170 これがミズホ国
改訂版です。
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惑星レーヌが丸いということを証明する授業をやったのならと転送魔法でガンフォールを国元に連れてきた。
「これがミズホ国かよ」
遠い目をして呆れたような諦めたような溜め息を漏らすガンフォール。
「そして妖精がわんさか」
もひとつ溜め息。
「こんなに大勢の妖精を見たのは生まれて初めてじゃ」
「国民の中で人間種の方が少ないのでな」
「妖精を国民にするなど聞いたこともないわい」
「建国したのは俺だから好きにやってるだけさ」
またも溜め息。
「スケールがデカすぎて頭がついていかんわい」
「国民は少ないぞ」
「あそこで農作業をしておるじゃろう」
ガンフォールが指差す先にいるのは人ではない。
「あれは自動人形だ」
「なんじゃと!?」
遠目では分からないようなので作業を中断させて呼び寄せた。
近寄れば等身大フィギュアそのものな外見だから嫌でも人間でないと分かる。
「お待たせ、シマシた」
喋りもあえて滑らかにならないようにしているから等身大リアル歌い手ロイド状態だ。
こんなの日本で売り出したらどうなるんだろうな。
「確かに人間ではないのう」
間近で自動人形を見たガンフォールだったが4度目の溜め息とはならなかった。
かわりにジト目で見られてしまう。
「覚悟を決めてきたんじゃないのか?」
「想像をはるかに超えられた身になってみよ」
「そんなこと言われてもなぁ」
まだ序の口だとは言い難いな、これは。
「あの馬鹿デカい城もそうじゃ」
「ちょっと大きいだけだって」
「どこがじゃ!? やたらと高いじゃろうがっ」
「いや、全然」
「他の建物と釣り合いが取れておらぬではないかっ」
「あれでも暫定的なものなんだが」
「な……」
「都市整備計画として高層建築物も含んでいるからな」
将来のミズホシティをミニチュアモデルサイズで幻影魔法を用いて見せると、頭を振られてしまった。
「人がおらんじゃろう」
「だからスカウトしてるんだ」
厳選しているせいで遅々として進まないけどね。
「元王女も候補という訳か」
「エリスか? 可能性は低いがそうだな」
「連れて来る可能性が低いじゃと?」
「今回の件でゲールウエザー王室とのつながりが切れるかどうかだな」
「あの娘はそれを望まんじゃろう」
「本人の意志など関係なしに周囲は動くぞ」
「そこは守ってやらぬか。弟子入りを熱望しておったであろう」
「別に王室に戻っても弟子にすることは不可能じゃない」
「頑なじゃな」
呆れたような目を向けられながら言われたけど、頑固さはドワーフの方が一枚上手じゃありませんかね?
「エリスの選択しだいだよ。こちらに来るつもりなら身内として扱う」
「ゲールウエザー王国が敵に回っても、か?」
「もちろんだ」
「ハルトよ、あの国は強いぞ」
惑星レーヌで2番目の大国だもんな。
「ワシらも山を下りて戦いたいとは思わぬ」
「そうかい」
「真面目に話を聞かぬかっ」
ガンフォールの目は怒っているのかと思わせるほど真剣そのものだった。
「世界最強と謳われるアルシーザ帝国とも互角に戦えると噂されておるんじゃぞ」
「悪いが人間の軍隊じゃ話にならないな」
「何を馬鹿なことを言っておるか!」
どうやら俺が強がっているとか思っているようだ。
それ相応のものを見せないと納得しないだろうなぁ。
「シヅカ、真の姿を見せてやれ」
「心得た」
嬉々として返事をしたシヅカが光に包まれると、みるみる膨張し姿を変えていく。
「な、なんじゃ!?」
うねりを見せる光の奔流に解散したはずの国民たちがシュババッと集まってきた。
「陛下、何事ですか」
カーラは若干の警戒感を持っているようだ。
他の皆は俺が平然としているので特に警戒している様子はない。
「心配無用だ、カーラ。さっき紹介したシヅカが元の姿を見せてくれるのさ」
俺がそう言うのとほぼ同時に光が弾け大きな龍が姿を現した。
召喚した時といい外連味のきいた演出に拘るよな。
こういうので受けが良くなったりするので無駄とは言わないけどさ。
