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1695 ビルにも仕事が回ってくる

「おいおい、本気かよ?」


 ここでようやく現実から逃れていたビルが帰ってきた。

 慌てた様子のビルにカエデは不思議そうな顔をする。


「何か問題でも?」


 問い返されて本気だと悟ったらしいビルが俺の方へと視線を泳がせてきた。

 言い出しっぺが何とかしろと言いたいのか。


 生憎と俺も考えを改める気はない。

 今までの会話を聞いていれば分かると思うんだけどな。

 ただ、現実逃避から復帰したタイミングしだいでは、こういう反応もあり得るのか。


「言っただろ?

 本人が倒れるくらいでないと今のオセアンには薬にならんって」


「マジで鬼だ……」


 オセアンに哀れみの視線を送りつつビルが呟いた。

 そんなに言うほど厳しいことをさせているつもりはないんだけどな。


 ここで失敗しておく方が後々のためである。

 もっとヤバい修羅場でこういう状況に陥らないためにもね。

 身にしみた経験は必ず教訓になるはずだ。


 それから程なくして浄化を続けていたオセアンが文字通りぶっ倒れた。

 魔力切れによる失神である。


 よく頑張ったと言うべきか。

 案の定と言うべきか。


 まあ、あの気合いの入りようで考えると前者でもあり後者でもあるとは言えそうだ。

 体力的な面を気合いと根性でカバーしたのは大したものだと思う。


 気合いを連呼する何処かのお父さんには好かれそうだな。

 しかしながら、それにばかり囚われていたのはどうなんだろう。

 魔力残量についてはまるで考慮していなかったからな。


 いくらゾンビ相手だと低出力で浄化できるとはいえなぁ。

 魔法を使い続けて延々と魔力を消費していれば枯渇して失神するのも当然である。

 オセアンには悪いが発想が脳筋的すぎて失笑ものと言わざるを得ない。


 まあ、俺も人のことは言えないとは思うけど。


「あー……」


 ビルが失神してしまったオセアンに哀れみの目を向けていた。


 カエデはオセアンと交代なのでゾンビと交戦中である。

 小太刀の双剣に退魔術を乗せて一刀のもとに斬り伏せていく。

 流れるように、そして縫うようにゾンビの間を抜けながら剣を振るい続けていた。


 切られたゾンビは動きを止め支えを失った人形のように倒れていく。

 そして倒れながら浄化されていった。

 徐々にって感じだから倒れきる前に消える感じではなかったけど。


 それでも倒れ伏した瞬間にグチャッとならないのは大きい。

 飛び散り危険、グロ注意なものを見せられずに済むからな。


 当のカエデはそれを見ていなかったがね。

 見ているのは動かなくなった敵ではなく次から次へと現れるゾンビども。

 敵を倒すことにのみ集中している。


 その証拠に視線も感情もオセアンへと向けられることがない。

 交代した直後からずっとな。

 少しも心を乱されてはいないようだ。


 このあたりは、さすがと言えよう。


「はー、見事なもんだねえ」


 ビルが感心した声を上げている。


「ボヤボヤしている暇はないぞ、ビル」


「へ?」


 間の抜けた声を出して俺の方を見てきた。


「オセアンをどうにかしろってことか?」


「ちげーよ」


 俺がそういったタイミングで横の廊下からグールが飛び出してきた。


「足の速いお客さんがお出ましだ」


「へーい」


 ぞんざいな感じの返事とは裏腹にズバッと飛び出していくビル。

 ダダダッと廊下を走る間に抜剣し振り抜いた。


 そのままグールの脇を駆け抜ける。

 逆袈裟に切り上げられた剣筋がグールの腰から肩へと走っている。


 ビルの勢いはそこでは止まらない。

 脇を抜けてから反転しつつ減速してズザッと靴音を鳴らして止まった。

 ちょうどそのタイミングでグールは倒れ伏していく。


 通常は斬りつけられただけで倒れたりするような相手ではない。

 ビルが手にしているのは魔剣の類いではないからな。


 ビル自身は剣に魔法を付与している訳でもなかったし。

 その必要が無いと分かっていたからなんだがね。


