1674 森林が集団行動?
なんだかんだで結構な時間を使ってしまった気がする。
いや、既に日が暮れかけているので実際にロスした時間は長いだろう。
……今更だけど地下でホバークラフト列車を使った方が良かったかもな。
全容が把握しづらいから現状ほどビビられたり驚かれたりはしなかった気がするからね。
輸送機をお披露目するにしても段階を踏むべきだった。
空を飛ぶことに対する拒否感を軽視していたのは反省すべきであろう。
だからといって、ここまでしたからには方針は変更しない。
無駄にロスする時間を余分に増やすだけだからな。
本当に今更な話ではあるのだけれど。
うむ、これにて反省終了。
そんな訳で、あとは植生魔法で木々を動かしていくことになる。
場所を確保するためには必須なんだが、インサ組の反応に不安の残るところではある。
何度も言うようだが、ここまで来て中止はできない。
腹をくくって仕上げにかかるのみだ。
「位置について!」
植生魔法をかけられた木々が、わずかに傾きつつ沈み込んだ。
「「「「「っ!」」」」」
またもビクッとされた。
が、少しは慣れたようで激しさの感じられないものになっている。
「それぞれの方向へ進め!」
ザッザッと根っこを上下に揺らしながら四方八方へと木々は広がっていく。
気分は集団行動だ。
縦横無尽に動いたり交差したりなんてことはさせないけどね。
動画とかで見た集団行動に比べれば歩みも格段に遅いし。
キビキビした感じに見えないのは言うまでもない。
それと近場では動きをそろえているが場所によっては変えている。
方向とか速さとかね。
何処までも広がる均一な森林に見えるけど密度は場所によって変わるからな。
中には狭いながらも開けた場所だってあるし。
逆に鬱蒼とした感じになっている所もある。
そういうのを計算に入れて微妙に調節しているのだ。
樹木だけではなく草花も動かしていたりするので割と面倒だったりするけど。
そこは仕方あるまい。
で、見物している面々の反応はというと……
「「「「「おぉ──────────っ!」」」」」
今度はビビるのではなく感心されてしまいましたよ。
多少なりと工夫した甲斐はあったようだ。
「奥から順に止まれ!」
指示通りに止まっていく森林の木々。
「「「「「おお……」」」」」
動き始めた時ほどではないものの感嘆の声が漏れ聞こえてくる。
それだけ整然とした動きに見えたのだろうか。
「休め!」
停止した時は直立っぽい感じだった木々が元の状態に近い状態になる。
具体的に言うと、浮き上がっていた状態から元の高さに沈み込んだ訳だが。
ただ、これで終了という訳ではない。
「定着!」
これで周囲の地面を固めないとグラついてしまうからな。
まあ、最後のは何なのか熱心に見学していた面々には分からなかったようだけど。
そこまで説明する必要もあるまい。
要は論より証拠ってのを見せて納得させられればいいのだ。
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確保した場所にバスを乗り付けて降車する。
「確かにあの広大な範囲からすると狭い場所なのだよ」
確保された広場を見てクックックと喉を鳴らして笑うサリュース。
「そんなに面白いか?」
ちょっと理解しづらい。
笑える要素が何処にあるのか俺にはサッパリだ。
かといって馬鹿にされたから笑われているようにも思えないし。
当然、腹が立ったりはしない。
サリュースを見ても嘲る感じは微塵も感じられないもんな。
当人は開けた場所を見ながらも別の何かを見ているような雰囲気がある。
これは、先ほどの光景を思い出しているのだろうか。
集団行動的に魔法を使ったから反芻して余韻に浸っているとか?
見ようによっては面白いのかね?
