17 新魔法で実験だ
改訂版バージョン2です。
どうも、ミズホ国北部の森林地帯でチマチマと格闘戦をしていたハルトです。
ついにキレましたが、何か?
休みなしのぶっ続けで半日もゴブリンを始末し続けて先が見えない状況だ。
嫌気がさすってものさ。
首都から飛んで来たときは深夜になっても仕方がないと割り切ったつもりだった。
【天眼】スキルで視覚情報を補正できる俺に不便はないからな。
『楽観視していた今朝の自分を殴りたいっ!」
そんな生易しい状況ではなかったのだ。
すでに夜の闇が辺りを支配する時間帯である。
『深夜には終わる?』
オワッテナイヨ。
誰がそんなことを言ったのか。
俺である。
『24時間無休で後5日はかかるっての!』
この労働条件は短期アルバイトとして考えてもない。
これに週休2日をつけてもない。
普通の人間なら2日目でダウンするさ。
『どこのブラック企業よりも酷いだろ』
俺なら能力的には不可能じゃないんだけど。
生憎と機械でも真性ドMでもないんでね。
ゲームの作業プレイみたいなことを120時間もやってられるかっての。
『マジ無理、勘弁』
発生原因は俺自身だから贅沢は言えないんだけど。
でもさ、これって贅沢云々のレベルは逸脱してるだろ?
そんな訳で現在、上空で休憩中だ。
怒りのぶつけ所を探しているとも言う。
狂乱中のゴブリンどもは暴れないよう拡大強化した結界に埋め込んでやった。
【魔導の極み】のスキルがなかったら実行不可能な規模だ。
お陰で熟練度がグングン上昇している。
『魔力もガンガン消費しているな』
魔力の回復が間に合っていないなんて今の俺からすると驚きだ。
まあ、熟練度の上昇に合わせてMPゲージの減りが遅くなっていくんだけど。
そうこうしている間に熟練度がカンストしてMAXですよ。
【才能の坩堝】恐るべし。
『ラソル様に貰ったスキルの種は劇薬だろ』
とはいえ、そんなことを気にしている場合ではない。
ゴブリンを殲滅する手を考えねば。
範囲魔法の行使は環境を破壊するようなものなので論外だ。
火球や水球も連発すれば結果は同じ。
特に火球は炎が飛び散って燃え広がりかねない。
水球にしたってクレーターや折れた木々で倒木だらけになってしまうし。
『なら矢を形成する魔法か』
一般的には最小単位とされているが問題の解決には至らないだろう。
火属性だと火球と同じ懸念がある。
水属性はあの数の血飛沫を撒き散らして周辺を血塗れにしかねない。
魔法の矢と言っても木刀並みの太さだからな。
本物の矢よりも傷口が大きくなってしまうなら派手に肉も血も飛び散るはずだ。
『既存の魔法は話にならないな』
汚染被害を減らすには少なくとも銃弾サイズにする必要がありそうだ。
【諸法の理】で検索したが既存の魔法には術式が存在しない。
『この世界の魔法使いは術式重視らしいが、多様性に乏しいな』
イメージが補助扱いだからか。
過剰なイメージは魔力制御などで集中が乱れるからだそうだ。
故に定型の術式を拠り所にして魔法のイメージを固定化しているという。
『そりゃあバリエーションが増えないって』
まあ、俺が使っている魔法と既存の魔法は手法が根本的に違うからな。
この世界ルベルスで行使される魔法は魔力の制御方法により放出型と内包型に分かれる。
西方人にとって魔法といえば魔力制御が容易とされる放出型だ。
内包型は著しく制御が困難とされていたせいか存在すら忘れられている。
『俺に言わせればイメージが貧困だからこそ魔力制御に失敗するんだけどなぁ』
まあ、放出型は入門用にはいいかもしれない。
その名の通り最初に魔力を体外に展開させるため何割かロスしてしまうのだが。
無駄が多い上に妨害に弱かったりもする。
魔力を放出し体表面に展開。
詠唱で術式を放出する魔力に乗せる。
体表面の魔力で術式の乗った魔力を保持。
術式が長くなる場合は複数の節に分かれている。
ここで息継ぎをするように詠唱からの手順を繰り返す。
最後に定形のイメージを結合させ魔法を完成させる。
放出型の魔法行使の流れはこんな感じ。
時間はかかるが順番通りにやればイメージがあやふやでも失敗はしない。
メリットは簡単なこと、それだけだ。
デメリットは色々ある。
初手で魔力放出するから感知されやすい。
完了までに時間がかかるから隙が多くなる。
イメージは補助扱いのため規模や威力の調節が容易でない。
『その点、内包型はシンプルなんだよな』
体内で増幅させた魔力にイメージを被せるだけだからね。
節なんてものはイメージ力に乏しい者のための息継ぎのようなものなので存在しない。
故にイメージを強く保持できなければ内包型の魔法は発動させられないのだ。
不慣れであれば詠唱で補助することもあるが本来は不要である。
要は如何に明確な空想や妄想ができるかだ。
こういうのが苦手な人間は魔法が使えない。
いや、使えなかったと言うべきか。
かつては内包型の魔法しか存在しなかったのだ。
ある魔法使いが魔法使いを増やそうと開発したのが放出型の魔法である。
ハードルを下げて魔法の基礎を学ばせてから内包型へと転換させようとしたのだろう。
が、あまりにも使い勝手が良すぎたために誰も転換しなくなった。