 グールが廊下に倒れ込んだ瞬間にその胴体が跳ねた。

 弾んだ直後にその体が上下に泣き別れとなる。


 真っ二つとなったグールは動かない。

 その断面から内臓や体液がぶちまけられることもなかった。


 焼き切られたようになっていたからだ。

 煙は上げていなかったけどな。

 焦げ臭い匂いがする訳でもない。


 動かなくなったグールの元までビルが戻ってきた。

 口を開きかけていたので【遠聴】スキルで聞いてみる。

 カエデはゾンビと戦闘中なので素のままでは聞き取りづらいのだ。


 その気になれば聞き取れるが、そんな面倒なことをするくらいならスキルを使うさ。

 オセアンを理力魔法で立たせて歩かせている最中だしな。


 操り人形モードとでも言えばいいのかね。

 寝かせて運ぶと意識が戻った時に起き上がる手間がかかるから、この方法を採用した。

 もちろん目覚めた後はすぐに自力で歩いてもらうためである。


 疲労はポーションで回復させるし問題ないだろう。

 厳しいようだが、これくらいはしないと教訓にはなるまい。


「うわー、切れ味がハンパねえ」


 倒れたままのグールを見たビルの第一声である。


「賢者様が魔法を付与する必要がないって言ってた意味がよく分かったぜ」


 納得するような言葉とは裏腹に、その顔はしかめられている。

 グロ注意な状態だからだろう。


 これでもマシな方だけどな。

 色々とぶちまけていたら廊下が酷いことになっていたはずだ。


「これだと脚を切り落とした方が良かったか」


 動けなくしてからトドメを刺すべきだったと言いたいらしい。

 些か考えが甘いと言わざるを得ない。


 弱い相手だからこそ一撃必殺は必須だ。

 無駄な手間を増やすのは労力の無駄遣いと言わざるを得ない。

 それに無駄な隙を生む要因でもある。


 ビルの言うような状態に持ち込めばグールは一撃で倒しきれなかっただろう。

 その場合、上半身は激しく暴れるはずである。

 両腕がフリーなら移動も攻撃もできるということを忘れてはいけない。


「んー、さすがに浄化まではされんか」


 などと当人は暖気なことを言っていたが。


 浄化されないのは当然だ。

 剣に付与された魔法は単にビル本人の魔力を引き出したものなんだし。


 俺の魔力そのものだと俺にも経験値が入ってきてしまうのでね。

 それはパワーレベリングをする上に置いて無駄というものだろう。


 だからこそビルの魔力をまとわせたのだ。

 アンデッドは通常の武器では倒せないからな。


 武器で倒すなら魔剣などのように魔力を帯びたものを用意する必要がある。

 もしくは武器に魔力を付与するのでもいい。


 ここでのポイントは魔法ではなく魔力という点だ。

 もちろん魔法でも構わないのだが。


 あるいは、たいまつに火を付けて武器の代わりにするのでもいい。

 ゾンビやグール相手なら一応はダメージを与えられるからな。

 魔力を帯びていない武器よりよほどマシである。


 そんな訳でビルの剣に本人の魔力を引き出してまとわせた訳だ。

 単に倒すことだけが目的なら、俺の魔力を付与させても良かったんだけど。


 それだとビルに入る経験値が俺の方に来て目減りしてしまうからな。

 パワーレベリングの最中だから勿体ないと言わざるを得ない。


 多少の手間はかかるものの結界を構築して新人組を守るついでの感覚でやっている。

 一種のバフなので取り立てて制御が難しいというものでもない。


 この魔法だけなら片手間ですらないからな。

 3人分の結界と同時に制御しても余裕がある。

 神級スキルである【魔導の神髄】をオフにしても何ら問題ないくらいだ。


 まあ、特別な効果を付与させていないというのはあるけどね。

 ただの剣が魔剣に匹敵する効果を生み出しはしたが、それだけである。

 何の属性も付与されていないのでアンデッドにダメージを与えるのみで終わっていた。


 あえてそうなるようにしたんだけどね。

 カエデやオセアンを見てビルも奮闘してくれるかなと思ったからさ。


読んでくれてありがとう。

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