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1694 フォローくらいはしますよ?

「オセアンが倒れてしまえば我々も動けなくなります」


 カエデが真剣な面持ちで進言してきた。

 こちらに向けてくる視線は射貫かんとしているかのようだ。


 俺としては、そこまで深刻に受け止められてもなと思うのだけど。

 ハッキリ言って困惑ものだ。


 言いたいことは分かるんだよ。

 状況が悪化することを危惧しての発言だからな。


 とはいえ俺が方針を変えないと言った意味を考えていないのはいかがなものか。


「そうか?」


 フォローくらいはするよ?

 カエデは俺が無策だと思っているのだろうか。

 おそらくは、そのあたりを考慮し忘れているだけだろう。


 現に俺が素っ気なく返事をした瞬間に唖然としていたからな。

 そして更に表情を険しくさせた。


「力尽きたオセアンをこの場に残していく訳にはいかないでしょう」


 言葉にも鋭さが加わっていた。

 怒声ではなかったが明らかに抗議する意図が感じられる。

 言外に無策は無謀だという主張があるように感じられたのは気のせいではないだろう。


 カエデが言うようなことをするつもりはないんだがな。

 そう考えながら鋭い視線を送ってくる目を見返す。


 するとカエデが何かに気づいたようにハッと目を見開いた。


「まさか、何人かの護衛を残して……?」


 俺が考えもしないことを想像したようだ。


 まあ、言いたいことは分からなくはない。

 先に潜入していたキースたちは法王を守るために残ったが古参組は同行している。

 カエデはそのうちの何人かをオセアンの護衛のために残していくのかと言いたい訳だ。


 実際にそういう手を使うことは可能だ。

 ある意味、戦力の逐次投入に等しい行為ではあるがな。


 ただ、同行しているメンバーが分散したところで敵に後れをとるようなことはない。

 分かっていても、そうするつもりは微塵もないのだけど。


「なんと言われても人員の分散はしないよ」


 そんなことをする訳がないと断言した方が良いのだろうか。

 カエデは俺の正気を疑うような目を向けてきているし。


「面倒くさくてしょうがないからな」


 連絡を取り合ったりとか細々したことに気を遣わないといけなくなるし。

 何より経験値の配分がコントロールしづらくなるからね。


 まあ、今のカエデには前者で説明しておけば充分だろう。

 経験値の概念がもっとしっかり身につけば後者の方が一言で済みそうではあるけど。


「面倒……ですか?」


 カエデが何を言っているのかとばかりに困惑の表情を浮かべている。

 オセアンが倒れるのが何よりも面倒なことになると考えるが故だろう。

 経験値の分配については念頭にないのは明らかだった。


「オセアンが復帰してきたら後を追わせる訳だろう?」


「意識が戻れば、そうなるでしょうね」


 消耗した体力や魔力はポーションで回復すればいいだけだからな。


「連絡を取り合って、今どこそこだから待ち合わせはあっちでとかやるつもりあるか?」


「あ……」


 虚を突かれたような顔で短く声を上げるカエデ。

 完全に失念していたようだな。


「ですが、オセアンが目覚めるまで待つのも非効率的かと」


「誰が待つって言った?」


「え? 誰が待つって……?」


 カエデは俺の言った言葉の意味が分からぬとばかりに困惑の表情で聞き返してきた。


 護衛を付けて残していく訳でもない。

 かといって意識が回復するまで待つ訳でもない。

 ならば、どうするつもりなのかと。


「理力魔法を使って浮かせて運べば何の問題もないだろ」


「っ!? そんなことが可能なのですか?」


 驚愕に目を見開くカエデ。


「あー、説明してなかったか」


 メモライズの魔法で付与した知識には魔法の細かな効果とかは含まれていなかったな。


「ミズホ国で学校を卒業した者にとっては、それくらいは難しいことじゃないぞ」


「はあ……」


 俺の言葉にカエデは生返事をするのが精一杯のようだ。

 今まで築き上げてきた常識からは大きく逸脱するのだろう。

