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169 朝食での語らい

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。

 俺たちはガンフォールの私室で部屋の主と朝食を取っていた。


「お姫様はおそらく明日の夕方あたりに到着するだろう」


 エリスはハマーが対応しているそうでこの場にはいない。

 王女が来るまでは接触を最小限にしようとしているのだとか。

 ゲールウエザー王国サイドから変な勘ぐりを入れられないためということらしい。


 俺らが接触していたか否かをどうやって向こうが知ることができるのか。

 同族意識の強いドワーフしかいない国でスパイが潜り込める訳ないだろうに。

 しっかりしているようで肝心な所で抜けている残念な爺さんである。

 お陰でシヅカを連れての外出もしやすかったし助かってはいるけどね。


「それも予言か」


 何故だかガンフォールには呆れられてしまった。


 ああ、誤解されてしまったか。

 予言めいてしまったのは否定できないよな。


「違う違う、これは予言じゃなくて推測だ」


「なんじゃと?」


 丸っきり訳が分からんという顔をするガンフォール。


「王女の現在位置とおおよその移動速度の情報を得たので計算したってことだ」


 頭を振られてしまった。

 解せぬ。


「計算は良いとしても、どうやって情報を得るかが問題じゃ」


「そうか?」


「あの自動車とかいう常軌を逸した乗り物よりも奇怪であろう」


 常軌を逸したって……

 これで飛行機とかヘリコプターとか見せたらどうなるんだろうな。


「聞く覚悟はあるんだな」


「腹をくくったと伝言を頼んだはずだがな」


 ドワーフは腹を据えてこうと決めるとなかなか曲げないから二言はないか。


「じゃあ、これやるよ」


 ポンとケータイを放り投げる。

 落としたらどうするという話もあるだろうが、心配無用。

 衝撃吸収の術式くらいは組み込んでいるさ。

 もっともガンフォールが取りこぼすなんてヘマをするはずがない。


「なんじゃ、これは?」


「それはケータイ。離れた相手と話したり文字を表示させてやり取りをする魔道具だ」


 真剣さと怪訝さを織り交ぜたような顔をしてマジマジと観察するガンフォール。


「そのままだと待機状態だから使えないぞ」


「どうするんじゃ?」


「まずはスライドさせる」


「スライドじゃと?」


 言葉で説明しても伝わらんか。

 どのみち通話の実演もする必要があるから、もうひとつ引っ張り出した。


「こうだ」


 言いながら上下にずらす。

 それを見たガンフォールが真似をした。


「うおっ」


 大袈裟に仰け反ったな。


「表面に絵が浮かびおった」


 待ち受け画面になっただけなんだが、初めてだと驚きもするか。


「数字が真ん中に並んでおるな」


「それは現在時刻だ」


「なんと、【時計】スキルもなしに正確な時刻がわかるのか」


 驚くポイントが微妙すぎる。


「それはケータイの補助機能でしかないぞ」


 ガンフォールが言葉を失っている。

 ここから先は契約しないと使えないんだけど、このまま使わせても説明通りに扱えるか怪しいな。


「ツバキ、ハリー、俺が解説するからどう使うか見せてやってくれ」


「心得た」


「はい」


 うちの面々には朝食前に渡してある。

 動画でケータイやスマホを見慣れているからシヅカ以外はすぐに使いこなしていた。

 要は慣れの問題だ。


「こうやって数字のボタンを押していくと上の画面に表示される」


 シヅカにも見せるためにツバキがボタン操作しているのを幻影魔法で拡大表示させて解説する。


「うん? 何の意味があるんじゃ?」


「各ケータイにはそれぞれ番号が割り当てられているんだよ」


「それを指定するための入力、じゃったか」


 やや心許なげな口ぶりでシヅカが補足してくれた。


「そうだ」


「うむむ」


 ガンフォールは真剣な面持ちで食い入るように幻影を見ている。

 何がどうなっているのか次に何が起きるのか分からないからこそ、ついて行くのに必死なんだろう。

 初めてじゃ仕方ない。


「番号を入力し終わったら通話ボタンを押す」


 RRRRRR


「なんじゃ、鈴の音か」


「着信音だよ。ハリーの手元を見てみろ」


 俺に促されてガンフォールが視線を向ける。


 RRRRRR


「ふむ、その魔道具から鳴っておるのか」


「これが指定した相手を呼び出している状態だ」


「呼び鈴のようなものじゃな」


 間違ってはいない。


「このまま終わるならな」


「なんじゃと?」


 ここで俺はツバキに電話を切らせた。


「今度はハリーに電話をかけさせよう」


 ツバキには部屋を退出させる。


「これでツバキにはここで話していることが分からないはずだよな」


「うむ。ここは厳重に防音しておる」


「ところが、だ」


 ハリーに目で合図を送って電話をかけさせた。


「ツバキ、部屋に戻ってください」


 ハリーの言葉にガンフォールは訝しげな視線を向け困惑していた。

 ケータイを持つ仕草に対してもかもしれないが、それは本人にしか分からんな。


 ツバキがドアを開けて戻ってきた。


「なんとっ?」


「電話で会話したからだよ」


