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1649 引っ張るために掘る必要がある

 お手伝い希望者が多すぎる。

 いくら仕事を分割しても全員に仕事を割り振るのは不可能だ。

 せいぜい数名分が限度だからな。


 それだけ暇したってことなのは分かっているので仕方ないとは思うけどね。

 そんな訳で──


「多すぎるから、クジ引きな」


 ということにした。

 反対意見は特にない。


 こういう時の定番はじゃんけんなんだろうけど参加者数が多すぎる。

 どう考えたって時間がかかりすぎるのが目に見えていた。


 故にじゃんけんによる選抜は不採用だ。

 クジだって普通は準備に時間がかかるところだとは思うけどね。


 そこはスマホを使いましたよ。

 こういう時のためにクジ引きアプリなんてのがある。


 主催者がアプリを起動して範囲もしくはメンバーを指定。

 該当者には参加を促すショートメッセージが送られる。

 参加希望者は返信するだけで参加決定。

 希望しない場合は制限時間内に返信しなければいい。


 これでクジ引きが始まるってアプリだ。

 結果は全員にメールで送られる。

 受け取ったメールの添付画像を見るまでは主催者にも結果が分からない。

 とまあ、割と凝った作りになっている。


 さっそく始めよう。

 アプリを起動して……

 制限時間は30秒ほどで充分だ。


 え? いくら何でも短すぎる?

