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171 ガンフォールの決断

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。

「煮たり焼いたりはしないから立ってくんない?」


 開き直ったガンフォールに言ったところで立ってくれるはずもない訳で。

 実に面倒くさい。


「ワシにどうしろと言うんじゃ」


「今まで通りでいいんだが?」


「訳が分からんわい」


「そうか?」


 複雑な話をしたつもりはないんだが。


「ここまで圧倒的な力があれば武力で他国を制圧できるであろう」


 あー、ガンフォールでもそう考えるのかー。

 人間の軍隊じゃ話にならないなんて、まぎらわしいこと言っちゃったせいかもな。


「勘違いしているようだが、俺は戦争するつもりはないぞ」


「なんじゃと!?」


「俺を敵に回して俺や身内に害をなそうとするなら話は別だがな」


「ならば何を望む、何を欲する」


 禅問答でも始めるつもりか?


「望むは国の発展。欲するは国の発展を願う民」


 こんなんでいいのかね。


「その割に積極性が感じられんが?」


 頭数だけなら集落規模だし、そう思われるのも仕方のないところか。


「節操なく国民を集めるつもりはないからな」


 変な奴は当然お断りだし、強引なスカウトをするつもりもない。


「ワシを連れて来たではないか」


 あー言えばこー言うとか面倒くさいなぁ。


「ガンフォールは口が堅いから信用して見せてるだけだ」


「む、そりゃスマン」


 早とちりであることに気付いてもらえたようで何よりである。


「じゃが、ワシに見せてもスカウトは認めんぞ」


「そりゃ残念。スカウト第1号はアンタなんだがな、ガンフォール」


「なっ!?」


 おお、目を白黒させて驚いてるよ。


「馬鹿を言うでないわ。小国とはいえワシは一国の国王じゃぞ」


 責務を放り出すなど以ての外と言いたいのだろう。


「今はそうだが引退したらどうするつもりなんだ?」


「む」


 一瞬でガンフォールの顔が強張った。

 まさか、そこを突かれるとは思っていなかったと顔に書いてある。


「死ぬまで王を続けるつもりではないんだろ」


「何故そう思う?」


 唸るような声で聞いてきた。

 図星だと言っているようなものだ。


「でなきゃ、あのタイミングでガブローを南部地域の王たちに紹介などするはずがない」


「むう」


 今度は髭面じゃなきゃ丸分かりな渋い表情になった。

 嘘がつけないねぇ。


「引退した人間が現役世代に口出しすると煙たがられるぞ」


「ぬぐっ」


「聞かれたら答えるくらいならいいんだが、我慢できるのか?」


 ガンフォールの性格じゃ無理じゃないかな。


「そんなだから引退もできずに悶々と悩んでいるわけだ」


「ぬおぉっ! 何故それを!?」


 鎌を掛けたら面白いくらいに引っ掛かってくれた。


「図星のようだな」


「むうぅぅぅ──────────!」


 相当、悔しいのかずいぶんな唸りようだ。


「無理に来いとは言わんよ。引退後の選択肢のひとつぐらいに考えておいてくれ」


「ふん」


 鼻を鳴らしてそっぽを向かれたが不機嫌と言うよりは照れ隠しっぽく感じられた。

 己の葛藤を読まれたのが恥ずかしいってところか。


「とりあえず戻るか」


 そんな簡単に心の整理がつくはずもないしな。

 悶々としたり悩んだりするのは自分の部屋でやってもらおう。


「ハルトよ」


 俺が転送魔法を使うべくシヅカを呼び寄せていると、ガンフォールに声を掛けられた。


「何だ?」


「その話だが前向きに考えさせてもらおう」


 決断が早いな。


「分かった」


 念押しするような野暮な真似はしない。

 自分の決断に責任を持てない男じゃないからな。


「ただ、今すぐというわけにはいかん」


「飢饉の件はガブローだけに背負わせるのは厳しいもんな」


 事情は把握しているから

 あの王子様は盆暗ではないが老獪さが足りない。

 国内の対応は無難にこなせても対外的には振り回される恐れがあるとガンフォールは考えているのだろう。

 その気になれば力ずくでどうにかできる俺とは違うしな。


「此度のことでガブローを試そうと思うておる」


 試験がわりってことか。


「へえ、合格すれば晴れて新国王誕生かい?」


「彼奴なぞ、まだまだじゃよ」