 信じ難い話だが他にも色々見てきているので信じざるを得ないといったところか。


「魔道具ではなく魔法でですか?」


 そちらの方がまだ信じられるらしい。


「そんな魔道具はないぞ」


 必要ないからな。

 遊び道具の類いならあるけどね。


 お祭りで使ったエアボードジャンパーだ。

 意識を失っている人間を乗せられるサイズのものじゃないので意味がないけどな。


 とにかく失神した人間を運ぶのに適した魔道具はない。


「今から作る方が面倒だな」


「作れるのですかっ?」


 ギョッとした顔でカエデが視線を向けてきた。


「別にそんな難しいものじゃない。

 乗せた物の重量を軽減して浮かせるだけの簡単な術式だからな」


 エアボードジャンパーより単純だ。


「ミズホ国じゃ、これくらいは学校で教える内容だ」


 もしかすると誰か魔法の担架とか作っているかもしれないな。

 問い合わせて取り寄せているような暇はないけれど。


 こんな具合に俺が暖気なことを考える一方で──


「……………」


 カエデは絶句してしまっていた。

 西方における魔道具の希少性を考えれば無理からぬところではあるけどな。


「とにかく単純な代物なんだよ。

 それこそ冒険者ギルドに置いてある読み取りの魔道具よりはな」


「はあ」


 生返事をするカエデだったが、衝撃は幾分マシになったようだ。


「運ぶのは手で押すなりすればいいんだし。

 だが、材料を用意して術式を書き込んでいる暇があったら魔法を使う方が手っ取り早い」


 もしくは魔道具ではない普通の車椅子を引っ張り出して乗せていくという手もある。

 それくらいなら倉庫の中にあるけど、選択肢としては無しだ。

 状況によっては走ったり止まったりを繰り返すことだってあるからね。


 シートベルトなしでそんなことをしたら……

 まあ、皆まで言わなくても想像がつくだろう。

 故に理力魔法で固定することになる訳だ。


 が、そんなことをするくらいなら理力魔法で浮かせて動かした方が面倒がなくていい。

 車椅子を使う方が動きを制限されるからな。


「何とも言い難いものがあるのですが……」


 カエデが出かかった苦笑いを途中で止めたような表情をしている。

 今までの常識があっさりと覆されて笑うに笑えないといったところか。


「理力魔法を自在に使えるようになれば分かるようになるさ」


「……精進します」


 カエデが神妙な表情で返事をした。


「そう気張るほどのことじゃない。

 魔法の基礎を身につければ、使えるようになるからな」


 ひとつの対象を運ぶだけなら難しくはないはずだ。


「今回は陛下が浮かせて運ばれると?」


「ああ、そうなるかな。

 誰がやっても構わないんだが」


 古参組なら楽勝である。

 今回は言い出しっぺなのでオセアンを運ぶのは俺ということになったも同然だ。


 その話を聞いたカエデは、少し遠い目をしていた。

 そんなに簡単なことなのかと思ったのかもしれない。


「それは分かりましたが、本当にいいのですか?」


 カエデは念を押すように聞いてきた。


「厳しすぎると言いたいのかな?」


 MPゲージをスッカラカンにするのは相応に負担がかかるからな。


 失神するのは当たり前。

 目覚めても吐き気を覚えたり頭痛がしたり。

 二日酔いの酷い状態に近いものがある。


「はい」


 そんな状態にさせるほど酷い真似をしている訳ではないと思っているのだろう。


 口頭で注意して止められるなら同感だが、生憎とそういう状態ではない。

 オセアンは完全に頭に血が上ってしまっているからな。


「これもまた修行だ。

 それくらいしないと今のオセアンには薬にならんだろうしな」


「修行ですか?」


「そうだ。

 手痛い失敗は身にしみるだろう。

 だからこそ薬になるし糧にもなる」


「なるほど、それは確かに」


 一理あると頷いたカエデは──


「では、仕方がないですね」


 そう言って食い下がることなくあっさりと引いた。


読んでくれてありがとう。

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