1687 カエデの疑問
せっかく復帰してきたのにカエデの一言でヘナヘナになるビル。
無理もない。
黒歴史が確定したショックから復帰した直後だからね。
まさか蒸し返されるとは思っていなかったところへの直撃弾。
まあ、人の話はちゃんと聞けとはツッコミを入れたくなったけど。
動揺から立ち直った直後では難しいものはあるか。
それにしてもカエデも天然の気があるよな。
天然の中ではよく見かける勘違い系ではないけれど。
本人はいたって真面目に話しているだけで勘違いなどはしていない。
そのかわり空気はことごとく読まない。
猪突猛進系とでも言おうか。
……あんまり天然のイメージじゃないな。
真面目系でいいか。
何にせよ空気を読まない直球勝負な発言のお陰でビルには相応のダメージが入っていた。
黒歴史をほじくり返されればね。
よほどタフであるか鈍感でなければ悶絶級の苦しみを味わうことになる訳だ。
「いえ、そのことではなく」
カエデはビルの言葉を否定した。
ビルがどうして弱っているのかが理解できないのか、怪訝な顔をしながらではあるが。
まあ、理解できるなら発言も少しは配慮したものになっていたとは思うがね。
今の否定だってビルを慮ってのことではない。
自らの目的とは異なる方へと話が進みそうになったからだ。
カエデにしてみれば舵を切って方向修正したようなものだろう。
ビルにとっては黒歴史という傷をえぐられなければ何でもいいようだが。
「え、違うの?」
サクッと復活していたしな。
現金なものである。
呆れるよりも苦笑を禁じ得ないといった感じではあるがね。
聞かれたカエデは些か面食らっていたけれど。
このあたりは仕方ないかとは思う。
どうしてビルが落ち込んだのかも理解できなかったしな。
ならば復活した理由も分かるまい。
そんな状態では、いきなり凹まれたと思っていたら急に復帰したとなるだろう。
それでも話が通じるなら問題ないとカエデは判断したようだ。
「オセアンから漏れた魔力を回収して本人に戻す件についてです」
面食らったままにならず、すぐに用件を伝えていた。
「あー、そっちか」
黒歴史をえぐる話ではないと知ったビルが大袈裟に安堵しながら頷いている。
「そうは言ってもなぁ……」
軽く嘆息するビル。
どう説明したものかといった雰囲気だ。
「あれ以上の情報は大してないぞ。
論理的な話じゃなくなるからな」
「そうなのですか?」
不思議そうな顔をして首をかしげるカエデ。
「その割には何をするのかすぐに見抜かれていたようですが」
「半分は想像なんだよ」
「え?」
カエデが困惑の表情を浮かべた。
「賢者様ならこうするだろうってな」
「そんな簡単に分かるものなのでしょうか」
ビルの言葉を耳にしてもカエデの困惑は晴れない。
「賢者様とは以前から付き合いがあってな。
俺の方が一方的に世話になることばかりだが」
ビルが自嘲気味に笑いながら言った。
決してそんなことはないんだけどな。
内心でそう否定しながら思い出したのは初めて出会った時のことだ。
ゲールウエザー王国の王都にある冒険者ギルドで面倒な連中に絡まれたんだよな。
そこに割って入ってきたのがビルだった。
見ず知らずの相手を助けるために真っ先に騒動に首を突っ込むなど普通はしないものだ。
あれなんかは大きな借りだったと思うんだがなぁ……
ビルにとってはそうではないらしい。
ちょっとお節介を焼いたくらいの感覚だったようだ。
お人好しというか何というか。
まあ、だからこそ国民としてスカウトしたんだけどな。
最初は断られたけど。
ビルにしてみれば迷惑がかかるとか考えていた節がある。
実際にトラブルを抱えていたしな。
そういや、あれを解決するために動いた時もアンデッドの騒動に巻き込まれたよな。
もしかしてアンデッド関係のトラブルに巻き込まれやすいのは俺じゃなくてビルなのか?