魔法の使い方がまったく異なることも大きく影響していたと言える。
例えるなら車の運転を覚えてもジェット戦闘機は動かせない。
そんな感じだ。
放出型で魔法の世界に入り道を究めんとする者たちは皆、放出型に傾注していった。
自家用車からレーシングカーに乗り換えるとでも言えばいいか。
ピーキーであるが故に誰でも乗れるようになるわけではないがジェット機ほどではない。
理解すら覚束ない代物より使えるものを選択するのは当たり前のことだろう。
内包型の魔法はそれだけ制御が極端に難しいのだ。
それもこれも空想力次第なんだが。
シンプルであるが故に難易度が著しく高い。
代わりに消費する魔力は少ないというメリットもある。
まあ、昔の魔法使いには些細なメリットでしかなかったようだ。
そのせいで内包型の魔法は失われた技術扱いされているらしい。
存在そのものを知らない魔法使いの方が多いようだしな。
『まあ、それはいいか』
現実逃避の時間は終わりだ。
本来なら無駄な考え事なんだが、少しは気分転換になった。
落ち着けたならリアルのために時間を使う時だ。
銃弾サイズの魔法を作ることに集中する。
ライフル弾を螺旋状にねじった感じのものをイメージした。
弾そのものを回転させ直進安定性と威力を上げるためだ。
むき出しの弾を射出する以上、銃身内のライフリングで回転を加えられないからな。
『ショットガンのスラッグ弾のようなものか』
威力の方は上げすぎると目標を貫通してしまう問題が出てくる。
そこは結界で減衰する分を計算に入れれば問題ないか。
貫通力の解決はネジネジだ。
命中後の抵抗を増やして貫通させないようにする。
うまく調整しないとスプラッタな結果を招く破壊力に変換されてしまいかねない。
『数十万のゴブリンで肉と血を飛び散らせた後の惨状なんてなぁ……』
ならば弾丸は氷にして凍らせるのが良いだろう。
射出は理力魔法を使う。
通常の攻撃魔法と同じようにするより手間は増えるが威力の調節が容易になる。
『さて、仕様はこんなものか』
後は実践だが試射は必要だろう。
まずは1発だけ作ってみる。
失敗したときの後始末が楽だからな。
何か他に問題が出てくるかもしれないし。
『問題なく作成できるな』
氷矢よりも具体的なイメージが必要だったが瞬時に完了。
取り立てて問題点になりそうな部分も見受けられない。
『発射っと』
シュッという風を切る音がした。
次の瞬間には犠牲者第1号の頭部に氷弾が命中。
多少の血が飛び散ったものの頭が丸ごと凍り付いた。
「ほほう、凍結によって弾に強いブレーキがかかるか」
貫通しないのは収穫だったが血が飛び散ったことには不満が残る。
ならば火炎系で蒸発させるかとも考えたが即座に却下した。
単発ならサイズ的に考えても問題ないかもしれない。
だが、一気に殲滅するとなると熱気のせいで周囲に影響が出るだろう。
『下手すりゃ森林火災だ』
かといって水や石では出血を止められない。
弾丸サイズでも穴が空けば血が流れる。
『ならば電撃か』
感電死させるなら、そもそも弾丸は必要ない。
良さげに感じたが致命的な欠陥がある。
避雷針になるようなものがあれば逸れてしまう。
『直接通電させないと……』
「その手があったか」
ワイヤーで突き刺してやればいい。
それくらいなら流血も抑えられるだろう。
しかも地魔法の応用でワイヤーが簡単に作れてしまう。
金属だって鉱物資源だからな。
『こりゃお手軽だ』
試しに数十本の極細ワイヤーを作りながら先程の氷弾に匹敵する速度で伸ばしてみた。
【多重思考】でそれぞれを精密にコントロールする。
直感でこの本数にしてみたが、これが現状でミスなくコントロールできる限界のようだ。
【多重思考】の熟練度をもっと上げないと一気に殲滅するのは無理だ。
【並列思考】だとワイヤーの1本も制御できなかっただろうけど。
現状でも宙に浮きつつゴブリンの位置確認のために広範囲で気配を探っているからね。
ワイヤー制御だけの負荷じゃないせいか【多重思考】の熟練度がじわじわ上がってるし。
『そのあたりを気にするのは後回しだ』
通電の効果を確認しないといけない。
1本だけゴブリンの方へ向かわせる。
ズブブブブブ───────────────ッと軽く百匹は貫通させた。
そして軽めに電気ビリビリ。
不測の事態が起こらないとも限らないのでね。
それでもゴブリンたちは派手に踊った。
まるで出鱈目に動かそうとした操り人形である。
『飛び散りもなさそうだな』
すべて脳天に突き刺しているし、確実にトドメとなっただろう。
格闘より遥かに効率がいい。
『これなら大幅な時短になるな』
おまけに串刺しになっているゴブリンどもを倉庫に格納できた。
ワイヤーを介した状態でも接触扱いになるようだ。
これを試す気になったのはゴブリンの生死が手に取るように分かったからだ。
密集しすぎて見づらいので拡張現実の設定を部分的にオフにしてあったんだけどね。
情報の伝達があるなら回収も可能なのではないかと思った次第である。
『素晴らしいね』
トドメを刺したら即座に回収できるなんて効率がいいなんてものじゃない。
一気に殲滅とはいかないものの俄然やる気が出てきた。
「よしっ、やってやるぜ!」
読んでくれてありがとう。




