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1690 敵も動こうとしている?

「ここにいるのはオセアンの言うように精鋭だ。

 亜竜など群れで襲いかかってきても返り討ちにできるくらいにはな」


「「……………」」


 オセアンもカエデも完全に言葉を失っていた。

 何からツッコミを入れていいのか分からないといったところか。


 それでもカエデはすぐに復帰していた。

 顔色はあまり良くはなかったがね。


 一方で俺の言葉に驚き固まったままのオセアン。

 だが、ここで話を終わらせる訳にもいかない。


「いいか」


 呼びかけることで強制的に復帰させることを試みた。


「え?」


 ぼんやりした様子だが一応は復帰してきたので良しとする。

 この調子では難しいとは思うものの話を止めるつもりはない。


 おそらく再び再起動が必要な状態になるだろうしな。

 いちいち待つのも面倒だ。


「結界を構築すれば敵は満足に近寄ることもできないぞ」


「え?」


 さっきからオセアンは「え?」しか言えていないな。

 思わず笑ってしまいそうになったさ。

 もちろん我慢したがね。


「知性も碌にないゾンビとグールだけだからな」


 応援を呼ぶこともないって訳だ。


「……………」


 オセアンが言葉を失っている。

 敵がアンデッドだと教えたせいだろうか。

 敵だらけという情報から、どうなっているかは想像がついただろうし。


「城壁外へは漏らさぬよう結界を構築済みだから心配はいらんぞ」


「「なっ!?」」


 オセアンだけでなくカエデからも驚きの声が上がっていた。

 範囲魔法の規模の大きさに圧倒されてしまったようだ。


 まあ、街クラスの大きさだからな。

 城壁の内側は国であり王都でもあるのだから当然だ。

 さすがに王城単体ではそこまで大きなものではないが。


「言っただろ、桁が違うって」


 ビルが苦笑している。

 さすがに色々見せてきたから慣れてしまったようだ。


「なるほど、確かに……」


 カエデはビルとの会話していたお陰か、すぐに復帰してきていた。

 オセアンの方は唖然とした状態で固まったままだが。


 少し待った方が良さそうだ。

 いま無理に復帰させても動揺したままになるだろう。

 慌てるべき状況は何もない。


 法王の危機的状況は脱したからな。

 あとは回復させるのみである。


 というより、こうしている間にも法王の治癒は進めていたし。

 衰弱しきっているので徐々に回復させている状態だ。


 負担を少なくしないと凄く苦しむことになるからな。

 場合によっては激痛さえも感じることがあるはずだ。

 今までさんざん耐えてきたのだから、そういうのはナッシングで。


 法王は女性だしな。

 アラ還ぐらいに見えるけど。

 実際の年齢はサリュースより一回り上ってところなんだが。


 まあ、40代半ばに入ろうかってぐらいだな。

 鑑定ウソつかない。


 見た目とのギャップは呪いにさらされた期間とその怨念の強さをうかがわせた。

 それに耐え続けた精神力の強さもね。

 線の細い感じがするオバさんだが心は頑強と言えそうだ。


「エメラ・グリューナス法王」


 未だに意識を取り戻す様子を見せない中で俺は法王に呼びかけた。


「よく頑張った。

 後は任せろ。

 不信心な輩に神の代行者として鉄槌を下してくれよう」


「……………」


 返事はない。

 当然である。


 如何に強い精神を持っていても肉体はそうではない。

 実年齢よりもふたまわり近く老けて見えるほど衰弱しているのだ。

 しかも治癒魔法をかけている最中で治りきった訳ではないしな。


 似たような状況は以前にもあった。

 当事者はベル婆だ。


 あれはそのベル婆がゲールウエザー王国の宮廷魔導師団の総長だった頃の話である。

 受けていたのは今回のような呪いではなく毒だったが。

 いずれも強力なものであることに変わりはない


 が、呪いと毒ではまるで別物と言わざるを得ない。

 その違いがサクッと治癒できない状況を生み出していた。


 毒なら無毒化して細胞を活性化すればいいのだが。

 呪いは解呪して浄化しても細胞は簡単に活性化できない。


 やろうと思えば不可能ではないがね。

