1650 5番と6番で打ち止めです
4番クジに当たったのは妖精組のハイケットシーである。
当人は凄く喜んでいた。
どうもクジ運が悪いらしい。
当たっただけで満足していたくらいだからな。
そのせいか仕事の内容はどっちでもいいと言っていた。
ということで穴掘りはトモさんが担当することに。
実は穴掘りがしたくて仕方なかったんだな。
モグラかよと内心でツッコミを入れたさ。
掘ってもらう穴はモグラが得意とするようなトンネル形じゃないんだけど。
一定の広さをドーンと押し下げる感じなのでね。
手桶型と言えばいいのかな。
とにかく分担が決まって打ち合わせが終われば穴掘りの実行である。
4番クジのケットシーが幻影魔法で巨大スクリーンを展開。
たとえ認識阻害をくぐり抜けても周囲からは偽りの像しか見えないようにしてもらった。
決してルーシーの仕事が雑だと思っているわけではない。
世の中には根性で驚異的なことを成し遂げる者たちが存在するからな。
そうそうミズキやマイカみたいなのがいても困りものだとは思うのだが。
これくらいの用心をしないと落ち着かないのは分かってもらえるだろうか。
ちなみに俺たちはスクリーンの内側にいるから穴の中もバッチリ見える。
まあ、持続性を優先させたのでミズホ組ならば外側からでも中の様子は確認できたろう。
5国連合やアカーツィエ組がいるからこその巨大スクリーンって訳だ。
そしてトモさんが魔法を使った。
「ドーンと行ってみよー」
やる気があるのかないのか分からない言葉とともに地魔法が発動する。
大きめの魔方陣が地面に展開され、その部分がググッと押し下げられていく。
そのせいか押込式のスイッチを連想してしまったよ。
スイッチと違ってバネは仕込まれていないので戻ってくることはなかったけどね。
「それ、呪文のつもりかい?」
「いえ~す」
無表情でノリノリの返事をしてくるトモさん。
なんにせよ肯定のようだ。
これを西方の魔法使いが聞いていたら、あんなのが呪文かと卒倒しそうな話である。
これは慣れが生み出した弊害と言えるかもしれない。
ミズホ国では無詠唱が基本だから、呪文に馴染みがないからね。
とっさに呪文が出てこなかったとしても無理からぬことだとは思う。
今更だけど部外者にこれが呪文ですよとアピールする必要性も感じないんだけどな。
少なくとも、この場にいる面子が相手であるならば。
とはいえ本人が呪文だと主張しているのだから否定しても仕方ない。
俺はそう思ったのだが……
「ちょっと、それはないんじゃない」
マイカにはツッコミを入れられていた。
「トモくんだったらこんなものだと思うけど」
フォローなのかディスってるのか微妙な発言をするミズキ。
「……………」
頭痛がすると言わんばかりの表情で小さく頭を振っているフェルト。
他のミズホ組は、それらを見聞きして苦笑するばかりだ。
俺もそのうちの1人ではあったが。
「何気に厳しい評価をいただきました」
なんてことを言ってくるトモさん。
「自業自得なんじゃないかな」
俺にはそう返すしかできないのだが。
それを受けたトモさんがクワッと表情を変えた。
「俺にどうしろと?」
芝居がかった驚きの顔のままで問うてくる。
「さあ? そんなこと言われてもなぁ」
俺にできるのは苦笑いくらいなものだ。
「同じ立場だったら俺もやらかしたかもしれんし」
ということなのでね。
まあ、この発言でトモさんが喜色満面になったのだけど。
「友よっ!」
何故かガシッと力強く握手してしまった。
まあ、その場のノリと勢いかな。
なんにせよ準備は整った。
いや、まだか。
この状態で小隊長を召喚したら5国連合の面々が騒ぎ出しかねない。
自分たちの話に夢中で穴掘りに気づいていなかったからな。
「おーい!」
5国連合の面々に呼びかける。
「準備完了だぞ」
「「「「「いつの間に!?」」」」」
5国連合の面々が驚きをあらわにする。