 今回、同行しているミズホ組なら問題ない。


 カエデとオセアンには無理だが。

 そもそもスマホはまだ渡していないので、どうあっても参加できないけどね。


 で、ミズホ組全員にショートメッセージが送られるように範囲を設定っと。

 あとはスタートボタンを押すだけ。


 ポチッとな。


 これで待つことしばし。


「……………」


 じゃんけんで決めるより、ずっと早く終了だ。


「やりました!」


 リオンが1番を引いた。


「はい、おめでとう。

 さっそくだけど外からの視線を妨害してくれるか」


「はいっ」


 張り切って認識阻害の魔法を使い始めるリオン。

 これで野次馬も減ってくれるといいんだけどな。


 この程度じゃ散ったりはしないだろう。

 むしろ再び近寄ろうとするのが出てきかねない。


「2番は誰だー?」


「はいなの」


 シュパッと挙手したのは子供組のルーシーだった。

 はにかむ笑顔が嬉しそうだ。

 クジに外れた他の子供組のことを考えてか控えめではあるけどね。


「おめでとう。

 じゃあ、野次馬の監視を頼む。

 近寄るのがいたら今まで通りの手順で対応するように」


「はいなの!」


 ルーシーは元気よく返事をして監視を始めた。


「じゃあ、次は3番だな」


 するっと目の前に影が差した。

 わざわざ目の前に出てきたようだ。


「フヒヒ、サーセン」


 わざとらしく挙動不審に振る舞うトモさんだった。


「トモさんかいっ」


「フヒヒ、サーセン」


「大事なことじゃないのに2回も言わなくていいよ」


「フヒヒ──」


「それは、もうええっちゅうねん!」


 思わず裏拳ならぬ裏掌付きでツッコミを入れてしまったさ。

 漫画だったら「ビシッ!」とか書き文字が入ってそうだ。

 そして、これこそがトモさんの待ち望んだものだったのだろう。


「これだよ、これこれ」


 とか嬉しそうに笑っている。

 別に俺はお笑い芸人ではないのだが。


「そういうのは君の姉に振ってやれば喜ぶぞ」


「そうだったね」


 特に驚くでもなく返事をするトモさん。

 要するに今回は俺を指名してのネタ振りだった訳だ。


 ……いいけどさ。

 退屈していたせいで楽しみたい気持ちは俺も分からなくはないから。

 この状況下で延々と続けられると困りものだけどな。


 さすがに空気を読んで、これ以上のボケはしてこない。

 真面目な顔で指示待ちモードに入るトモさんだ。


「あー、とりあえず待機ね」


 俺がそう言うと──


「なんですとぉっ!?」


 大袈裟にのけぞるジェスチャー付きで驚いていたけどね。


「4番と組んで大きめの穴掘りだから」


「ああ、幻影魔法で穴を見えなくするためだね」


「そゆこと」


 察しが良くて助かります。


「では、3番クジの自分が幻影魔法かな」


 順番的にはそうなるが、その辺は臨機応変だ。

 4番クジの当選者と1セットで穴掘りということになるからね。


「そこは組む相手と相談して決めてくれればいい」


「了解した」


 トモさんがクジ引きで盛り上がっている場の方へ向かった。

 次の当選者と穴掘りの相談のために。


 穴を掘るのがどちらかを決めるだけでは終わらない。

 簡単ではあるが打ち合わせも必要だ。

 手順とかタイミングの合わせ方とかね。


 お手伝いをお願いした手前、自主性は尊重したい。

 穴のサイズとかは指定するんだけど。


 ミスがあった場合はもちろんフォローするさ。

 これは過保護と言うよりは周辺に与える影響を考慮してのことである。

 面倒なことになるのは勘弁願いたいからね。


「もしもし、ハルト殿?」


 と、ここでサリュースが声をかけてきた。


「何かな?」


「穴を掘るとはどういうことだろうか?」


 その疑問にうんうんと頷く5国連合の一同。

 アカーツィエ組も同じように頷いている。

 さすがに謎すぎて意味不明なんだろう。


「野次馬対策を念入りにしているところさ」


「ならば別に壁でも構わないのではないかな?」


「それだと俺たちまで壁の向こう側が見えなくなるだろう」


「全周囲を壁にすると?」


「そゆこと」


「何のためにそこまでするんだよ?」


 たまりかねたようにランスローが聞いてきた。


「焦りすぎだよ、ランスローくん」


 サリュースが苦笑交じりに指摘した。


「そうは言うがよぉ。

 謎すぎて訳が分かんねえじゃねえか」


「そうでもないよ」


「何ぃ?」


「ハルト殿は小隊長を呼び出すと言ったはずだよ」


「それと穴掘りと、どう関係があるっていうんだよ」


「逃がさないために決まってるじゃないか」


「はあっ!?」


 驚きと困惑とがない交ぜになった表情で素っ頓狂な声を出すランスロー。

 見事なまでに意味不明を顔だけでなく体全体から放出している。


「ふむ、簡易牢獄というところか」


 ルータワーが推測を口にした。


「なるほどな。

 穴でも壁でも逃げられないのは同じだ」


 ハイラントが追随した。


「でも、どうやって放り込むんです?」


 首をかしげながら疑問を口にするスターク。


「先に壁を作ってしまっては論外ですし。

 穴にしたって這い上がってこられないようなのは入ろうとしないでしょう」


 さらには反論までしてきた。


「そうだぜ」


 それに同意したのはランスローだ。


「下手すりゃ打ち所が悪くて死んじまう」


「そこなんだよ」


 ハイラントはそう言ってから頭を振った。

 どういう意図で穴を掘るかは推測できても、その先が分からない。

 お手上げ状態だと視線をルータワーに向けた。


「同じく、だ。

 どうするのかはサッパリ分からん」


 ルータワーは向けられた視線に向き合うことなくサリュースへと目を向けた。


「だから、掘った穴に呼び出すんじゃないかな?」


 それ以上は想像がつかないとばかりに肩をすくめてみせた。

 ガクッとずっこける5国連合の一同。

 見事にそろっていたせいでギャグ漫画かと思ったさ。


 あるいは某新喜劇。

 マイカやミズキが関西旅行を繰り返していたのは、これのためと言っても過言ではない。


 こういう時に俺まで連想してしまうようになったのは皮肉なものだ。

 それ系の話ばっかり聞かされたお陰だろうね。


「そこが肝心なんじゃねえかよ」


 どうにか立ち直ったランスローがツッコミを入れる。


「仕方あるまいな」


 頭を振るルータワー。


「ダメ元で聞いたのだし」


 その言葉を聞いてズッコケた一同はガックリと肩を落とした。


「何だよぉ、意味ありげに見るから期待しちまったじゃねえか」


 ランスローが文句を言うもののテンション自体は低めだ。


「同感だな」


 ハイラントも静かに同意した。

 スタークに至っては静かに嘆息するのみである。

 ズッコケた割りにはノリが悪い気がする。


 まあ、関西人じゃないからか。

 それを見ていたアカーツィエ組は、さもありなんという表情で淡々としていた。


 サリュースの返答が予測できたと言うよりは俺が何をするか分かっている様子である。

 このあたりは慣れの差が出ているな。

 一日の長ってところだろう。


 なんにせよ、そうしている間に穴掘りは完了していたんだけど。


読んでくれてありがとう。

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