 魔力を普通では考えられないほど大量に消費すれば。

 それ自体はミズホ組にもできることではあるのだけれど。


 問題があるのは、治癒を受ける側であるグリューナス法王だ。

 呪いによって衰弱している状態でそんな大量の魔力を浴びればどうなるか。


 かかる負荷は並大抵のものではない。

 痛みを感じるのはもちろん、吐き気などもあるはずだ。


 【多重思考】スキルでシミュレートしてみたが、いずれも激しいものであると出た。

 逆に今の状態なら特に問題がないらしい。


 今まで頑張ってきた法王にむち打つような真似をするのは忍びない。

 ねぎらう気持ちと敬意をもって治癒魔法を使わせてもらおう。


 そう思った瞬間、法王がかすかに笑ったような気がした。

 俺の言葉が聞こえたのかもしれないな。


 まあ、気のせいだと言われてしまうと自信はないんだけどね。


「……………」


 しばし様子を見てみたが以降は何の変化もなかった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 オセアンの動揺が収まりつつあった頃──


「ん?」


 俺の結界が転送系の魔法をキャンセルした手応えがあった。


「どうしたんだ、賢者様?」


 ビルが声をかけてきた。


「いや、大したことじゃない。

 悪党が悪あがきをしようとしただけだ」


「何だよ、それ。

 本当に大丈夫なのか?」


 見えていないからこそ不安になって聞いてきたのだろう。


「まったく問題ない。

 言っただろ、大したことじゃないって」


「あー、うん。

 確かに聞いたわ」


 ビルが笑いながら誤魔化すように言った。


「悪あがきの方に気を取られてたよ」


 そのことが照れくさいのだろう。


「そうは言うが、大したことないから悪あがきなんだぞ」


「あ……」


 指摘されたビルは完全に赤面している。


「涙、拭けよ」


「泣いてねえよっ」


「ツッコミが入れられるなら大丈夫だな」


 不安は払拭されていると見ていいだろう。


「うっ」


 ビルが決まり悪そうに短く唸った。

 動揺から立ち直らせるために振り回されたのだと気づいたようだ。


「まったく……

 賢者様には敵わねえな」


 落ち着きを取り戻したビルが深く溜め息をついた。


 ちなみにキャンセルしたのは闇属性の術式だった。

 影渡りに近いものがある。


 だが、似て非なるものなのはすぐに分かった。


 影渡りは影の中に潜り込むものだ。

 イメージとしては潜水だろうか。

 影の中であっても普通に呼吸できるので、そのまんまという訳ではないけどな。


 キャンセルした術式は自らを影に転じていた。

 この時点で根本的に違う訳だ。


 そこから影同士を移動のための接点として設定し超高速で移動する術式らしい。

 こちらのイメージとして近いのはケータイだろうか。

 音声や文字情報をデジタルデータに変換して送受信する。

 そんな感じだ。


 影渡りも移動の接点として影同士をつなぐ点においては同じである。

 こちらはフィクション系のSFで使われるような異空間航法がイメージ的に近いと思う。


 細かな過程を無視すれば似ているように見えるかもしれない。

 移動速度に関しては似たようなものだからな。

 いずれにせよ転送系に分類されるくらい速いってことだ。


 それよりも、どうして強欲リッチが移動しようとしたかの方が重要である。


 危険を察知して逃げようとした?

 いや、法王へ復讐しようとする執着心を考えれば逃亡はあり得ないか。

 逆恨みなのは、まとわりついていた呪いを見れば明白だったけどな。


 自分が法王になるはずだったのにとか。

 此奴に横からかすめ取られたとか。

 武威を示せぬ軟弱者がとか。

 魔法がワシより少し上だからと調子に乗りおってとか。


 あからさますぎるというか子供っぽい恨みの念がベッタリだった。

 そもそもグリューナス法王がいなくても強欲リッチが法王になれたかは怪しいものだ。

 選出方法が全枢機卿による多数決だからな。


 それで選ばれなかったのだから人望がないのは明白である。


読んでくれてありがとう。

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