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1682 サリュース、焦る?

 輸送機で飛ぶと耳にしたサリュースが首をかしげた。


 何か問題があるだろうか。

 今更ながらにインサ組のことを心配している?


 それでは俺とあべこべになってしまうのだが。

 そんな風に思っていたのだが……


「影渡りで移動した方が速いのではないかな?」


 サリュースが感じていた疑問は別のものだった。

 緊急時なんだし、その方が良いのではないかという提案を含んだ問いをしてくるとはね。


 よく気がつくことだ。

 影渡りの詳細を知らないからこその質問だとも言えるんだけど。


「あれは移動距離が遠くなると迷子になりやすいんだ」


 俺は【天眼・遠見】スキルを併用することで問題なく移動できるけど。

 それは伏せておくべき情報だろう。


「おやおや、そうなのかい?」


「碌に目印もない状態で闇に包まれた樹海を行くようなものだぞ」


「その割には気軽に使っていたように思うのだが?」


「あれは街中だっただろ。

 そういう場所は目印が多いから迷子になりにくいし移動距離も短いからな」


 よほどの方向音痴でもない限りは迷ったりはしない。

 仮に目的地が分からなくなっても街中ならば何の問題もない。

 外の様子を確認するだけで現在位置が確認できるだろうからな。


 見知らぬ土地であったとしても、外に出てしまえば確認手段はいくらでもある訳だ。

 これが遠距離移動中に目標物のない場所で迷ってしまうと最悪である。

 ここは何処状態になってしまうのでね。


 そうなると現在位置の確認だけでも時間を無駄に費やすことになるだろう。

 面倒ったらありゃしない。


「なるほど、なるほど。

 こんな場所で絶対に迷子にはなりたくないのだよ」


 苦笑しながら頷くサリュース。


「うんうん、納得した」


 どうも俺が考える以上に重く受け止めているようだ。

 下手をすると脱出不可能的な発想になっているのかもしれない。

 完全に誤解されているが都合の悪い感じではないのでスルーしておくことにした。


「そういう訳だから影渡りは使わず輸送機で飛んでいく」


 あえて魔法とは言わなかった。

 転送魔法があるから、それを伏せているのを悟られないためである。


 ミズホ国民以外がいる状況であんなのを使うのは余程のことだ。

 今回の一件が一刻の猶予もならないのだとしても使うつもりはない。


 その場合は【多重思考】スキルでもう1人の俺を呼び出して対応するさ。

 直接赴くか自動人形を操って対処するかは、その時の状況によるけどな。


「なるほど、了解した」


 サリュースが影渡りではなく輸送機で飛んでいくことを了承した。

 迷いさえしなければ影渡りの方が圧倒的に早く到着できるんだけどな。


 キースたちからの報告を待つ都合があるので、結果はほぼ変わらないはずだ。

 それならば輸送機の方がいいかもしれない。


「上空で待機させておけばツバイクたちを関わらせずに済むと思う」


 こういう理由からだ。


 同行させた上でアンデッドを見せずに済むのは俺としても助かる。

 パニックを起こされる心配がなくなるからな。


 事情の説明をしなければならないのは変わらないのだけど。

 それについてもアンデッドのことを伏せることは可能である。

 アカーツィエ組については、それでどうにかできるだろう。


 後始末をする都合上、インサ組は事後処理の段階から呼び寄せる必要がありそうだけど。

 そういった細々したことをどうするかはサリュースが決めなければならない。


 おそらく情報制限をかけるために全員を降ろすことはしないのではなかろうか。

 最初に説明する内容も絞り込むものと思われる。

 それに関しては特にどうこう言うつもりはない。

 間違った判断ではないだろうしな。


 ただ、急ぐ理由をどう説明するのかは見物である。


「了解した。

 よろしく頼むのだよ」


「はいよ」


 返事をした俺は潜り込んでいた影の下からサリュースとともに浮上する。

 伝えるべきことは伝えたつもりだ。

 細々したことは現場で話せばいいだろう。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 現在、輸送機で飛行中。

