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1670 正解はドラゴンじゃないですよ?

 サリュースに答え合わせを急かされましたよ。

 自分の答えが正解かどうか気になってしょうがないのだろう。


 もしもドラゴンで空を飛べたならとか考えていそうだな。

 夢のある話という点においては同意しよう。


 が、実際に乗ればどうなんだろうね?

 おそらく乗り心地とか良くないと思うんだけど。


 だってモフモフじゃないんだぜ。

 ゴツゴツの鱗だからな。


「残念だけどドラゴンで空を飛ぶってのは不正解だ」


 俺がそう言うと一斉に安堵の吐息が漏れ聞こえてきた。

 サリュースの側近たちからなのは言うまでもない。


「おやおや、残念だね」


 逆にサリュースは残念そうに嘆息していたが。

 カーターに通じる空気を持っているよな。

 これで食い意地が張っているならクラウドを想起したことだろう。


「少し期待していたのだが」


 女王の言葉に側仕えの者たちが震え上がる。

 皆が皆、勘弁してくれと無言で語っていた。

 アカーツィエ組がサリュースの言葉に小さく頷いて同意していたのとは対照的である。


 あまりにもギャップがありすぎて思わず苦笑が漏れてしまったさ。

 ただし、これはミスだったと言わざるを得ない。


 笑うのも時と場所を選ばねば、あらぬ誤解を生む恐れがあるからね。

 今の笑いがまさにそれだったのだ。

 俺としてはインサ組とアカーツィエ組の反応のギャップに苦笑したつもりだった。


 が、そうとは受け止められない者がいた。

 サリュースだ。


「笑うことはないだろう」


 ジト目で抗議されてしまったさ。

 自分が笑われたと思ったのであろうことは明白である。


 少し恥ずかしそうに頬を膨らませ気味にしているのが子供っぽい。

 そこを指摘すると、更に不満度が上がりそうなのでスルー推奨である。


「サリュースを笑ったんじゃないさ」


 強調すべきはこれだろう。

 あんまり必死になると嘘くさくなるので【千両役者】スキルで調整しておいた。


「じゃあ、何なのかな?」


 ジト目の度合いが弱まったものの、完全に消えてはいない。

 ちゃんと説明をする必要があるようだな。


「国民性の違いってのを目の当たりにしたから笑えたってところだ」


 サリュースが怪訝な表情をした。


「よく分からないな」


 困惑しながら返事をしてきた。

 サリュースは自分が対象だという思い込みを残しているみたいだな。


「周囲の反応に極端な温度差があったってことだよ」


 ここまで言えば、さすがに分かったようだ。


「あー」


 サリュースが側近たちの方をチラ見してからアカーツィエ組へと視線を向けた。

 釣られるようにしてインサ組がそちらを見た。

 そして、驚きをあらわにする。


「そういうことか」


 サリュースが苦笑した。

 それに対し側仕えの面々は信じられないといった面持ちでアカーツィエ組を見ている。


 まあ、仕方あるまい。

 自分と真逆の反応をする相手というのは誰しも信じ難い思いをするものだ。

 知識や経験を深めていれば、ある程度は理解もするだろうけど。


「そういうことだ」


「ドラゴンでないというのは良かったかもしれないなぁ」


 ちょっと耳を疑うような言葉を聞いてしまったかもしれない。


「そうか?」


 サリュース自身は期待していただろうに。


「そうとも、そうとも」


 大きく頷くサリュース。


「ドラゴンで空を飛ぶと言ったら強硬に反対されたかもしれないからね」


 サリュースはそう言って諦観を感じさせる溜め息を漏らした。


 確かにそうかもな。

 ドラゴンで空を飛ぶのが正解だった場合は拒絶反応が凄いことになった気がする。

 違うと分かった時の安堵ぶりを見ればね。


「結果が同じならば、空を飛べる可能性が残っている方がいいのだよ」


 つまり、サリュースは飛ぶことを所望しているって訳だ。

 今の口ぶりからすると熱望していると言った方が良いのかもしれない。


「ドラゴンでないとすると、他の大型の魔物だろうか?」


 サリュースが再び考え込み始めた。