「ううむ」


 ガンフォールは唸り声を上げるが初めての反応としては穏当な方か。

 にわかには信じ難いのだろうけれど俺がウソをつくとも思えないといった具合に見える。


「実際に使えば分かるさ」


「ぬう」


 やや及び腰な反応だったが拒絶的ではなかったのでそのまま進める。


「まずは占有の契約だ」


 とは言っても書類を書いたり身分証を見せてお金を払う必要はない。


「どうするんじゃ?」


「画面に血を一滴垂らすだけでいい」


「ワシ専用になるということか」


 言いながらガンフォールは小さいナイフで指を切って渡したケータイの画面に血を垂らした。


 垂らした血が画面に吸い込まれていく。


「これで、そのケータイはガンフォールの物だ」


「ワシ以外は使えんということじゃな」


「ああ」


「それは分かったが先程の説明だけでは何がなにやらじゃぞ」


「分かっている」


 通話しか説明していないし、それも1回きりで使いこなせるようになるとは思っちゃいない。


「これマニュアルな」


 そう言いながらガンフォールの机の上に置く。


「おい」


「後でよく読んでおいてくれってことだ。俺たちが帰ったら使えませんじゃ意味がないからな」


「むうっ」


 ガンフォールが唸っている間に電話をかける。


 RRRRRR


 今度はガンフォールのケータイが鳴った。


「おわっ、行き成りかっ」


 文句を言いつつも使用例を見せていたお陰で着信操作もちゃんとできた。


「『これでいいのか』」


 耳元にケータイを押し当てて憮然とした言い方をしてくるガンフォール。


「電話を受けた時は、もしもしって言うもんだ」


「『おぉっ、コイツから聞こえる』」


「コイツじゃなくてケータイな」


「『本当に聞こえおる。凄いぞ!』」


「だから通話と文章のやり取りができる魔道具だって言ったろ」


「『ううむ、そうじゃったな』」


 そこから先は朝食どころではなかった。

 ほとんど食べ終わっていたから別にいいんだけど。


「詳しいことはマニュアルを読むべし」


「分かった」


 俄然やる気が出てきたのか分厚いマニュアルを手に取るガンフォール。

 パラパラとページをめくり──


「なんとっ!?」


 驚きをあらわにしたかと思うと釘付けになっていた。

 ケータイ片手に漫画式のマニュアルにのめり込んでいるドワーフってのも珍妙だな。

 まあ、中身はマンガが大半なんだけど。


「これは面白いのう。絵が多くて文字が少ないのに分かり易いとは思わなんだわ」


 ようやくマニュアルから顔を上げたガンフォールがこちらを見てニヤリと笑った。


「かように便利なものがあれば情報を得るのも容易いという訳じゃな」


 漫画とケータイの操作に夢中になりながらも本質を突いた話をしてくる。


「そういうことだ」


「王女の到着も予測できるのも頷けるわい」


 そう思ってもらえるなら好都合か。


「あと俺が何処から来ているかという話だが」


「おお、それじゃ。皆目、見当もつかんかったわい」


「遙か東の果ての島国だよ。飛び地として南方の島も持ってるけど」


 返事どころかうめき声すら聞こえてこない。

 カクーンと顎が外れたように大口を開けている。

 目の前で手をヒラヒラさせても反応がなかったのでコップの水をぶっかけた。


「ぶはっ! 何をしおるんじゃあっ!!」


 当然、顔を真っ赤にして怒る訳だが。


「俺も辛抱強く待ってられんのよ」


「む、何か用事があるのか?」


「今日はうちの子たちの様子を見に行くつもりだからさ」


「相変わらず忙しないのう」


「なら、ここで話をやめておくか」


「聞かせてもらおう」


 何故か鼻息が荒い。

 それどころか勢い込んで一方的に喋り始めた。

 大山脈の東側が如何に危険で人跡未踏の地であるのかとか。

 南方の島とは魔族の巣窟とも語られる伝説の島ではないのかとか。


 こっちは呆気にとられるくらい早口だったな。


「どうなんじゃっ」


 ズズイと顔面ドアップで迫ってくる。

 むさ苦しい髭面ジジイに迫られても嬉しくないっての。


「わかったから離れろ」


 ガンフォールを押し退けるもガルガルと威嚇する犬のようで落ち着きがない。

 子供かよ。


「ワイバーンは雑魚だし魔族なんかいない」


「雑魚じゃとぉ!?」


 今朝のガンフォールは大口を開けてばかりだ。

 が、説明はこれからなんだよな。

 例のごとくレーヌ儀で説明してから海に出て惑星レーヌが丸いってこともちゃーんと理解してもらいましたよ。


「心臓に悪すぎる」


 というのは一瞬で移動したことを言っているのではない。


「なんじゃっ、あの化け物は!?」


「ジャイアントシャークって海の魔物」


「そういうことを聞いておるのではない!」


「鶏のササミみたいな肉質で旨味があってフライなんかにすると絶品なんだぞ」


「だからっ、どう見ても亜竜に匹敵する魔物ではないかっ!」


「シヅカが軽く仕留めただろ」


 水魔法で掴み上げて脳天を蹴り割るという瞬殺ぶり。

 亜空間倉庫の魔法を知らなかったシヅカは「主に献上するのじゃ」と笑っていた。


「出鱈目もいいところじゃな」


読んでくれてありがとう。

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