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1671 見せるしかないようで

 空を飛ぶ手段が魔物以外にあると指摘を受けたサリュースが顎に指を当てた。


「とすると……」


 呟きながら考える仕草を見せる。


「うーん、それしかないような気もするけど……」


 唸りながら自問自答しているようだ。


「さすがに空を飛ぶのは容易ではないと思うんだが」


 何か問題があるらしく簡単には考えがまとまらないようだ。


「いやいや、ハルト殿ならどうにかしてしまえそうなのだよ」


 結局は強引に結論づけるつもりのようだ。

 果たして、どんな答えなのかと思っていたら──


「このバスのように空を飛ぶ魔道具というのが正解かな?」


 疑問形ではあるものの一発で正解を言い当てた。


「ああ」


 見事なものだと思ったさ。

 一度、枠の外側があると気づいてしまえば内側に固執することなく即応できるのだから。


 普通はそう簡単なものじゃないんだけどな。

 あれだけ熱を入れて考え込んでいたんだし。


 それでいて当人は気にした様子もない。

 できて当たり前だと思っているのだろう。

 いや、まるで意識すらしていないのかもな。


「それはそれは、実に興味深いものなのだよ」


 うんうんと頷きながらサリュースは笑みを深めた。

 とにかく切り替えが早いのは確かだ。

 こちらとしては大いに助かるところなので不服などあろうはずがない。


「地を駆けるのは車輪があれば事足りるのは証明してもらったが……」


 ここで一息ついたサリュースは、ひとしきり思案する様子を見せた。


「空を飛ぶとなると……」


 真剣に考え込んでいるサリュースを待つことしばし。

 しかしながら答えは思いつかなかったらしく、肩をすくめた。


「皆目、見当がつかないねえ」


 とか頭を振りながら言っている。


 が、その口ぶりとは裏腹にサリュースは実に楽しそうにしていた。

 そこだけ切り出して見たのであれば、到底謎が深まったようには見えないんですがね。


 空を飛ぶ興味の方が大いに勝っているということか。

 ドラゴンに対する興味ははそれよりも上であったみたいだけどな。


 次点で空飛ぶ魔道具といったところなんだろう。

 ワクワク顔がずっと維持されたままだ。


 普通なら過度な期待をされるのは困りものなんだが、今回に限ってはありがたく思う。

 この様子なら輸送機で飛ぶことに拒否感を感じたりはしないだろうからね。


 問題があるとすれば、輸送機のサイズに驚かれるかもしれないことくらいだろうか。

 バスより大きいものが空を飛ぶと知ったらねえ……

 何にせよ現状のサリュースはこれ以上ないくらい御機嫌だった。


 そして、既に空を飛ぶ気になっている。

 でなければ説明が付けられないほどの浮かれようを見せているもんな。

 まるで遠足を楽しみにしている園児を見ているかのようだ。


 え? 一国の女王に対して園児はないって?

 まあ、失礼な話ではあると俺も思うんだけどさ。


 そういう無邪気さを感じるんだから、しょうがない。

 背後にウキウキという書き文字が見えるんじゃないかって錯覚しそうになったほどだ。


 空飛ぶ魔道具の存在を知っただけで、この状態ってちょっと考えられないよな。

 まだ見ぬ姿を想像してのこともかもしれないけど。

 それにしたってねえ、というくらい全身からはしゃいだ気持ちが噴出している。


 飛んで行く気になっていると断定しても誰も否定はすまい。

 水を差すようだけど、まだ輸送機で飛んでいくと決まった訳じゃないのにな。

 それどころか輸送機を見せてすらいないんですが?