インサ組とかは最終的に驚きと感動が入り交じった感じになってはいたけど。
サリュースも感動している風ではあるけれど似て非なるものなんだよな。
インサ組は驚きがメインだから笑うって雰囲気はないのだ。
逆にサリュースは楽しさが体全体からにじみ出ているので笑顔が絶えない。
感じ方は人それぞれだと思うが、サリュースの方が理解しづらいものがある。
「おやおや、本気かい?」
意外だと言わんばかりに目を見開いたサリュースが俺をまじまじと見てきた。
「何がだ?」
サリュースの言いたいことが分からん。
「あれだけのすさまじい魔法を使っておいて淡泊だねえ」
クックと喉を鳴らしてサリュースは笑う。
「何よりもまず、そこが痛快じゃないか」
「は?」
意味不明だ。
「何処が痛快なんだか。
結果に拍子抜けしていただろう?」
俺の返事にサリュースがキョトンとした顔になった。
だが、それも束の間。
次の瞬間には大声で笑い出していた。
「ハハハハハハッ!
何を言い出すのかと思えば、そんなことかい?」
「悪いかよ」
「悪くはないが、結果など実に些細なことなのだよ」
過程が大事なのかよ。
ますます意味不明だ。
特にそんなものが必要になるようには見えない。
「本当に君は底なしだねえ」
頭を振りながら言われてしまった。
「考えてもみたまえよ。
あれだけの魔法を個人で行ったのが、まず奇跡的じゃないか」
儀式級の魔法として見られてしまった訳か。
そこは仕方のないところだとは思う。
「それなのにハルト殿は消耗したようには見えない」
「……………」
失敗したな。
確かにサリュースの言うとおりではあるんだけど。
MPゲージなんてとっくに回復しているからね。
ただ、そのあたりの配慮に欠けていたのが問題だ。
これでは痛快だと思われても仕方がなかったみたいだね。
周囲の反応を見てみると、サリュースの意見には賛否両論のようではあるが。
ビビらない方がどうかしているという目を向けてくる者。
畏怖の念は抱いているものの同意できると小さく頷く者。
手放しで賛同する者はいないみたいだけどね。
少なくともサリュースのように純粋に笑っていられる者はいない。
引きつった感じの笑みとか苦笑は見られたけど。
前者はインサ組、後者はアカーツィエ組に多かった。
慣れの問題はここでも浮き彫りになった訳だ。
「そんなこと言われてもなぁ」
としか答えようがない。
下手なことを言うと、どんなカウンターパンチが飛んで来るやら。
「平然としているのが凄いじゃないか」
凄いと笑えるっていうのか?
呆れをにじませた感じでなら分からなくもない。
が、サリュースの笑みはそういう類いのものではなかった。
でなきゃ痛快なんて言葉は使わないだろう。
「しかも結果がこれなのだよ?」
今頃になって呆れと諦観をない交ぜにしたような嘆息を漏らされましたよ。
ただし、それもほぼ瞬間的なものであった。
サリュースの顔には笑顔が戻っている。
本当に楽しいと感じているようだ。
豪放磊落とはこのことかと思わせられたさ。
「言ったろう。
確保する場所は狭いと」
「いやいや、それはそうだけどね」
サリュースはやや苦みのある笑みを見せた。
楽しげな空気がずっと放出されたままなので微苦笑ともまた違う感じだ。
面白さが勝るが呆れも含まれるといったところか。
「だからこそ愉快なのだよ?」
「訳が分からんよ」
広大な範囲で魔法を使って平気なのが痛快というのは分からなくもない。
派手にぶっ壊した訳じゃないけど爽快感のようなものがあるのだろう。
木々の動きも整然としていて圧巻だったろうしな。
現に残ったミズホ組も楽しんでいる感じで見ていたし。
カエデやオセアンは、まあ推して知るべしな状態だったけどな。
特にオセアンは度肝を抜かれた感じになっていた。
腰を抜かさなかっただけマシと言えるとは思う。
程度の差はあれカエデも驚いていたし。
両名には早めに慣れてほしいものである。
ミズホ国の常識にね。
読んでくれてありがとう。




