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1652 ちょっと事情が変わってきたかも?

「けどよぉ、そんな簡単に召喚なんてできるのか?」


 疑問を呈してくるランスロー。

 ガックリきたさ。

 今更そんなことを言ってくるのかとね。


 が、どうにか表に出すのは堪えましたよ。

 自慢するようなことじゃないんだろうけど、自分で自分を褒めたくなったのは事実だ。

 それくらいガックリきたのでね。


 かわりに納得したんじゃなかったのかよと内心でツッコミを入れておく。

 それくらいはしてもバチは当たらないだろう。


「スタークの感じからすると、かなり難しいようだが」


 それについては問題ない。

 難しいのは西方基準で考えているからに他ならないからな。

 まあ、そのままストレートに答える訳にもいかない。


「居場所を特定できない相手の場合はそうだろうな」


 ということにしておく。

 決してウソではないのでね。


 ハリーは小隊長の顔を知らないことになっているし。

 居場所も同様だ。

 そういう風にランスローたちには思われている。


 が、実際は顔も居場所もスマホで送信済みだから何の問題もない。

 座標が特定できれば場所ごと召喚するのみなので顔の情報も必要ないくらいである。


「そういうものなのか?」


「そういうものなんだよ」


「うーん……」


 いまひとつ理解しかねるといった様子で唸るランスロー。

 召喚魔法がどういうものであるのか知らないのだからしょうがない。


「場所を特定って言ったが漠然としていてもいいのかよ」


 一応は根拠があって疑問を感じていたようだ。

 これは俺の方が侮りすぎていたと反省すべきだな。


「そんな風に決めつけるのは良くないぞ、ランスロー」


 そう言ったのはハイラントだった。


「違うのか?」


「忘れているぞ。

 我々が例の騒動でどうやって移動したのかを」


 泥棒貴族の一件だな。

 ハイラントは騒動と言ったが、あれは事件だ。


 騒動と言いたくなる気持ちは分からなくもないけどな。

 フュン王国を統べる立場からすれば汚点以外の何物でもないのだから。

 目を背けたくもなるだろう。


「うっ」


 ランスローが顔を引きつらせる。

 指摘通りに忘れていたことを思い出しただけでは、こうはならない。

 ハイラントにそれを言わせたのは失敗だったと気づいたからこそであろう。


「影渡りか……」


 苦虫を噛み潰したような表情で絞り出すように言った。


「左様」


 対するハイラントは重々しく首肯するのみ。

 黒歴史からは逃げつつも、ランスローほど重く受け止めている訳ではないようだ。

 自分で後始末を付けたからなんだろうな。


「あれのように魔法で相手の居場所を把握する手段があるだろうよ」


「そういうことかぁ」


 腑に落ちたのだろうか。

 ランスローは肩を落としたかと思うと上を仰ぎ見た。


「魔法ってスゲえなぁ」


 それは俺もそう思う。

 日本人だった頃からは考えられないことが色々とできるようになったしな。


 何にせよ、ランスローにも納得はしてもらえたようだ。

 心構えという意味でも充分だろう。

 別の約1名に不安を感じなくはないがね。


 とはいえ、これ以上は待っていられない。

 ギャーギャーと騒ぎ出すようなら強制的に眠ってもらうとしよう。


「じゃあ、ノエル」


 特にオーダはしない。

 そんなことをするまでもなく種別も強度もお任せでオッケーだった。

 相手が相手だからな。


 とんでもなくヤバい悪魔とかだったらガッチガチに結界を張ることになっただろうけど。

 魔法も碌に使えそうにない普通の人間種なら適当で充分である。


 念のためってことだな。

 何か変わった魔道具を持っていることも無いとは言えないからね。

 さすがに自爆とかはしてこないだろうけど。


 魔物召喚の魔道具とかだったら面倒だ。

 穴から脱出されたり、魔物が襲いかかってきたりなんてことも考えられる訳だし。


 ノエルなら、どちらだったとしても余裕を持って対応するだろうけどね。

 それでもミズホ組以外の面子をヒヤッとさせる恐れがあることは封じるべきだ。


「ん、結界を構築する」


 言葉通りノエルがサクッと結界を張った。

 強度はそれほどでもないが、とっさの状況に対応できるように多重構造になっている。