 この調子だと見せないと言ったらヘソを曲げられてしまいそうだ。

 ただ、今の何も見せていない状態でこのテンションなのが怖いところである。

 輸送機を見せたが最後、乗せて飛ばないことには引っ込みがつかない気がする。


『……………』


 なんとなく、輸送機にへばりつくサリュースの姿を想像してしまいましたよ。

 そういうことをするキャラじゃないんだけどさ。

 妙に頭にこびりついてしまっているのは現状がこんなだからだろう。


 一方で側仕えの面々の反応は様々だった。

 一番多いのは不安そうにしている者たちだろうか。

 次いで困惑顔を見せている面子が残りの大半を占めていた。


 メイドたちの大半は前者の状態である。

 護衛の騎士たちの中にもそこそこの割合でいたりするので無理からぬところか。

 若い騎士に多いように見受けられるのは人生経験の差なのかね。


 あるいは、いい年をした大人がみっともない姿は見せられないと意地を張っているのか。

 それでも平然としている者は1人としていない。


 どうにか平静を保っているように見せようとしている騎士たちの隊長とか。

 同じくサリュースの直近に控えている執事然とした爺さんとか。

 結構、頑張っているとは思うんだけどね。


 立場上から容易には動揺できないという自負があるのだろう。

 今朝から今までの間に動揺しまくっているので今更感はあるけれど。


 何にせよ頬を引きつらせているので内心はお察しというものだ。

 女王陛下は平然としているのに配下の者たちがこれとはねと嘆息したくなった。

 それでも拒絶的な様子を見せる者はいなかったので一安心ということにしておこう。


 まあ、実際に飛ぶ段になってどういう反応を見せるかは分からないが。

 とりあえず見せるくらいはできそうだ。


 そんな訳で準備を始める。

 まずは人目につかないあたりで街道をそれていく。

 念のために幻影魔法を使ったので目撃される恐れはあるまい。


 逆に幻影の方で噂になるかもな。

 馬なしの巨大馬車が幻のように消えたとか。


 そこはしょうがないと思う。

 何時までも幻影魔法を維持している訳にはいかないからね。

 割り切るしかないだろう。


 むしろ、そちらで噂になった方が都合がいいかもな。

 道をそれていって消息を絶ったなんて噂が出たら、嗅ぎ回る輩が出ないとも限らない。


 まあ、嗅ぎ回っても何も出てこないけどさ。

 それでも念には念を入れておかないとな。


 バスの噂はあちこちで出回り初めているみたいだし。

 今回のことで巨大幽霊馬車として噂が広まれば面白いことになりそうだ。


 バスの噂に対する信憑性が下がったり。

 噂に色々と尾ひれがついたり。

 それこそ空を飛んだなんて噂も出てくるかもしれない。


 でたらめな話が広まれば強欲な連中などは歯牙にもかけなくなるだろう。

 絶対ではないだろうけど、多少の虫除け効果は期待できそうだ。


 ちなみに使ったのは幻影魔法だけでは無い。

 バスが走った時に出る土煙は街道をそれると酷くなるからな。


 そんな訳で地魔法を使って土煙が上がらないようにした。

 ついでにタイヤの痕跡が残らないようにもね。

 まあ、これくらいはして当然だろう。


 こんな感じで姿をくらましつつ街道から見られないような場所へGO。

 輸送機を隠せる小高い丘とかあれば充分だ。


 街道からそこそこ離れた場所にそういう場所を見つけたので、そちらへ向かう。

 この丘陵周辺に幻影魔法をかけておけば、見られる心配もないだろう。

 斥候型の自動人形に丘の上で監視させれば更に安心感が増す状態になる。


 あとは丘の向こう側に輸送機を離着陸させられる相応の広いスペースがあれば……


「なんてこったい」


 森が広がっていましたとさ。

 バスで入り込めないくらい密な森。

 某通販サイトの名前を思い出すくらいに広大だ。


 これでは輸送機を離着陸させられる場所がない。


「アハハ、ハズレー」


 楽しげに笑ったのはマリカだった。

 マイカではなくマリカである。


 念押しするのは大事なことだからだ。

 それだけで印象が大きく変わるからな。


 具体的に言うと癒やし感が全然違う。

 マイカもデレている時は癒やしがあるけど、意地悪モードの時は小悪魔っぽいからな。


 マリカは常に癒やしの存在である。

 狼モードの時はモフモフだし。

 人化している時も子供らしいかわいさがある。


 自分に子供ができればこんな感じかなと思うんだが、どうだろう?

 そのあたりは将来のお楽しみってことで。


 そんな訳で俺はマリカの頭をなでる。

 モフモフとは違うが、これも癒やされる感触があるのだ。

 YLNTな紳士たちからは「ノータッチだ!」と指摘されそうだけどな。


読んでくれてありがとう。

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