必ずしもそうとは言い切れないが、否定もできない気がする。
まあ、ここで白黒付けるような話でもないか。
俺があれこれ思い出しながら考えている間もビルが俺との関わりをカエデに話していた。
出会ってから何年にもなる訳ではないものの内容的には濃い方か。
仮面の傭兵エクス・キュージョンなんてキワモノの設定で連れ出したこともあるしな。
ちょうど思い出していた話だ。
もしかすると武王大祭に覆面で出場したアイデアはあれが元になっているのか?
だとしたら、気に入っているのかもしれないな。
トラブル解決のために変装しなきゃならなかったからプチ黒歴史かと思っていたのだが。
「ミズホ国の国民になったのは俺の方が後だが色々と見てきているんだよ」
「そのようですね。
陛下とも親しげに話していましたし」
「そ、そうか」
ビルが照れくさそうに頭をかく。
オッサン顔のデレに需要はないと思うんだがな。
あー、でもグランダムの第1作はオッサンたちが熱かったか。
ないと断言はしづらくなった。
個人的には否定したいがグランダムは否定したくない。
困った時はスルー推奨だ。
「では、残りの半分はどうでしょう?」
「細かいな」
「気になる性分ですので」
「状況的にそれぐらいしかオセアンの魔力不足をどうにかできそうにないからってだけだ」
ビルが苦笑しながら言った。
「ポーションを飲みながら詠唱はできんだろう?」
「それは確かに」
ようやくカエデも納得したようだ。
一旦はそこで話が途切れたようになったビルとカエデだったが。
「こうして見ていると勉強になるよな」
ビルが何気ない感じで口を開いたことで再び会話が始まろうとしていた。
「え?」
カエデがやや怪訝な面持ちとなった。
何を言っているのか見当がつかないようだ。
「ほら、あの4人が上手く連携して魔力を集めているだろ」
「はあ」
よく分かっていないらしくカエデは生返事をしている。
「あれ? もしかして魔力の流れが見えないか?」
「見えるのですか?」
話が食い違う訳だ。
「薄ぼんやりとした感じだが一応な」
そう言いながらビルはヘマをしたと言いたげな顔をしている。
カエデが魔力を見ることができないとは思わなかったようだ。
一方でカエデは凄く真剣な顔で考え込んでしまっていた。
「そんなに悩むことじゃないと思うぞ。
俺は何年もそれができなかったからな」
「そうなんですか?」
「ああ、魔力を見ることができるようになったのは最近のことだ」
「そうですか……」
言葉の上では納得した様子を見せるカエデだが、表情は裏腹なものだった。
ビルもそれを感じ取ったのは言うまでもない。
「信じられないか?」
「いえ、そうではなく……
修行が足りないと感じました」
「真面目だねえ」
ビルは自分には真似できないとばかりに頭を振る。
「そうでしょうか?」
「そうなんだよ」
本気で言っているのかと呆れ顔を見せるビル。
「何であれ賢者様が未熟な俺たちを連れてきたのは意味があるってことだ」
「え?」
「何だよ? 俺が真面目なことを言うのは変か?」
「いえっ、ビル殿が未熟とはとても思えないのですが」
「未熟も未熟だよ。
今回、賢者様が連れている面子からすれば俺なんてヒヨッコもいいところだ」
「……………」
カエデが完全に言葉を失っている。
心底、驚いたらしい。
「冗談を言った覚えはないんだがな」
「そ、そういう訳ではないのですが」
「だから本当に桁が違うんだよ。
単独でドラゴンを軽くひねっても俺は驚かないぜ」
「なっ……」
先ほどからカエデは驚いてばかりいるな。
ここから再びパワーレベリングをしようと思っているのに影響を残しやしないか心配だ。
が、今はオセアンのフォローが重要だ。
いくらロス分を回収して戻しているとはいえ解呪の魔法で使った魔力は消費されている。
結果としてビルたちが話している間にかなりの魔力を消耗していたからな。
読んでくれてありがとう。