 苦笑しながらもガンフォールは満更でもなさそうだ。


「それでも大きなヘマをしなければ認めるつもりなんだろ」


 ガンフォールの嬉しいような寂しいような表情を見れば、それは疑いようもない。

 おそらくガブローは合格するだろう。


「その程度では及第点でしかないわ」


「手厳しいな」


「ワシも先代から言われたわい。王としてのお前は及第点しか取れぬ、とな」


 ドワーフが厳しいのは種族性なのかもな。


「王位を継承する時に戒めの言葉を贈られた」


 増長するなとかかな。


「王のすることに完璧などない。心して及第点を取り続けよ」


 深くて重い言葉だ。

 完璧な国家運営なんてものは理想でしかないからな。

 国民が増えれば増えるほど考え方の違いから望むものが異なってくる。

 すべてを満足させるなどできるはずもない。


 他人事ではないよな。

 良い話を聞かせてもらったと思う。


「そういう話はガブローにしてやらんとな」


「ふん、アレに聞かせるのは及第点を取ってからじゃ」


「俺はそうは思わんが」


「どういうことじゃ」


「今回は王としての資質を見極めるために試すんだろう?」


「うむ」


 重苦しく頷いている。


「だったら自覚と覚悟を持たせるために聞かせるべきだと思うがな」


「自覚と覚悟か」


「相応の重圧があってこそ持ち得るものだと思うがね」


「むう」


「今のままでガブローが王位を継いでも皆が苦労することになるんじゃないか」


 それなら臣下の者だけでなく国民が迷惑しないよう試験の段階で潰れるか否かを見極めた方がいい。


 少し考え込んでからガンフォールは頷いた。


「アレは頼りないところがあるからのう」


 何時の時代も熟練者から見た若造は頼りないものである。

 ガンフォールだって昔は若造だったのだということを忘れてませんかね。


「何じゃ。ニヤニヤと気持ち悪い」


「いやいや、俺はガンフォールにも若者だった頃があったはずなんて言わないよ」


「言っておるではないか」


「そうだっけ?」


「ええい、ワシにも若さ故の過ちはあったわい」


 ほとんど自棄っぱちで自白している。


「厳しいだけじゃダメってことも教えてやらないと人が付いて来ない君主になりかねないぞ」


「うむ、そうじゃな」


 俺の言葉にガンフォールは神妙な表情で頷いた。

 思い当たる節があるのだろう。


「細かい話は帰ってから考えてくれ」


「やけに急ぐのう」


「ブリーズへ向かったうちの子たちに渡すものがあるのとダンジョンの様子を見ておきたくてな」


「ダンジョンじゃと!?」


 ガンフォールが思ってもみない過敏な反応を見せた。


「どうした?」


「危機察知に関しては鼻が利きおるゴードンが気にしておったじゃろう」


 本能的なものなんだろうが、確かにそういう所があるようだな。

 年末から嫌な予感がしていたようだし。


「そうだな」


「その上ハルトまで気にするのであれば相当ではないか」


「それなりにな」


「ワシも行こう」


「は? ガブローと話をしないのか」


「それくらいは王女が来る前にできることじゃ」


「泊まりになる可能性もあるぞ」


「構わぬ。それよりも見極めねばなるまい」


「見極めてどうするんだ?」


「場合によっては若いのを送り込む」


「頼まれてもないのにか?」


「実戦で鍛える良い機会になるじゃろ」


 お節介なのは見え見えなのに、ものは言い様である。


「まさかと思うが自分が暴れたいだけとか言わないよな」


 冗談交じりに言ってみたつもりだったのだが……


「ななな、何を言っておるのじゃ?」


 もしもしぃ? 噛んでる上に声も裏返ってますよ。

 冗談から出た実なんてことわざは無いんですがね?


「別にいいけどさ。護衛くらいつけておけよ」


「ふん、ワシの方が守ってやらねばならぬわ」


 軽口で返してくるとは余裕だな。


「腕が鳴るわい」


 ガンフォールの気合いが入っている。

 どうやら本気で潜る気らしい。


 側近や護衛の気苦労が目に浮かぶようだ。

 同情を禁じ得ないが誰にも止められないだろう。

 変に話がこじれると嫌なので俺は口出しするつもりはない。


「じゃあ、戻ったら支度して門の前に集合な」


「了解した」


 妖精組に一声かけてから俺たちは転送魔法でジェダイト王国に戻ってきた。


読んでくれてありがとう。

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