「空を飛んで使役可能……」


 ブツブツと独り言を呟いている。


「それでいて、この人数を運べる……」


 脳内検索で絞り込みをかけているようだ。


「うーん、そんな魔物いたかな?」


 大いに首をひねっているあたり、本気で考えているようだな。

 あと、大いにリラックスしているからこそでもあると思う。


 こんな油断しきった姿を見せて大丈夫なんだろうかと側近たちの方を見たら……

 ほとんどの面子が諦めの表情でサリュースを見ていた。

 それ以外の者たちは、あえてといった感じで無表情になっている。


 いずれの反応も見慣れた光景であることを物語っているように見えましたよ。

 だとするなら深く追求することもあるまい。

 素知らぬふりで話をするのが吉だろう。


 問題はサリュースが聞く耳を持ってくれるかどうかだ。


 とにかく、俺は考えを巡らすサリュースに割り込みをかけるべく話しかけることにした。

 今のままだと答えには辿り着く見込みがないもんな。


 ちょっと固執しすぎなのだ。

 枠を狭めると、その外側にあるものは見つけられないというのに。


 まさかとか、もしかすると、などのような思考の転換が見受けられないのは残念である。

 どれだけ必死に考えても枠の外側に目を向けられないとどうにもならない。


 問題はサリュースの熱の入れようだ。

 考えることに集中するあまり周囲に目が行き届かないと話しかけても無駄に終わる。


 さて、今のサリュースはどうなのだろう?

 結構ドキドキするよな。


「ひとついいか?」


 内心は【千両役者】スキルを使って表出させないようにした。

 こちらが落ち着いていなければ、向こうの熱は冷めないだろうしな。

 まあ、表面上だけなんだが。


 内側ではドキドキしっぱなしである。


「何かな、ハルト殿?」


 サリュースがすぐに応じてくれた。

 ちょっとホッとしましたよ。

 聞く耳は持ってくれるようなのでね。


 深く考え込んでいるならシカトされるかと思ったのだが。

 あるいは助言は不要と言われることも考えていたので助かったさ。

 意固地になられても時間を無駄に消費するだけだからな。


「固定観念にとらわれすぎているぞ」


 ドキドキしたり安堵したりはスキルで封印しつつサラッとした感じで指摘する。


「ふむふむ」


 頷きながら話を聞いたサリュースは──


「固定観念ね」


 そう呟きながら思案顔になる。

 考えることしばし。


 だが、すぐに首をかしげてしまった。


「ちょっと分からないな。

 ハルト殿、どういうことだろうか?」


 サリュースが問うてくる。


 聞く耳はあったが、俺の指摘を受けても見当はつかないようだ。

 枠の内側がすべてだと思い込んでいるんじゃ無理もない。

 だからこそ固定観念にとらわれていると言えるんだろうけど。


「空を飛ぶ手段を魔物に限定して考えているところだ」


「っ!?」


 サリュースは俺の言葉に驚きが強めのキョトンとした表情を見せた。


「なんと、そのような……」


 そして呆気にとられて固まってしまう。

 次の瞬間には笑顔を見せていたけれど。


「アッハッハ! それは確かにそうだね」


 これほど愉快なことはないと言わんばかりに呵々大笑してみせた。


「いやいや、盲点だったのだよ。

 魔物以外も検討するべきなのは少し考えれば分かっただろうに」


 指摘されなきゃ、なかなか気づけないことってあるよな。


「思い込みが激しすぎたのだよ」


 ということだ。

 が、サリュースには悔いたりするような様子は見られない。

 ひとしきり笑った後も楽しげに頬を緩めているほどだ。


 気づけて良かったとポジティブに考えているように見受けられる。


 実にサリュースらしいと言えるんじゃないかな。

 こういうところは見習うべきだと思うよ、ホント。


 ネガティブ思考も状況によっては必要なんだけどね。

 リスクのない今のような状態であれば、それはマイナスにしかならないもんな。


読んでくれてありがとう。

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