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1691 誰からも嫌われる男

 リッチになる前の強欲な枢機卿に人望がないのは明白であった。

 根回しが上手くない限りは法王に選出されるのは至難と言わざるを得なかった訳だ。


 手っ取り早く解決する方法があるとすれば、金を使った抱き込みだろう。

 強欲リッチはそれもできなかったみたいだけどな。


 していたとしても派手なバラマキはしていまい。

 サリュースの人物評によると強欲でケチだったそうだし。


 まあ、それ以前に必要性を感じなかったのかもしれないが。

 人望がないとは思っていなかったみたいだしな。

 実に信じ難いことだけど。


 何処をどう曲解すれば、そんな解釈に至れるのか。

 理解に苦しむと言わざるを得ない。


 その思い込みの激しさは岩をも穿つのではあるまいかと思わせるほどだ。

 もはや才能とすら言える。


 決して良い意味ではないので周囲の者には、はた迷惑でしかないがな。

 常に予想の斜め上を行く解釈から予想外の行動をされ振り回されるのだから。


 いや、されていたと言うべきか。

 もはや振り回される者は誰もいない。


 最後の身勝手な行動によって死の世界へいざなわれてしまったからね。

 枢機卿がリッチ化した際の巻き添えで生と死が反転して死んでしまったとも言う。

 実に強欲リッチらしい身勝手さだ。


 呪いから読み取った奴の主張と呪いを鑑定した差異は呆れるほど大きかった。

 主張はどれも身勝手なものばかりだったからな。


 中でも極めつけは法王の座を横からかすめ取られたというものだろう。

 まったくもって理解できない。

 どういうことだろうかと首をかしげてしまうばかりだ。

 自らの人望のなさを棚に上げているあたりは失笑を禁じ得ないもんな。


 まあ、この場で笑う訳にはいかなかったので【千両役者】スキルで誤魔化したけどさ。

 新人以外の同行者たちは俺と同様に気づいていた。

 むき出しの欲にまみれた呪いなど解読するまでもないからな。


 見せつけられるこちらの身にもなってくれというものだ。

 古参組の皆が苦笑したり呆れたりしていたのは言うまでもないだろう。


 逆に新人組は無反応であった。

 オセアンは法王にまとわりついた呪いの内容まで細かく見ることができなかったようだ。

 呪いの念の深さや強さを削ぎ落とすのに精一杯な様子だったしな。


 途中で集中を切らす訳にはいかなかったのだから無理からぬところではあるか。

 あー、でもオセアンのレベルからすると解呪をしていなかったとしても難しいか。


 ある意味で同業と言えるカエデも気づいていなかったようだし。

 2人よりレベルがずっと上のはずのビルも気づいていなかった。


 まあ、西方では英雄クラスのレベルに達しているとはいえ専門家ではないからな。

 呪いを見極めるコツなんかを知っていれば話は別だったとは思うが。


 そういう意味では、この場にいないベル婆やナタリーであれば感じ取れたはずだ。

 レベルが3桁に達しているというのもあるけれど。

 近しいレベルだとシーニュだろうか。


 ただし、彼女もビルより10以上レベルが高い。

 何より元神官で専門家だからな。


 とはいえ、この場にいない者たちのことを言っても始まらないか。

 強欲リッチが逆恨みしていたという事実は、そうまでして証明する必要もあるまい。


 武威を重視する念からも普段の態度がうかがえる訳だし。

 法王を軟弱者としてしまう時点で偏った考えを持っていることが分かってしまうもんな。


 呪いを受け続けても決して屈しようとしなかった相手を軽んじる方がどうかしている。

 悪い脳筋の典型例だと言って良いだろう。


 要するに強欲リッチは乱暴で周りを顧みないワガママなガキ大将そのものもなのだ。

 強ければ周囲は平伏すと思い込んでいる。


 態度の上ではそうでも内心では反発する者も少なからずいるはずなのにね。

 それが分からぬ時点で法王を目指す資格などなかろう。


 これらのことはキースたちが集めた資料からも明らかだ。


