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166 わかったこと

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


「そう落ち込むなよ」


 シヅカは肩を落として意気消沈。

 フェンリルも申し訳なさそうにしていた。


「ここまで綺麗サッパリ消え失せているとは思わなかったからな」


 匂いであれば納得もいく。

 が、雨などでは消せないはずの残留思念すら残っていなかったのは想定外。

 シヅカの眼力でも見通せずフェンリルの嗅覚でも魔力の痕跡すら感知できなかった。


「しかしのう……」


「最後まで追跡できないかもしれないと言わなかった俺のミスだ」


 月狼の友が帰郷した際に誰も発見できなかったと語っていた。

 狩猟がメインの生活をしてきたラミーナの一族である彼女らが地元であるにもかかわらず、である。

 こうなることは端から予測できていた。


「いやいや、手がかりひとつ得られなかったのは妾が未熟だからじゃ」


「それを言うなら俺もだぞ」


「なにっ?」


「俺もお手上げだからな」


 分かったことは残留思念の消失は失踪直前あたりからと思われることぐらい。

 集落の外のわずかな残留思念すら無に帰そうとするなど何が何でも無かったことにしたいのか。

 だが、徹底しているが故にポッカリと穴が開いたようになっており消したことがありありと分かる。

 近くに集落があるのだから消したのは住民の痕跡であるのは丸分かりだ。

 それしか分からないけどさ。


「なんと……!?」


 集落の中は生活していた痕跡があるにもかかわらず外に出た途端に何もない。

 痕跡の隠滅は徹底しており舌を巻くほどだ。


「ここまで綺麗サッパリ消されると調べようがあると思うか」


 返事はない。


「失踪前から周辺の残留思念を潰しにかかる連中だぞ」


 その徹底ぶりは偶然と言うには無理があり、何者かの意思によるものだとすれば単独での仕業とは思えない。

 ここまで来るとミステリー小説とかの世界だよな。

 つい思い出してしまったのはイギリスの名探偵が主人公の小説とか、その登場人物が犬に擬人化したアニメだ。

 が、名探偵を具体的にイメージしたくらいで能力を模倣できるはずもない。

 どれだけレベルが高かろうと望めど叶わぬことはある。


「なんにせよ、ここまでされたんじゃ何も発見できなくて当然だろう」


 未だに納得がいかないという顔をしているシヅカ。

 それでも理解はしたようだ。


「もっと広範囲で調べれば何か分かりそうなんじゃがな」


「やめておこう」


「時間的余裕がないか」


「それもあるが何の準備もせずに取り掛かると痛い目を見そうだ」


 これだけのことをした連中が深く嗅ぎ回る者を放置するとも思えない。

 根拠はないがそんな気がする。

 こういうときは勘に従うのが俺の主義だ。


「ではどうするのじゃ?」


「今日のところは帰るよ」


「むう」


 尻切れトンボになるのが嫌なのか唸り声を出したシヅカはムスッとした表情になってしまった。

 だが、それも一瞬のこと。


「仕方ないのう」


 苦笑したシヅカの声音からは不満の色が消えていた。


「あっさり引き下がるんだな」


「主の決めたことに従うのが一番良いように思えるのじゃ」


「嫌な予感がしたか」


「うむ」


 同意見というのなら迂闊な真似はしないだろう。

 俺も調査を継続する時は慎重にやらないとな。

 なんにせよ今日のところは終了だ。


「ご苦労さん」


 フェンリルにかき氷の報酬を出すが「いいの?」って目で見てくるだけで食べようとしない。

 デッカくて迫力ある顔をしているのに遠慮するとか忠犬か。

 思わず苦笑が漏れてしまう。


「遠慮しなくていいんだぞ。それはお前が真面目に頑張った報酬だからな」


 そう言うと嬉しそうにバタバタと尻尾を振った。


「次も呼ぶことがあったら、よろしく頼むな」


 ウォと軽く吠えてフェンリルは報酬のかき氷と一緒に消えていった。

 別にここで食わねばならないって決まりはないからな。


「さて、俺らも帰るとするか」


 シヅカの返事がない。


「どうした?」


「変なのじゃ」


「変?」


「わからぬか、主よ。こういう森では夜こそ獣が活発に動く時間のはずなのだ」


 情けないことに言われて初めて動物の気配がまるでないことに気が付いた。


「確かに、な」


 こんなことってあり得るだろうか。

 もしかすると俺も感知できないような何かが発生しているのかも知れない。


「長居はしない方がいいか」


「そうじゃな」


 周囲を警戒しつつ俺たちはその場から転送魔法で立ち去った。




 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ジェダイト王国の王城内に戻ってきた。

 転送魔法だから一瞬なんだが、それで一息つける訳でもない。


「何もないよな」


 周りの気配を探りつつシヅカに問うた。


「うむ。あの妙な雰囲気はあの場かぎりのようじゃ」


 あらかたが寝静まっているような時間帯であったが城全体から息遣いが感じられる。

 それを思えば大森林地帯は酷かった。

 指摘されるまで違和感を感じなかったのが怖いくらいだ。


 何にせよ互いに何もないことを確認し合ってようやく警戒を解いた。


「主よ、何かあったのか」


 怪訝な表情をしてツバキが問うてくる。

 ハリーなどはこのまま臨戦態勢に入るんじゃないかと思うくらい重い空気をまとってこちらを見ている。

 それだけ心配されているということなんだろう。

 いや、警戒感丸出しで帰ってくればそれも止むなしか。


「ああ。むしろ無かったと言うべきだがな」


 矛盾した返事にますますツバキの表情が怪訝さを増していく。


「意味が分からぬぞ」


「言葉通りだよ。何もなさ過ぎてヤバい感じだったのさ」


 そして大森林での出来事を説明した。


「──という訳だ」


「それは……」


「我々の手に余るのではないでしょうか」


 ツバキが言葉を失い、ハリーはお手上げだと即座に判断した。


『くうっくくー!』


 警戒警報発令! か。


 ローズは握り拳まで作っている。

 まあ、俺とのリンクで感じていることが伝わるからな。

 現場にいなかった者の中で最もヤバさを感じ取ったのだろう。


「しばらくは手を出さないさ」


 範囲が大森林から拡大されても敵わないし手は打つ必要があると思うけどね。

 要は適任者に丸投げすれば良いのだ。


「とりあえず今日のところは明日に備えて寝ようぜ」


 俺たちに割り当てられた部屋を見るとベッドがひとつ追加されている。

 シヅカの分をさっそく用意してくれた訳だ。

 さすがはガンフォールと言いたいところだが俺がいない間のことは自動人形の記録を確認しておかなきゃな。

 ボロを出すと転送魔法が使えることを知られてしまいかねないし。


 でも、今なら思ったほど驚かれないような気はする。

 逆に納得するかもな。


「そう言えば、ボルトがベッドを運び込んだ際に言っていたのだが」


 自動人形の記録を確認する前にツバキが声を掛けてきた。

 確認しそびれることがないようにということか。


「うん、それで?」


「王からの伝言と前置きして腹をくくったと」


「ガンフォールだけなんだな」


「ボルトは自分は王に従うのみと語っておった」


 主体性はないが腹はくくっているようだ。


「了解した」


 何か忙しくなりそうだな。

 明日はブリーズの方へ行こうと思っていたんだが。

 はてさて、どうしたものか。


読んでくれてありがとう。

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