 同時に晩ご飯も出来合いのものを食べていたりする。

 悠長に作っているとサリュースに急かされそうな気がしたからな。


 言葉にはしなくても間近でそわそわされたんじゃ落ち着かないったら。

 忙しない状況で作っても御飯はおいしくならない。


 ちなみにメニューはお好み棒だ。

 四角いお好み焼きを細長く切って食べられる包装紙Pシートで包んだものである。

 インサ組もアカーツィエ組もわいわい言いながら食べていた。


 御飯に釣られたのか空を飛んでいるという意識は薄いようである。

 晩ご飯は少し遅めになってしまったし空腹に気をとられたというのもあるかもな。

 それでもノーム法王国での状況を知っていたらそれどころではなかっただろうけど。


 そう、彼らはまだ何も知らない。

 促されるままに輸送機に乗り込んで格納庫内でお好み棒を配られて今に至る。


 結局、サリュースは何も説明しなかった。

 タイミングを逸したとかではない。

 乗り込む際はインサ組に有無を言わせなかったからな。


 ミズホ組が空気を読んでそれに続けば必然的にアカーツィエ組もって訳だ。

 何も言わなければ誰も態度に出すことはない。


 伝える相手を限定して箝口令を敷いたとしても情報漏洩の阻止は困難だ。

 情報を知る者たちが言われたとおり口を閉ざしても何かしら伝わってしまうものはある。

 今回のような状況で焦りや怯えを感じるなと言うのは無理があるからな。


 勘のいい者たちであれば空気で察するのは目に見えている。

 具体的なことは分からなくても、そういう空気は伝染しやすい。

 何かの切っ掛けでパニックを起こす恐れも無いとは言えない訳だ。


 だとすると、サリュースの選択は間違ってはいないのだろう。

 側近の者たちからは何があったのかと問われ続けていたけどな。

 それを女王陛下の御言葉で強引に封殺しているのが現状だ。


 皆も何か重大事があると認識したようだが、動揺は大きくなっていない。

 鶴の一声って感じで黙らせなかったのが功を奏しているのだろう。

 問題の先送りにすぎないと言われてしまうと返す言葉もないとは思うが。


 そうこうするうちに、もぐもぐタイムは終了した。

 速度調整したのでタイミング的にはノーム法王国が近づいてきている。

 とはいえ今回は壁面モニターで外の様子は見せていない。


 俺は【天眼・遠見】スキルで確認できるが、インサ組やアカーツィエ組には無理だ。

 ミズホ組はスキル以外にも見る手段があるけどな。


 スマホのアプリを使って輸送機のセンサー類と同期させる方法だ。

 これによりカメラの映像をスマホで確認できる。

 何人かは今も実際に網膜投影させて見ているらしい。


 まあ、暇つぶしにはなるか。

 最終的にはアンデッドどもを目撃することになるのだけど。

 あんまり気分のいいもんじゃないよな。


 何にせよミズホ組でなければできない方法だ。

 なので部外者に状況を知られる心配はない。


 壁面モニターを操作できるなら話は別だけど。

 ミズホ国民以外に操作権限は与えられないので、それはない。


 とにかく見せないことは最初から徹底させていた。

 輸送機のことを知らないから誰も何も言わない。


 これが壁面モニターで飛んでいるところを見せていたら、どうなっていたことか。

 到着後に法王国の様子が確認できない状態にすると皆を不安にさせかねないからね。

 だったら最初から見せないのが一番である。


 あと、移動速度を誤魔化すのにも役立っている。

 キースの報告を待ってから降下するつもりなので既に速度調整に入っているんだよね。


 外の景色を確認できなきゃ移動速度も分からない。

 たとえ急加速や急減速をしてもGはほぼ感じられないようになっているからな。

 荷物をより安定させて運べるようにマイナーチェンジを繰り返した成果である。


読んでくれてありがとう。

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