向こうからすれば、いきなり間近に大きな穴ができたのだから無理からぬところだ。
「決まってるだろ」
俺の方からは普通にツッコミしか出てこないんだけど。
「君らが騒いでる間に」
そんな訳で冷静に指摘するのみである。
だが、サリュースでさえ目を白黒させている。
「いやいや、この規模の穴とは聞いてないんだが」
どうやら驚いたのはタイミングよりサイズの方だったようだ。
他の面子に関しては、いずれであるか不明だが。
あの驚きようではどちらとでも受け取れる。
「サイズまでは明確に言ってなかったからな」
深さはそれほどでもない。
助走を付けてジャンプしても縁には届かないようにした程度だ。
そう、助走ができるくらいの広さがあるんだよな。
詰め所の床面積と同じくらいで指定した。
別に狭くても良かったんだけど、それだと対象が閉所恐怖症だったりしたら面倒だし。
パニック起こされて話もできない状態になられたんじゃ沙汰も言い渡せない。
結果が変わらないなら早く終わる方がいいよな。
「とにかく、次に進めるからそのつもりで」
有無を言わさぬよう、ちょっとだけ言葉に力を込めた。
文字通りの意味である。
「「「「「……………」」」」」
結果として5国連合の面々は硬い表情で黙り込んだのは言うまでもない。
殺気でないだけマシだと思ってもらおう。
延々と話し込まれても困るからな。
「5番クジは誰だー?」
スッと手が上がった。
が、少し低めである。
月影の面々の影に隠れて顔が見えない状態だ。
だからこそ挙手したんだろうけど。
それに気づいたリーシャたちがスッと脇によける。
そうして姿を現したのはノエルであった。
まあ、手を上げた時点で分かっていたけどね。
「おめでとう」
「ん」
短く返事をしてグッと拳を握る。
嬉しさがにじみ出ているな。
お陰で気合いが入りまくりである。
フンスフンスと鼻息が聞こえてきそうだ。
いつも以上に表情の変化が大きいことからも、それが伝わってくる。
相変わらず他人には無表情にしか見えないんだけどな。
「ここに?」
穴の底を指さしながらノエルが聞いてきた。
「そうなんだけど──」
言いかけたところでノエルが小首をかしげた。
自分が想定したのとは異なる仕事を割り振られるのだと察したのだろう。
ただ、それが何であるかがすぐには思いつかなかったようだ。
「ノエルにやってほしいのは結界だ」
「ん、分かった」
両手で拳を作ってますますやる気を増している。
「石橋を叩いて渡るのはいいこと」
「叩きすぎて壊したらアカンけどな」
アニスがボケの入ったツッコミを入れてきた。
そしてアハハと笑って自分で受けている。
「そんなことはしない」
気合いの入っている今のノエルには通じなかったけど。
「冗談やがな」
タジタジになりながらも苦笑いで応じるしかないアニスである。
「分かっている」
「えらく気合いが入っているわねえ」
レイナが些か驚きを隠しきれないといった表情で言った。
「当然」
フンスと鼻息まで漏らしながらノエルが返事をした。
「当然なんだ……」
よく分からないと言いたげにレイナが俺の方を見てくるが、俺にも分からん。
謎のやる気だ。
まあ、本人が本気を出すというのに水を差すこともあるまい。
「そんじゃ、次」
これでクジはラストだ。
つまり6番クジを引いた者が仕上げをすることになる。
誰かなと思っていたら──
「6番は自分です」
言いながらスッと前に出てきたのはハリーであった。
喋っているところを久々に聞いた気がするな。
いつもつかず離れずでいてくれるんだけど。
指示した訳でもないんだが、護衛をしてくれているのだ。
そのレベルで護衛が必要なのかと聞かれると何とも言い難いところではあるけれど。
本人がやりたがっているので任せている。
邪魔にならないように距離を考えて動いてくれるしな。
これで邪険にしたらハリーが際限なく落ち込みそうだ。
もちろん俺にそんな真似ができるはずもない。
読んでくれてありがとう。