「「「「「うわー、すごーい!」」」」」
現に妖精組が大喜びだ。
思わず苦笑が漏れる。
「フハハ、どうじゃ妾の真の姿は」
龍の表情なんて分からんが、声からすると御満悦といった様子である。
自慢げに振る舞うだけあってその体躯は翼竜など子供扱いできそうなほどだ。
ただ大きいだけではない。
頭部の角は金色に青い鱗の表面は虹色の輝きを放ち、見る者を魅入らせる美しさも兼ね備えていた。
「さすがは天龍だな」
「主もそう思うか。結構結構、実に愉快じゃ」
シヅカはそうなんだろうけど、龍と知らずに見せられた方は堪ったものじゃない。
「あーあ、立ったまま失神してるよ」
ガンフォールは白目をむいていた。
腰を抜かしてへたり込まなかっただけマシかもね。
「なんと!? それは残念」
「迫力がありすぎてビビったんだろ」
威風堂々とした姿は存在感が圧倒的だからな。
うちの子たちはベリルママたちを知っているから凄いなぁで終わるんだけど。
「仕方のない奴じゃのう」
語る言葉とは裏腹にどこか愉快そうな声音のシヅカである。
「このままじゃ目を覚ましてもまた気を失うだろうから人化しといてくれ」
「うむ」
特にごねることなくシヅカは人の姿に戻った。
途端に妖精たちが群がる。
「おおっ、なんじゃな」
「凄いねー」
「格好いい」
「ピカピカだったよ」
集まってきた時には驚いていたシヅカも褒められていると理解するとデレデレになった。
「そうかそうか」
褒めまくり状態が沈静化してくると質問タイムが始まる。
「どうやって変身するのー?」
ヨウセイジャーのような変身とは違うせいか興味津々だ。
そのうち妖精組も人化の術を使えるようになるかな。
「服は倉庫に仕舞ってるの?」
「倉庫? なんじゃな、それは?」
「亜空間倉庫だよ」
「空間魔法で物を収納したり出したりできるの」
「おお、主が言うておった便利な魔法じゃな。生憎と妾はそれを会得しておらぬゆえ服がどうなっているかは妾も知らぬ」
なんて感じで和気藹々と話をしている。
ちなみに無意識に倉庫を使ってるんだよね。
天然か?
だからといってセールマールの世界で魔法が使えたのはどういうことなんだろう。
龍は封印の対象外とか高レベルだと魔法が使えるとか?
まあ、向こうに行ける訳じゃないから気にしてもしょうがないか。
それよりもシヅカがミズホ国に馴染めそうで良かったよ。
うちの子たちが畏縮してたらオール土下座状態もあり得ただろうし。
ただでさえガンフォールが失神していて面倒なことになっているから負担が少ないのは有り難い。
「起きろ、ガンフォール」
呼びかけながら本日2度目の水バシャッ実行。
「プアッ! 何をする!」
ゲホゴホと咳き込みながら抗議してきた。
「何って失神してたのを起こしたんだが?」
その指摘で赤くなっていたガンフォールの顔が一気に青くなった。
「なんちゅう奴を連れておるんじゃ」
声のトーンこそ低めだがシヅカの真の姿を見てもなお虚勢を張れるとは根性があるよな。
まあ、気を失ってたから格好はつかんけど。
「天龍だけど」
「そういう意味ではないわ」
「けど、これで納得がいくよな」
「何?」
「人間の軍隊じゃ話にならないって言ったろ」
「むう」
唸るガンフォールは納得しかねているのかね。
「シヅカだけだと思っているなら大間違いだぞ」
「何じゃと?」
「シヅカとタメを張る精霊獣だっているし」
「くー」
ポンッと実体化するローズさん。
「うっ」
「妖精組も単独で亜竜を狩る実力があるし」
「むう」
たじろぐガンフォールにもう一押し。
「シヅカを召喚したのは俺だからな」
召喚するだけでなく従えているという事実をほのめかす。
大陸で大暴れした話よりは実感しやすいだろう。
「彼奴らよりもか」
「もちろん」
ガンフォールはガックリと項垂れて深く溜め息をついた。
「ワシの心臓を止める気かよ」
「覚悟を決めてきたんだろ」
こう言われるとガンフォールも弱い。
「わかった、わかったわい。腹をくくったという言葉に二言はない」
「それは重畳」
「煮るなり焼くなり好きにせい」
言うなりガンフォールはどっかりと座り込んでしまった。
読んでくれてありがとう。