 最も内側がもろい状態である。

 センサーの代わりとして構築されているせいだ。

 これが割られるようなことがあれば対応のために動くって寸法だな。


 そして次の結界で時間稼ぎをする。

 あとは残りの結界を強化するなり結界を増やすなりするって訳だ。


 まあ、万に一つぐらいしかそういう事態に陥るとは考えられないが。

 相手は他の衛兵と比べても突出した能力があるとは思えない小隊長なんだし。


 所作を見れば鑑定するまでもなく標準以下だと分かる。

 さすがに訓練を受けているから素人並みということはないのだけど。


 もっとも、その程度の実力しか持たない奴が突破できるほど柔な結界じゃない。

 何かしら切り札を所持しているなら話は変わってくるがね。


 ただ、それについても微妙なところだとは思う。

 セコそうなオッサンだし、高価な魔道具を用意しているとは考えにくい。


 用心深い奴なら分からなくもないけど。

 そういう風にも見えないしなぁ。


 なんにせよ、俺たちとしてはやるべきことを進めるのみである。


「でもって、ハリー」


「はい、召喚します」


 穴の底に光り輝く魔方陣が展開された。

 いつも俺がやっているのを見ているから真似をするのも完璧だ。


「……………っ?」


 だが、何か様子がおかしい。

 召喚魔方陣の光が増したのに召喚されないのだ。

 ハリーもわずかにだが首をかしげている。


 抵抗されているのか。

 あの様子だと召喚魔法の術式に相手が乗ってこないのかもしれない。


 些か見くびりすぎていたようだ。

 すぐに確認するために動く。

 何かあってからでは遅いからな。


『注意しろ』


 俺は念話でハリーに呼びかけた。


『何か防御系の魔道具か何かを持っているのかもしれん』


『魔道具……ですか?』


 表情ひとつ変えずに返事をしてくるハリー。

 だが、その念話には軽い驚きが含まれていた。


 俺と同じようなことを考えていたのだろう。

 小隊長については動画付きで皆に情報を回しておいたからな。


『使い捨ての身代わり人形やアミュレットくらいは持っているかもしれん』


『……修正します』


 少し考え込んだ後に返事をしたハリーは召喚術式の制御をより高度なものにした。

 イメージとしては網の目を細かくした感じだろうか。

 アイテムの効力ですり抜けようとしても逃がさないって訳だ。

 引っかかりさえすれば、どうとでもできると考えたみたいだな。


『ヒットしました』


 まるで釣りをしているみたいだ。

 イメージとしては地引き網の方が近いのだけど。

 獲物が単体だから、しょぼい気がしなくもない。


『ああ、気をつけろ』


 油断は禁物だがな。


『はい』


 とはいえ後は力業である。

 魔道具などの力で抵抗しようとするなら魔力を上乗せすればいい。


「来るぞ!」


 5国連合の面々に分かるように予告する。

 些か面倒なことになりそうなので注意喚起が必要だろうと判断した。

 ハリーが召喚魔法を強化させている間に相手のチェックをした結果だ。


「「「「「っ!」」」」」


 グッと身をこわばらせる5人。


 警告の声の大きさに驚いたか。

 それとも初めて見るであろう召喚魔法に緊張の色を濃くしたか。


 いずれかは不明であるものの腹に力がこもっていれば充分だ。

 これならイレギュラーが発生してもパニックを起こすことはあるまい。


「ノエル、結界の強化」


「ん、分かった」


「リオン、認識阻害をもう少し強めに」


「はいっ!」


「ルーシー、接近してくる野次馬は有無を言わさず眠らせろ」


 野次馬に構っている暇がなくなる恐れが出てきたからな。


「はいなの」


「幻影魔法担当は派手に動いてもいいように集中」


 現実と齟齬が大きくなるほど幻影魔法は制御が難しくなるからな。

 現実の方に意識が引きずられるせいである。


 何もない場所に空想で幻影を映し出す方がマシな場合もあるほどだ。

 いずれにせよ如何に集中するかが鍵を握っていると言えるだろう。


「了解です」


「ハリー、狙われる恐れが高いから留意しろ」


「はい」


 皆が俺の指示を受けて表情を引き締めた。


読んでくれてありがとう。

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