 資料は【速読】スキルで読み取ったが酷いものだった。

 廃棄されていたという訳ではなく内容がね。


 個人の手記などは手つかずのままだったのだ。

 強欲リッチであれば確認できただろうに、それをしていない。


 自分に人望があると本気で思い込んでいたが故に調べなかったようだな。

 その自信過剰な思い込みは現在進行形で続いているお陰で残っていたという訳だ。


 お陰で奴がどう思われているかの確認は笑いたくなるくらい容易だったさ。

 それだけ誰からも嫌われていたのだ。

 実力があるから出世ができたにすぎないのを奴は人望があると誤解していたがな。


 周囲を黙らせるだけの声の大きさがあるから誰も表だって異を唱えない。

 上から押さえつけておいて人望があると思い込めるとは凄いものだ。

 感心させられるほど、おめでたい中身をしているとしか言い様がない。


 嫌悪感しか抱けぬ相手であるのは確かである。


 そんな輩が状況の変化を感じ取って移動しようとしたのだ。

 法王への呪いが遮断されたから監禁場所へ確認しに行こうとしたと見るべきだな。

 でもって確認した後はトドメを刺すつもりなんだと思う。


 ということは、この次の行動は自らの足で出向こうとするってところか。

 自由に移動なんてさせる訳がないけどね。


 そんな訳で俺は報告を受けていた城内の構造から謁見の間の出入り口を封鎖した。

 これで強欲リッチは袋のネズミである。


 おそらく扉を破壊してでも外に出ようとするだろうが、それは無意味だ。

 壁面も含めて結界でガッチガチに固めているからな。


 仮に結界を突破できても、それは薄めに設定した1枚目にすぎない。

 ある意味それは報知器の役割を果たす代物だ。

 いちいち中の様子なんて監視してられないからな。


 結界は何重にも張り巡らせてあるから1枚目を抜けた時点で確認すればいい。

 2枚目以降が更に強固であることを知ったら強欲リッチはどんな反応をするだろう。

 癇癪を起こして地団駄を踏みそうな気はするがね。


 そんな見苦しいものなど見たいとも思わないので覗き見たりはしない。

 こちらは向こうが悔しがっている間にアンデッドの始末をするだけだ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「それじゃあ、パワーレベリングの時間だ」


 俺がそう言うと、同行してきた古参組が頷いた。

 シヅカやツバキは苦笑してもいる。

 マリカは「おー」という掛け声とともに拳を突き上げていた。


「今回、我々はあくまでもお手伝いをするだけですよ。

 アンデッドを倒してしまってはいけないと言うことを忘れてはいけません」


 カーラに指摘されてしまうマリカ。

 それだけやらかしそうなテンションに見えたのだろう。


 が、マリカは意に介した様子がまるでなかった。


「お手伝い、楽しいよ?」


 不思議そうな顔でコテンと首をかしげている。

 これにはカーラも苦笑いするしかなかった。

 いや、俺たちもと言うべきか。


「そうですね」


 カーラが応じて一段落つくと、ビルが小さく手を挙げた。


「賢者様、ちょっと聞いていいか?」


「どうした?」


「俺もレベリングの方なのかい?」


 ビルが聞いてくる。

 カエデやオセアンのフォローに回る方じゃないのかと思ったのだろう。

 レベルが2人よりずっと上だからな。


 だが、この場にいる面子の中では3番目に低いとも言える。

 未だに2桁レベルだしな。


 ミズホ国の基準ではまだまだレベリングをする必要がある訳で。

 フォローに回る側とは言い難い。


「そうだ」


 故に返事は肯定だ。

 ただ、護衛するという意味においては間違った認識ではない。


「数は少ないがグールがいるのでな」


 動きが素早い敵の露払い担当って訳だ。

 俺の結界があるから攻撃をまともに食らったりはしないのだが。

 それでもカエデやオセアンではグールを倒すのに時間がかかるだろうからな。


読んでくれてありがとう。

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