レベル73]


 思ったよりビルのレベルが伸びなかったな。

 5レベルアップか。

 最初の想定ではその倍はいけるかと思ったのだが。


 浄化を使わずにグールを仕留め続けた付けが回ってきた訳だ。

 一撃必殺のボーナスも格下の雑魚相手だから雀の涙程度しか入っていない。


 グールも浄化されて消え去ってはいるが、それを実行したのはオセアンだ。

 故に浄化分の経験値は処理したオセアンが得ている。


 そのせいでカエデとレベルの逆転現象が起きていた。

 パワーレベリングを始める前の2人にはそれなりに開きがあったのだが。


 予定ではレベルの高い順にビル、カエデ、オセアンとなるはずだった。

 レベルの値は83、68、65くらいだ。


 グールにはノータッチのはずのカエデのレベルが想定より上がっている。

 が、別に間違いという訳ではない。


 これはオセアンがグールの浄化をすることになったためだ。

 消費魔力の関係からゾンビの割り当てが大幅に変わってしまった結果である。

 割を食ったのはグールを浄化しなかったビル1人ってことだな。


 まあ、ビルはそんな風には思っていないだろう。

 むしろ2人が早く強くなるなら歓迎するんじゃなかろうか。


 とはいえ、これを狙っていたとまでは言えなさそうだ。

 偶然もたらされた結果オーライ的な結末ってところだね。


 こういうところでは運がいいんだよな。

 普段は幸が薄いタイプなのに。

 お人好しは運にも現れるのかもしれない。

 実にビルらしい気はするけれど。


 そう考えるとカエデとオセアンの逆転は目くじらを立てるようなことでもないか。

 バランスが崩壊しているなんてこともないんだし。

 計算通りに行かなかった側面はあるが許容範囲と言えると思う。


 とりあえず3人には現在のレベルを伝えておくことにする。

 ビルにはケータイを渡してはいるが、通話の操作がやっとの状態だしな。

 テキストデータの送受信だけでも四苦八苦するだろう。


 スマホの方が操作は直感的で楽だもんな。

 だからといって今からスマホを渡しても意味がない。

 休憩を終えるまでに操作を覚えられるとは思えないからな。


 それはカエデやオセアンも同様である。

 ケータイを持っているビルの方がまだマシじゃなかろうか。


 もしかすると見る見るうちに使いこなせるようになるということもあるかもしれないが。

 魔道具に対する素養は見せてもらっていないのだし。


 そうであっても操作を覚えるまでには時間がかかる。

 せっかく目の前にいるのだから口頭で伝えた方が手っ取り早いというもの。

 オセアンはまだ眠らせたままなので、いずれにしても関係ないけど。


「さて、そのままでいいから聞いてくれるかな」


 ビルがこちらを見てきた。

 次いでカエデが。

 ただし、姿勢を正してな。


 そのままでいいと言っているのに律儀なことだ。

 というより、姿勢を正す前から見た目はともかく中身は警戒しっぱなしだったが。

 古参組がそれとなく警戒しているのは気づいているはずなんだけど。


 もちろん古参組もカエデの警戒ぶりには気づいている。

 皆、苦笑いしそうになっていた。

 カエデはそれには気づいていないようだけど。


 残るオセアンが夢の中でカエデと同じように襟を正そうとしてアタフタしていた。

 タイミングが良いのか悪いのか。


「あー、堅苦しい話をしようって訳じゃないんだ」


 手で制しながら言ったが、カエデはビシッとしたまま動かない。

 夢の中のオセアンも結局はカエデにならう格好で直立不動になっていた。


 思わず苦笑させられたさ。

 そんなに緊張されても困るんだが。


読んでくれてありがとう。

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